前代未聞の「青色のカスタムドリンク」を作る様子を収めた動画を撮影し、TikTokで公開したスターバックス店員が即解雇処分となった。一体何が問題?(フロントロウ編集部)

スタバ店員が「青色のカスタムドリンク」を制作

 動画共有SNSのTikTokで最近人気となっているのが、現職、もしくは以前ファストフードチェーン店で働いていたというユーザーが、一般にはあまり知られていないオーダーの裏ワザや厨房の秘密などを紹介する動画。

 この流行りに乗って、あるカスタムドリンクのレシピ動画を公開したコーヒーチェーン、スターバックス(Starbucks)の店員が、即刻解雇されるという騒動が発生した。

 アメリカ・イリノイ州にある大型量販店ターゲット内のスターバックスに勤務していたあるバリスタが紹介したのは、漂白剤とされる液体や店で使用されているという青い粉、そして“無実の黒人の血”と称した赤みを帯びた色の液体をミックスした「ブルー・ライヴズ・マター(Blue Lives Matter)」を皮肉るカスタムドリンク。

 店のドリンク調合用ブレンダーに漂白剤とされる液体を注いだ店員は、「氷(アイス)も入れるよ。警官たちはアイスが好きだからね(※)」、「それから、無実の黒人男性の血も少々」などと解説しながら、“ブルー・ライヴズ・マター・ドリンク”と名づけた、決して飲んではならない飲み物を作ってみせた。

※トランプ政権下で移民たちに対して強硬策を取っている「移民税関捜査局/ICE(Immigration and Customs Enforcement)」にちなんだ皮肉。ICEは「アイス」と発音。

 TikTokで大きな注目を集めたこの動画は、ツイッターなどのほかのSNSでも拡散されたが、投稿者の店員が、たとえジョークであっても、店のマシーンに漂白剤らしき液体を投入するという人体に害を及ぼしかねない行動に出ていることや、BGMの欄にシンガーのマライア・キャリーの名曲「恋人たちのクリスマス」の英題をパロディした「All I Want for Christmas Is More Dead Cops.(僕がクリスマスに欲しいのはもっとたくさんの警官の死)」という物騒な文言を掲載していたことも問題視され、懲戒処分に。

 店員が勤務していたスターバックスを擁するターゲットの広報は、米Insiderを通じて声明を発表。動画内で漂白剤と称して使用された液体は、実際には漂白剤ではなかった可能性が高く、店員が顧客に“ブルー・ライヴズ・マター・ドリンク”を提供したわけではないとしながらも、「同社はこのような行動は許しません。すべての顧客が敬意をもってサービスの提供を受けるべきです」とコメントし、TikTokに問題の動画を削除するよう要請すると約束した。


「ブルー・ライヴズ・マター」とは?

 「ブルー・ライヴズ・マター(Blue Lives Matter)」とは、昨今、アメリカ全土および世界各国で激化している、黒人への人種差別や警察による有色人種への過剰な暴力の行使などに反対するムーブメント「ブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter/黒人の命も価値がある)」に対抗して作られたスローガン。

 警察官の制服の色であるブルーをテーマカラーに「警察の命も大切だ」と訴えるこの運動の参加者は、警察の人権保護、権力の維持を唱える一方で、じつは、過激な思想を持つ白人至上主義者であることが多い。

 一部には、“自警団”と称して武装し、ほとんどの場合平和的に行われているブラック・ライヴス・マターのデモ隊に向けて発砲するといった危険な行動に出るグループも存在し、問題視されている。

画像: 「ブルー・ライヴズ・マター」は、同じく「ブラック・ライヴズ・マター」へのカウンターである「オール・ライヴズ・マター(ALL Lives Matter/すべての命に価値がある)」と支持者層は近いが、「ブルー・ライヴズ・マター」は警察権力への支持や警察に対する暴力への反対に特化している。

「ブルー・ライヴズ・マター」は、同じく「ブラック・ライヴズ・マター」へのカウンターである「オール・ライヴズ・マター(ALL Lives Matter/すべての命に価値がある)」と支持者層は近いが、「ブルー・ライヴズ・マター」は警察権力への支持や警察に対する暴力への反対に特化している。

 8月末には、ウィスコンシン州ケノーシャで非武装の黒人男性ジェイコブ・ブレークが、自身の子供たちの目の前で、警察により背後から7回銃撃されるという事件が発生したことをきっかけに、ブラック・ライヴズ・マターの抗議運動が激化したが、ブレーク氏の事件が起きた3日後の8月25日夜に、武装した17歳の少年がデモ参加者に向かって発砲し、3人を殺傷するという事件が発生。

 軍仕様の半自動ライフルを発砲し、デモに参加していた男性2人を殺害、男性1人に重傷を負わせたとして起訴されているカイル・リッテンハウス被告(17)は、フェイスブックへの投稿などから、警察に強い関心や憧れを抱いていたことが分かっており、プロフィールに使われている写真などにも「ブルー・ライヴズ・マター」のロゴが確認できる。 

 これらの事件を受け、アメリカ国内では「ブラック」派と「ブルー」派の溝がますます深まっているが、前述のスターバックス店員が起こした騒動は、両者の軋轢を象徴する出来事だととらえられている。

画像: 8月29日に行なわれたケノーシャでのブラック・ライヴズ・マターのデモの様子。

8月29日に行なわれたケノーシャでのブラック・ライヴズ・マターのデモの様子。

 ちなみに、解雇されたスターバックス店員が“ブルー・ライヴズ・マター・ドリンク”のレシピに漂白剤と称した液体を使用したのは、ブルー・ライヴズ・マターの提唱者にはドナルド・トランプ大統領支持者が多いことと関連している。

 トランプ大統領は、4月に新型コロナウイルスの予防や治療として「消毒液のようなものを体内に注射できないだろうか?クリーニングのように」と発言。これがきっかけで「漂白剤がコロナに効く」というデマが出回ったが、実際にそれを信じてしまう人が続出したことを揶揄している。(フロントロウ編集部)

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