71年の伝統を守る
Netflixは、2019年11月25日、8月に閉館してしまったNYマンハッタンの映画館「パリス・シアター」を所有する不動産会社と契約し、Netflixオリジナル作品をメインに引き続き映画の上映を続けていくことを発表した。
パリス・シアターは1948年にオープンした劇場で、ニューヨークに残った最後の1スクリーンしかない小劇場。ちなみに、近くにあった1969年設立の1スクリーン小劇場「ジーグフェルド・シアター」は惜しくも2016年に閉館してしまった。
米Deadlineは6月下旬、パリス・シアターについて「何かドラマチックな展開が起こらなければ、劇場は閉館するだろう」と報じていたため、この発表は非常に喜ばしいもの。
パリス・シアターは1948年のオープンから、フランス映画やその他外国語映画などのアート系シネマを次々と上映してきた伝統的なミニシアターで、NYの住人から長らく愛され続けてきた。
ストリーミングサービスの影響や家賃の高騰などで、ミニシアター系の劇場の経営が困難になってきた昨今、そのストリーミングサービスの会社がミニシアター系の劇場を救ったことで、注目を集めている。
Netflixの最高コンテンツ責任者テッド・サランドスは米Indiewireに、「創立から71年がたったパリス・シアターは遺産といえますし、素晴らしい映画体験の目的地でもあります。我々は、この歴史的なニューヨークの施設を保存し、映画愛好家のための“ホーム”であり続けることができるのを、非常に誇りに思っています」とコメントしている。
Netflix作品はインターネットでの配信を中心としているため、いくつかの映画祭やコンペティションにノミネートできないという事情がある。例えば、アカデミー賞のノミネート条件は、「賞の1年以内に劇場で公開」。そのため、今回のパリス・シアターはノミネート条件を満たすためだと思われることも。ちなみに、昨年度のアカデミー賞に10部門ノミネートしたオリジナル作品の『ROMA/ローマ』は、2018年11月21日に劇場公開され、アメリカ国内の約100館で1か月程度上映された。
しかし、アカデミー賞ノミネートはさらに「ロサンゼルス郡内の映画館で連続7日間以上有料で放映された映画」という条件があるため、今回のパリス・シアター契約には直接関係ない。けれども、今後Netflixが様々な監督と契約するにあたって、劇場の保有は作品の展示という意味で非常に有利になるだろうと言われている。またNetflixは同時に、ハリウッドの老舗映画館である「エジプシャン・シアター」の買い取りにも着手している。
パリス・シアターでは現在、Netflixオリジナル作品でアダム・ドライバーとスカーレット・ヨハンソンが主演の映画『マリッジ・ストーリー』が公開中。『マリッジ・ストーリー』は日本でも2019年12月6日より配信予定。(フロントロウ編集部)