ダークなスーパーヒーローものである『ザ・ボーイズ』
Amazonプライム・ビデオのオリジナルシリーズである『ザ・ボーイズ』は、2020年10月時点で、米統計会社ニールセンが2020年7月からストリーミングサービスの週間閲覧者数ランキングを計測し始めて以来、初めてトップ10入りを果たしたNetflix以外のストリーミングサービスによるドラマとなっており、多くの支持を集めている。
腐敗したスーパーヒーロー軍団の「セブン」と、彼らを利用してビジネスを行なうヴォート社。そして腐敗したヒーロー達に立ち向かう、特殊能力を持たない非公式のグループ「ザ・ボーイズ」が登場する本作だけれど、シーズン2ではセブンの間でも対立が深まった。
『ザ・ボーイズ』クイーン・メイヴの葛藤
ドミニク・マケリゴット演じるクイーン・メイヴは、腐敗したセブンのなかでも、正義感と責任感を持つキャラクターであり、バイセクシャル。シーズン2ではそのセクシャリティをヴォート社に利用されることなり、そのなかには、エレナと付き合うメイヴをバイセクシャルでなくレズビアンと表現したり、女性同士のカップルのうち1人を男性的に、1人を女性的に描こうとしたりといったものがあった。
『ザ・ボーイズ』は、現実社会にもある問題をドラマを通じて批判したり、視聴者に疑問を投げかけたりしてきたけれど、クイーン・メイヴとエレナの描き方にも、もちろん熱い思いがあった。ショーランナーのエリック・クリプキは、米Colliderのインタビューで、現実社会の問題をこう指摘する。
「多くの企業がパフォーマンス的にウォークネス(※)をやっていますよね。なぜなら、それは企業の底上げに役立つと気がついたからです。でも私には、それはフェイクに感じられますし、企業が本当に人のことを気にかけていたり、ちゃんとした変化を求めていたりするわけではないでしょう。それは資本主義への愛とともにある。しかし資本主義にとって、それはまた別のマーケティングのスローガンでしかない。彼らが、あのキャラクターが歩んでいる緊張感のある日々を利用し、広告キャンペーンのためにまとめあげることは、多くの企業に起こっていることです。
同性愛者の女性だとカミングアウトすることですらね。ドラマが指摘したポイントは、彼女はバイセクシャルだということだったでしょう。でも(ヴォート社の)アシュリーは、『うん、レズビアンってことで。そのほうが分かりやすい』って感じで、あの企業は込み入ったことや複雑なことは見たくなくて、メイヴを型にはめようとした。『オーケー。あなたには女性的になってもらう必要がある。そしてエレナにはもう少し男性的に。なぜなら、それがみんなが好きな感じだから』ってね。彼女たちを、非常に人工的な役割のなかに当てはめることは、意味のあるサポートを提供しようとするよりも、企業が最もお金を作り出せることに繋がるんです」
※人種差別やLGBTQ+差別、性差別などの社会問題に対して関心があること。社会問題に関して「stay woke(目覚めて(ウォークで)いよう)」という呼びかけ方から派生した言葉。
LGBTQ+コミュニティが描かれる作品や、そのキャラクターが登場する作品は非常に多くなっている。もちろんそれはポジティブな影響を生み出しているけれど、一方で、企業がビジネスのために表面的にそれを利用することや、フィクションのキャラクターで偏った性格や背景ばかりが描かれるという別の問題点も浮かび上がっている。
そういった問題を痛烈に批判した『ザ・ボーイズ』。クイーン・メイヴは、シーズン2の最後には悩みの種だったホームランダーを黙らせることに成功し、ファンからはシーズン3でのさらなる活躍を期待されているキャラクター。『ザ・ボーイズ』シーズン3も、見応えのあるものになりそう。(フロントロウ編集部)