自由を求める動物達を描いた『ゴリラのアイヴァン』
実話を基にした小説『世界一幸せなゴリラ、イバン』を、ディズニーがアニメーション映画化した『ゴリラのアイヴァン』。アンジェリーナ・ジョリーが制作にも携わった作品が、2020年9月11日(金)より、ディズニーの動画配信サービスである「ディズニープラス」で独占公開される。
本作の主役は、ゴリラのアイヴァン。郊外のショッピングモールにあるサーカスで人気を博す大人気のシルバーバック・ゴリラ。ゾウのステラや犬のボブなど、仲間と一緒に毎日を過ごしていたある日、ルビーという名前の赤ちゃんゾウがやってきた。野生からサーカスに連れてこられたルビーと一緒に過ごすうちに、アイヴァンの中の奥底に眠っていたふるさとの思い出が記憶に蘇り、彼の心に変化が生まれる…。
『ゴリラのアイヴァン』が伝えるメッセージ
動物も“生きて”いる
新型コロナウイルスの影響で多くの人が自由には外に出られない生活を経験し、外出できない事が、予想以上にその精神に負担をかけることを学んだ昨今。では、人間の住居以上に狭い空間に閉じ込められているサーカスの野生動物達のストレスはどれほどのものなのだろうか?
現在、サーカスで野生動物の利用を禁じる法律があるのは、世界で約50ヵ国と見られている。ちなみに、日本にはサーカスにおける動物の利用を禁止する法律はない。また、本来野生動物は芸をするような生き物ではなく、サーカスだけでなく、例えば観光地で乗られるゾウなどは酷い調教を受けていることが多く、問題となっている。
プードルのスニッカーズを演じた大御所俳優ヘレン・ミレンは、記者会見でこう話す。
「自然と動物は私たちの人生と、病気における、とても大きな部分。なのに、私たちは、今になってようやくその重要さを理解し始めている。コロナウイルスは、それについての大きなレッスンになったと思う」
そんな本作を手掛けたテア・シャーロック監督は、サーカスのシーンではほとんど緑色を使わず、一方で子供のアイヴァンが自然の中を駆け回る回想シーンでたっぷりと緑を使い、アイヴァンの苦しさや檻の外へ出たいという切望を表現したという。アニメーションだからこその目に刺さるほど眩しい自然の映像は、一見の価値あり。
動物も人間と同じく、ただ息をして、ただ生きているわけではない。“生きる”というのは、自分の心を満たす自由の中で活動することだと、本作はそのストーリーや映像で、表現している。
人間に愛情がないわけじゃない
アイヴァンの飼い主であるマックは、アイヴァンが赤ちゃんの頃には一緒に家で暮らしていたほどで、アイヴァンを子供のように思っている。彼の心には、幸運なことに、アイヴァンを虐待したい、苦しめたいという思いはないどころか、アイヴァンが苦しんでいたら助けたいと思うほどだろう。
しかし、彼が動物達を使ってビジネスをしていたことは事実。人間であり、人間のために設計された社会で生きるマックと、動物であるアイヴァンの間には、どうしたって隔たりがある。そんな人間側のエゴや矛盾にも、本作はスポットをあてている。
若い世代の力
そんな本作でアイヴァンの心を理解し、彼のために行動するのが、子供のジュリア。アイヴァンが絵を描くきっかけを作るのも、彼の自由を取り戻すきっかけを作るのも、まだ幼いジュリアの行動力によって。その描写には、若い世代を支持する制作陣の意図があったという。アンジェリーナはこう語っている。
「若い世代の人たちは、今、世界で何が起こっているかを、とてもよく知っている。動物たち、自然の生態、コンゴ、ゴリラ、ゾウなどに何が起こっているのかを。そして彼らはそのことに怒っている。動物をどう扱うべきなのかについて、はっきり物言いをしたいと。捕獲するならどうするべきなのか。密猟はもちろん反対。この映画は、彼らの言葉を代表するものなの。アイヴァンのキャラクターが、それを象徴するの。(この映画を通じて)自分たちの行動で何かが変わるというのを見られるのは、とてもパワフルだと思う」
ジュリアを演じた現在13歳のアリアナ・グリーンブラットも、作品を通して学びが多かったと言い、原作者のキャサリン・アップルゲイトと対面した際には、「大切なことを教えてくださってありがとうございます」と話したという。
アニメーションという表現方法
本作でゾウのステラを演じたアンジェリーナは、制作にも携わっている。アンジェリーナといえば、長年動物の権利にも気を配っており、ファッションアイテムを購入する際にも、その過程で動物が傷つけられていないかを確認してから購入したり、ナミビアの野生保護区に約2億2,000万円(200万ドル)の寄付をしたりしてきた。
そんな彼女だからこそ、大事なメッセージを持つ本作の制作に深く関わりたいと、自ら制作陣にコンタクトを取ったという。そして重いテーマを扱うからこそ、子供向けのシンプルなものにし、最後には大人にも楽しんでもらえる作品に出来たことを嬉しく思っていると言い、アニメーションという表現についてこう分析する。
「アートとクリエイティビティが、ちゃんとわかって何かをやった時、それは人の心に届くもの。とても深い、パーソナルなところにね。さらに、それを分かち合うこともできる」
檻に入れられた動物の物語を重くないトーンで描く重要性と苦労は、シャーロック監督も制作の始めから感じていたそうで、「ドキュメンタリーみたいにしないことは大事だった」と話し、アニメーションにおける構図や色彩など、細かなところにまでこだわったそう。
人権問題もまだまだ問題が多いけれど、動物の権利にも、かなりの問題がある。子供から大人まで興味深く見ることが出来る映画『ゴリラのアイヴァン』は、そんな問題について話すきっかけを与えてくれる作品となっている。
『ゴリラのアイヴァン』
9月11日(金)よりディズニープラスで独占公開
(フロントロウ編集部)