コロナ禍で変わるアメリカの映画業界
2020年、映画業界は新型コロナウイルス感染拡大という非常事態に見舞われた。映画館の閉鎖や制作の中断により数々の映画制作会社やスタジオが重大な決断を迫られ、映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』や『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』など多くのビッグタイトルは2021年以降に公開が延期となった。
北米の映画市場における収益は、約76%減と言われており、アメリカのニューヨークとロサンゼルスの劇場は2020年3月ごろから現在に至るまで閉鎖が続いている。さらに、日本では好調なクリストファー・ノーラン監督の新作映画『TENET テネット』のアメリカ国内興行収入は約53億円という結果にとどまり、大幅な赤字が見込まれている。ちなみに同作品の全世界興行収入は、米Box Office Mojoによると約356億円。
そんななか、映画『ムーラン』やアニメ『ソウルフル・ワールド』など2020年に劇場公開予定だった作品をストリーミングでの配信へと変更し、マーベル映画『ブラック・ウィドウ』を2021年の公開へと見送ったディズニーが、大きな決断をすることを発表した。
大きな映像コンテンツを持つディズニー
米国10月12日、The Walt Disney Company(ザ・ウォルト・ディズニー・カンパニー)はメディアとエンターテインメント事業の全面的な組織再編をリリースした。
この組織再編は、同社の“モノ言う株主”として知られるアクティビスト投資家のダン・ローブ氏が、「年間約30億ドルにおよぶ配当計画を中止し、さらに多額の資金をストリーミング事業に投ずべき」という公式書簡を出した数日後に発表された。
ディズニーCEOのボブ・チャペック氏は、米CNBCとのインタビューで、今後は“必ず劇場公開する”という計画をもとにした映画制作はしないとコメント。これまで大作映画は映画館での上映がマストだったけれど、今後はストリーミングサービスでの配信、もしくは30ドルでのレンタルとしてリリースされる可能性もあり得るという、新しい方針を明かした。あくまでも最適なプラットフォームは時と場合によって判断される。
チャペック氏はさらに、「新型コロナウイルスが原因とは言わない。新型コロナウイルスがこの動きを加速させたとは言える。しかしいずれにせよストリーミングへの移行は起こっていただろう」と付け加えた。
ディズニーといえば、世界中で驚異的な興収を収めているマーベル・シネマティック・ユニバースや、映画『スター・ウォーズ』シリーズ、ピクサーのアニメーション作品など、ビッグな作品の権利を有している。ディズニーは過去10年間にわたって、他の映画会社が成し遂げられなかった興行収入を誇る会社であるため、そんな会社が今後の公開方針について新たな基軸を設けたとなると、今後の映画業界に大きな変化をもたらす可能性は高い。
日本では2020年6月から開始となったDisney+ (ディズニープラス)の全世界での有料会員は2020年8月3日現在で6050万人を超えている。今後、登録者数は億を超えると言われている。
大作映画の自社ストリーミングでの配信は、劇場に支払う配当金がないという利点も秘めている。
チャペック氏は、消費者に映画館で映画を楽しむことができるオプションを「継続して提供し続ける」とはしつつ、「同時に、安全で快適で便利な自分の家で映画を体験したいという消費者はたくさんいます」と語った。(フロントロウ編集部)