イギリス王室のフォトグラファーとして10年以上も王室メンバーを撮り続けている、ゲッティイメージズ所属のカメラマン、クリス・ジャクソン。2019年10月22日に行なわれた即位の礼にもチャールズ皇太子に帯同して来日した。そんなジャクソン氏は、16年前にゲッティイメージズで働き始めたときは、じつは営業職として働いていた。3億点近い写真を提供する世界最大級のデジタルコンテンツカンパニー、ゲッティイメージズが誇る最高のカメラマンのひとりの情熱にあふれた人生を取材。(フロントロウ編集部)

理系の学部を卒業、どうやったらプロカメラマンになれる?

大学では生理学部という、カメラとは全く関係ない分野を勉強していたジャクソン氏。そんな彼は、学歴に縛られることなく、自分自身で夢への扉を開ける道を切り開いていく。

ジャクソン氏:大学では3年間、生理学の勉強をしていたんだ。その一方で、学生新聞のカメラマンもしており、住んでいた家の地下にあった暗室で撮った写真を現像していたね。学位は別で持っていたけど、写真こそ僕の情熱だった。だからフォトグラファーになりたかったけど、機材を買うお金がなかったから、まずはゲッティイメージズに営業職で入社した。入社後にローンを組んで機材を購入して、それからは、週末や仕事終わりなど時間さえあれば撮影にあてていたね。デモの様子からニュース系のネタまで、あらゆるものを撮影した。

画像: Tim P. Whitby/Getty Images

Tim P. Whitby/Getty Images

入社1年半、プロのカメラマンになったきっかけ

営業職を続けて1年半が経った頃、そのあいだも次のステップへの準備を進めていたジャクソン氏は、再び行動を起こす。

ジャクソン氏:自分から上司に手紙を送ったんだ。「これが今まで僕がやってきたことです」と写真つきでね。その結果、最終的にカメラマンとしての仕事をもらえることになった。そしてあるとき、ロイヤルファミリーを撮る仕事を任されたんだ。色々な人に会って、本当に楽しくて、すごくしっくりくるものがあったね。世界を旅して興味深い写真を撮るという、自分がやりたいことにぴったりあっていたからね。それがきっかけとなり、どんどんとロイヤルフォトグラファーとしてのキャリアが築かれていったんだ。

王室専門カメラマンのキーワードは「人間関係」

ロイヤルフォトグラファーに求められるものとは?答えは、「カメラマンとしてのスキル」ではない。

ジャクソン氏:僕の仕事では、良い人間関係を築くことが不可欠だ。この15年ほどロイヤルメンバーそれぞれと世界中を飛び回ってきたけど、ロイヤルファミリーだけでなく、彼らのスタッフや、警備にあたる警察官といった、ロイヤルファミリーを支えるチームと良い関係を築くことの利益は大きいよ。相手が自分といてリラックスできないと、リラックスした表情は撮れないしね。学校や病院訪問といった、公式の式典に比べると親密なイベントでは、僕は一歩下がって観察者になるようにしている。そして絶好のタイミングを待つんだ。落ち着いて、まわりを見て、10歩先を予想することが大事だね。これから何が起こり、誰と会い、それはどんな展開になるか、光はどこから指しているかとかをね。そこに少しだけ運を足せばー運は自分で作れるときもあるけどねー方程式のできあがりだよ。それで上手くいくときもあれば、上手くいかないときもある。何が起こるかわからないというところは、この仕事の魅力のひとつだね。あと今はスピードが求められる時代になった。僕自身、現場からすぐに世界中に配信するエディターたちに写真を送っている。スムーズにいくように日ごろからエディターたちともコミュニケーションを取り合っているよ。

画像1: Chris Jackson/ Getty Images

Chris Jackson/ Getty Images

ロイヤルフォトグラファーならではの職業病

ロイヤルファミリーを被写体にするプロには、いったいどんなクセがあるのか?

