※この記事には、『塔の上のラプンツェル』のネタバレが含まれます。
『塔の上のラプンツェル』当初の悩み
全米で2010年に公開され、日本では2011年に公開されたディズニー映画『塔の上のラプンツェル』は、髪の長いプリンセスのラプンツェルが、閉じ込められていた塔から脱出し、大泥棒フリン・ライダーと「無数の灯り」が見える場所を目指すアドベンチャーなプリンセス物語。
そんな今作での名シーンといえば、ラプンツェルとフリンが「輝く未来( I See TheLight )」を歌う場面。無数のランタンに囲まれる幻想的な映像は、多くのファンを感動させた。このランタンのアイディアは、アニメーターたちにとっても制作過程でとても重要だったという。本作の監督ネイサン・グレノは、ディズニーの公式ファンクラブD23のマガジンDisney twenty-threeで、こう話した。
「『塔の上のラプンツェル』では、物語を終わらせることなくラプンツェルを外に出すにはどうすれば良いかと悩んでいたんです。もしヒロインが塔から出て世界を見たいだけであれば、彼女が数分間、地面に足をつければ映画は終わってしまう」
『塔の上のラプンツェル』ランタンのアイディア
本作は、ラプンチェルが外の世界に出るところで物語が終わるのではなく、そこから始まる物語。そこでどのようなストーリーにしようか悩んでいたところ、アニメーターの1人であるジョン・リパが、こんな提案をしたという。
「ジョン・リパが、『彼女がたくさんのランタンが浮かんでいるのを見たら?』って聞いてきたんです。彼はインターネットで、ランタンを空へ飛ばす映像を見たんだそう。そこでそれを僕たちにも見せてくれて、ただただ圧倒されましたね。それは、『塔の上のラプンツェル』を変えましたよ。
彼女が早めに塔を抜け出さなければいけないことを、私たちは分かってました。ジョンは、ランタンを見て惹き込まれるのはどうかと提案してきました。両親がランタンを飛ばしてくれるということは、ラプンツェルに両親との感動的な絆をあげることになります。もしラプンツェルが分かっていなくてもね。
そこで、一気に私たちは明確なゴールを得たんです。ただ、塔を抜け出させるという普通のものではなくね。ラプンツェルは、このランタンを見なくてはいけない。このアイディアは、『塔の上のラプンツェル』を完全に変えましたよ」
ランタンにまつわる、まさかのロマンチックな実話が
ジョンの発想により、明確な方向性が見えた『塔の上のラプンツェル』。そこで、製作総指揮のジョン・ラセターにアイディアをシェアしに行ったところ、なんとも驚きの逸話が。ジョンは、妻と結婚20周年の際に、タヒチのボラボラ島を訪れたという。2人と顔なじみになった滞在先の料理長はある日、こんなサプライズを用意してくれたという。
「彼は『特別なものをお持ちしました』と言って、私たちの20周年記念のためにランタンを1つ持ってきてくれたんです。私たちはお互いにちょっとしたメッセージを書き、ランタンの上にとめました。そして彼はランタンに灯りをともした。その時は夕暮れで、私たちはビーチにいて、とてもロマンチックでしたよ。
その後彼が、『キスして、それを放って』と言ったので、そうしました。すると、その美しいランタンはタヒチの美しい空に浮かびあがって、遠くへいきました。美しかった。その夜はビーチで夕食をし、ランタンが飛んでいき、小さくなって空の小さな光になるまで、2時間ほど見ていました。星のようでしたね」
「私の人生で起こったことで、最も素晴らしい出来事のひとつです」と、そのロマンチックな出来事を米Animation Magazineのインタビューで明かしたジョンは、「そこで、『塔の上のラプンツェル』でなにか特別なことをしようと話した時に、この出来事をチームのみんなに話したんですよ」と、アニメーターたちの間でランタンは偶然にもキーとなる物だったと話した。
ちなみに、『塔の上のラプンツェル』のランタンのシーンでは、なんと4万5,000個以上ものランタンが描かれているという。(フロントロウ編集部)