シスターフッドの強さを描いた『ハスラーズ』
2019年に公開された映画『ハスラーズ』は、ストリッパーとして働く女性たちが、リーマンショックという経済危機を引き起こした張本人であるアメリカの金融街ウォール・ストリートで働く富裕層が、その後も裕福な暮らしを続けていることに怒りを覚え、彼らからお金をだまし取る様子を描いた痛快クライム作品。
ジェニファー・ロペスやコンスタンス・ウー、リリ・ラインハート、リゾ、カーディ・Bが出演し、そのストーリーで高い評価を受けた今作では、元々は俳優だったけれど、映画『エンド・オブ・ザ・ワールド』で監督としての才能を発揮したローリーン・スカファリアがメガホンを取った。
ハリウッドを代表する女性たちが集結した今作は、もちろんフェミニズム要素もバリバリ。以前フロントロウがインタビューした際には、シスターフッド(女性同士の連帯)を描くことにも力を入れたと語ってくれたスカファリア監督は、撮影現場でも女性俳優たちを守るためにある行動をしていたことが明らかになった。
エキストラをクビにしまくった監督
本作でママを演じたマーセデス・ルールは、米News on Mediaのインタビューで、「あの若い脚本家兼監督には感銘を受けました。彼女は自分が何をすべきか分かっていた」と発言。そして、ストリッパーという役柄を演じた女性たちを守るために、監督がある厳しいルールに従っていたと話した。
「もちろんですが、映画はストリッパーたちについてでしたから、現場で多くのTとA(胸とお尻)が見えていました。だからローリーンは厳しくルールを作ったんです。あの撮影現場には、すべての女性たちに敬意を払う人しかいませんでしたよ。事実、女性たちが着る服が小さくなるほど、現場にいた男性たちは彼女たちのことを見なくなりました。というのも、それまでに数多くのエキストラが、女性に対して言った言葉や、いやらしい目つきで見ていたことが原因でクビになっていたので、女性をいやらしい目で見ているところを見られるわけにはいかなかったんですね。
ハーヴェイのこと(※)があった後の初めての現場でしたが、あの若い女性が、女性俳優たちへの敬意をしっかりコントロールしているのを見るのは興味深かったですね」
※アメリカの超大物映画プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインがこれまでのキャリアでしてきた性的嫌がらせ行為を多くの関係者が告発した事件。これがきっかけで#MeTooムーブメントが起こり、世界中の女性たちの間に広がった。
女性を守るために労働環境を変える
ハリウッド作品でのヌードシーンやベッドシーンなどの撮影に関しては、ここ数年でかなりの変化が見られている。映画『Booksmart(原題)』で初メガホンを取ったオリヴィア・ワイルドは、ベッドシーンの撮影では必要最低限のスタッフだけの入室を許可し、俳優が裸でいる間の撮影はセキュリティも強化したという。そして女性俳優たちには、「撮影現場では次から、今日私があなたたちにしたレベルのことを要求してね」と告げたことを明かしており、そういったシーンの撮影では“新しい基準”が必要だと語っている。
もちろん、男性俳優であってもヌードシーンなどはナーバスになるもの。しかし俳優でありフェミニストのダックス・シェパードは、女性は自慰行為の対象にされやすいと指摘。さらに、「撮影スタッフは、いつも80%以上は男だし、女性は男性よりも性犯罪を行なわないからね」とつけ加えた。
また、ある専門家の存在感も高まっている。それは、俳優たちが親密なシーンの撮影にのぞむ時に、彼らをサポートするインティマシー・コーディネーター(Intimacy Coordinator)という職業。Huluの新作ドラマ『The Great(ザ・グレート)』で主演を務めたエル・ファニングは、「私はこれまで彼らみたいな人と働いたことがなかったんだけど、いてくれて良かった」と、その安心感を口にした。(フロントロウ編集部)