タランティーノ監督VS中国検閲
映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、映画『キル・ビル』や映画『イングロリアス・バスターズ』などの作品を生み出したことで知られるクエンティン・タランティーノ監督の最新作。レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットが初共演したことでも非常に話題となった。日本では通称『ワンハリ』とも略される本作は、タランティーノ監督にとって歴代最高の興行収入を獲得するなど、世界中から話題を集めている。
そんな中、『ワンハリ』の中国国内上映に暗雲が立ち込めている。なんと、10月25日からロードショー予定だったにもかかわらず、上映が無期限中止されてしまうことに。
米Varietyによると、中止の理由は映画本編で登場する香港のアクション俳優、ブルース・リーの描写に対し、遺族から該当シーンを丸ごと削除してほしいという要請があった、という中国政府からの申し立てのため。それを受けたタランティーノ監督は、該当シーン削除を拒否。米Deadlineによると、配給元のソニー・ピクチャーズ・エンターテイメントはあえてタランティーノ監督の意思を尊重したという。
ちなみに、タランティーノ監督が2012年に公開した映画『ジャンゴ 繋がれざる者』も、中国公開前に検閲で上映延期に。その理由は映画があまりにも「暴力的」であったためだとされ、タランティーノ監督は要求をのみ、映画を再編集して1か月後に中国で公開させたという過去がある。
驚くべき中国検閲事情
最近では、アニメ『サウスパーク』が検閲により中国での配信および検索が禁止になったように、中国では様々な映画が突然中止になることがある。前売り券が発売されていようが、公開を翌日に控えていようが、その突然さはいつも世界を驚かせ続けてきた。
2015年には、映画『マッドマックス 怒りのデスロード』が、その「退廃したディストピア的世界観」のために、2015年には映画『クリムゾンピーク』が「お化けや超自然的な要素を含んでいた」ために、2014年の映画『ノア 約束の舟』が「キリスト教的表現がある」ために上映禁止になり、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は「タイムトラベル描写」のために上映禁止となった。もちろん暴力的描写が人気の映画『デッドプール』も「暴力的表現」で上映禁止。映画『ダークナイト』も上映禁止になったけれど、これは暴力表現が理由ではなく「文化的にデリケートな部分」があったため。
ちなみに、映画『ボヘミアン・ラプソディ』も「薬物利用シーンと男性同士のキスシーン」を削除しての上映に。
『ワンハリ』は、物語の中でカルト教団を扱っていたり、暴力シーンがあったりするなどの理由で検閲にひっかかってしまっているといわれているが、もう一つ上映できない理由が。ネタバレになるため詳しい説明は控えるが、シャロン・テート殺害事件を題材にした『ワンハリ』には、“過去の歴史を変えている”描写がある。2011年から、中国は過去に対する不敬な描写を規制する動きがあり、これも『ワンハリ』上映延期の原因の一つになったのではといわれている。
ちなみに、中国が規制しているのはハリウッド映画だけではない。国内の映画も簡単に検閲で上映禁止されてしまう。これまでも、映画『生きる』や映画『罪の手触り』などの中国国内事情をリアルに取り扱った作品が上映禁止になってきた。
中国という巨大マーケットは、映画市場においていまや重要なポジション。多くのハリウッド映画が中国で映画を公開するために同国のルールに合わせている時代に、タランティーノ監督が『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』にて、収益よりも自身のこだわりを優先させたことは大きな話題を呼んでいる。
ちなみに、今回の上映延期の正式な理由は、ブルース・リーの件も含めて中国当局から正式に発表されていないため、さまざまな憶測が飛び交っている。(フロントロウ編集部)