ジャクソン氏:この仕事では、準備万端でいることがすごく求められる。なぜなら、ウィリアム王子とキャサリン妃が結婚式場から歩いて出てくるシーンは一生に一度しかないからね。しかも、ものの数秒だけ。準備たらずで逃してしまったら、一生後悔することになる。機材は整っているか、編集チームは整っているか、正しい位置にいるか、事前にきっちり確認しておく必要がある。そのせいでプライベートでは、妻と空港に行くときでも急いでしまうクセがあるね。だって自分の仕事は、列の先頭に立とうとか、つねに一番であることを求められる仕事だから。妻はもう少しゆっくり行こうと提案するけれど、僕は5時間前にはつきたがるんだ(笑)。荷物のパッキングだって数週間前に終えてしまうタイプだよ。予定より早く行動することと、列の先頭に立ちたがることが職業病だね。

スマホ文化による現場の変化

「新しいデジタル技術とか常に勉強をしている」と話す、勉強家のジャクソン氏。インスタグラムの台頭について、プロのフォトグラファーはどう思っている?

ジャクソン氏:この数年での変化は非常に興味深いと思っている。自分のストーリーを発信して人と出会えるという意味で、インスタグラムは素晴らしいツールだ。最近は誰もがクオリティの高いカメラやスマホを持っているしね。ただ、誰にだって写真は撮れるけれど、構図の良い写真が誰にでも撮れるわけではない。それにロイヤルフォトグラファーは、人間関係を築くことが重要なスキルとして求められるからね。僕としては、世界中の人とつながれるという意味でインスタグラムを重宝している。(王族が他国をまわる)ロイヤルツアーのときはストーリーやツイッターを使って現地の雰囲気を伝えるようにしているしね。テクノロジーの進化は素晴らしいよ。ただひとつ寂しいのは、ロイヤルイベントではみんながスマホを掲げているせいで交流や挨拶が少なくなっていること。ロイヤルファミリーが目の前にいるのに、顔の前にスマホを掲げるのは失礼だからね。

画像2: Chris Jackson/ Getty Images

Chris Jackson/ Getty Images

大手写真会社に所属する利点

ジャクソン氏は、25万人ものフォトグラアファーやクリエイターが参加しているグローバル企業、ゲッティイメージズに所属している。

ジャクソン氏:ゲッティイメージズの素晴らしいところは、世界中にチームがいることだ。例えば、日本のタイムゾーンにいる場合は、オーストラリアのエディターと仕事をすることができる。イギリスにいるときは、ロンドンの写真部に所属している10人ほどのスタッフたちと仕事をするんだ。今年はこのあとシアトルに行く予定があるけど、そこにも大きなオフィスがあるね。フォトグラファーは現場では1人で作業をしながら他人と競争する孤独な職業ではあるけれど、ゲッティイメージズでは、グローバルな会社に所属しているからこそ得られるネットワークや露出、見事な営業チームや世界中のメディアとの関係などは素晴らしいことだね。

プロカメラマンの卵にメッセージ

最後に、プロのフォトグラファーを目指す人々にクリス・ジャクソンからのアドバイス。

ジャクソン氏:フォトグラファーというキャリアはとても素晴らしいものです。ひと言にフォトグラファーと言っても、戦争カメラマン、ロイヤルカメラマン、報道カメラマンと、たくさんの種類のフォトグラファーがいる。しかし全員に、自分が伝えたい物語を伝えるチャンスが平等にある。王族のような有名な被写体がいなくても、想像力と個性さえあれば、その物語は君たちのまわりで見つけられるものなんだ。わいてきたアイディアを試してみて、ダメだったとしても失うものはないじゃないか。僕自身、何か面白いアイディアが浮かんだときには誰かに提案するなど行動に移さないと気が済まないタイプでね。インスタグラムがある時代には他人と違うことをするハードルは高くなったけれど、それでもチャンスはある。アイディアを出すことと、他人と違うことをすること。がんばりは必要な仕事ではあるけど、情熱とやる気があればキャリアを持てると思うよ。

画像: Tristan Fewings/Getty Images

Tristan Fewings/Getty Images

 「人間関係が大事」と何度も強調していただけあり、ジャクソン氏は取材中、最初から最後までフレンドリーで、良い雰囲気を作り出す中心的存在だった。情熱を胸に、チャンスを見つけ出し、それをつかむ行動力を持ち、次のライフステージに向かって努力を重ねて、ロイヤルフォトグラファーとしてのキャリアを確立したジャクソン氏。

 そんなジャクソン氏のロイヤルファミリーとの日々は、彼の公式インスタグラム(@chrisjacksongetty)からチェックできる。ジャクソン氏が自身でとらえたロイヤルファミリーの写真を厳選した写真集『Modern Monarchy: The British Royal Family Today』は現在発売中。

(フロントロウ編集部)

This article is a sponsored article by
''.