ジョー・バイデン氏の妻で教授であるジル・バイデン博士に対し、米The Wall Street Journalが女性蔑視発言を含む記事を公開。大きな批判があがっている。(フロントロウ編集部)

追記(現地時間12月18日)
米トーク番組『The Late Show(原題)』に出演したジル氏は、米The Wall Street Journalの記事について、「あれは驚きでした…(笑)。問題は話し方でしたよね。彼は私を“Kiddo”と呼んだんですよ。私が最も誇りに思うことの1つは、私の博士号です。そのために非常に努力しましたから」とコメントした。そのうえで、自分をサポートするために声をあげた多くの人々へ感謝の言葉を口にした。

ジル・バイデンは「博士」じゃない?

 (12月15日)アメリカ次期大統領のジョー・バイデン氏の妻であるジル・バイデン氏は、修士号を2つ得たあと、2007年に教育学において博士を得て、教授としてコミュニティカレッジで教鞭を取っている。博士という敬称は、英語ではドクターとなる。

 そんなジル氏に対して、米The Wall Street Journalに掲載された寄稿文が大きな批判を浴びている。そのコラムは、このように始まる…。

 「大統領夫人、バイデン夫人、ジル、君(Kiddo)。小さいながらも、不要な問題ではないことについてアドバイスをいいかな。あなたの名前の前につく“博士”を取ることを考えていないんですか?“ジル・バイデン博士”という響きは詐欺っぽい。コミカルとまでは言わないですが。あなたの学位は、教育学博士ですよね。デラウェア大学で得た教育学における博士ですが、その論文のタイトルはあまり良くなく、『コミュニティカレッジにおける生徒の定在:生徒のニーズとは』というものだ。賢人は過去に、出産を手がけなければ“ドクター”と呼ぶには相応しくないと言いました。このことについて考えてみてください。そしてドクターという敬称をただちに取ることを考えてください、ジル博士」

 この記事を書いたジョセフ・エプスタインは、つまり、ジル氏は教育学の博士(ドクター)であり、医学のドクターではないのだから、ドクターという敬称を名前につけるのは間違っているとした。

画像: ジル・バイデンは「博士」じゃない?

 また、エプスタイン氏は自分の経歴にも触れ、自分は学位だけで30年間ノースウェスタン大学の英文学部で教えてきたとし、さらに現在では博士号は過去にあったほど価値はないため、その敬称をつけるのはばかげたことだと主張。ちなみに、エプスタイン氏は過去に名誉博士号を得ているけれど、ジル氏が持っているのは論文提出がともなう博士号である。そしてエプスタイン氏が指摘する“博士号の価値低下”の原因の一つは、エプスタイン氏が所有するような名誉博士号が多く作られてしまったことにある。

 エプスタイン氏の口調、例えば、子供や自分より年下の人物に対して使われるKiddoを使ったことや、このような意見は男性相手には滅多に起こらないことから、エプスタイン氏の女性蔑視と捉えられる内容の記事およびThe Wall Street Journalがその記事を掲載したことに大きな批判が起こっている。

エプスタイン氏の元職場である大学が声明を発表

 エプスタイン氏のこの発言を受けて、ノースウェスタン大学が声明を発表。「ノースウェスタン大学は平等や多様性、包括性に強く責任を持っており、エプスタイン氏の女性蔑視な視点には強く反対します」とした。また、エプスタイン氏が教えていた英文学部も個別に声明を出した。

 「本学部は、本校で20年近く教えていない元非常勤講師が、ジル・バイデン博士の博士レベルの資格や専門知識に対する正当な使用に、価値のない中傷を行なう意見記事を公開したことを認識しております。本学部は彼の意見を拒否するとともに、どの大学のどの分野からでも、努力によって得られた学位を過小評価することを拒否します」

男性が「博士」を使っても問題にはならない

 博士(ドクター)という呼び名が、医学分野以外の博士資格にも使われるべきかどうかについては、長年、多くの意見が飛び交っている。しかし、フェミニズム研究者であり、英文学において博士の資格を持つジーナ・バッレーカは、自身はドクターという呼び名を使わないとしながらも、歴史的に、男性の間では医学分野以外の博士資格でもドクターという呼び名を使われてきたと、2020年4月に米TheWashington Postで指摘していた。

 「(ニクソン政権およびフォード政権の大統領補佐官である)ヘンリー・キッシンジャー博士、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア博士、(米テレビ番組『ドクター・フィル・ショー』の)フィル・マグロー博士、さらには(創作物の)ヴィクター・フランケンシュタイン“博士”も医学学位は持ってない」

 マーティン・ルーサー・キング・ジュニア氏の娘はツイッターで、「親愛なるジル・バイデン博士。私の父は医学以外のドクターでした。そして彼の働きは人類に多大なる貢献をしました。あなたの働きもそうです」とメッセージを送っている。

 また、様々な政治関係者からも批判の声が湧きあがっている。アメリカの次期副大統領カマラ・ハリス氏の夫で弁護士であるダグ・エムホフ氏は、エプスタイン氏がジル氏に対して行なった主張は、男性に対しては起こらないとした。

 「バイデン博士はハードワークと純粋な探求心をもってその学位を得ました。彼女は私の、彼女の生徒の、この国のアメリカ人全員にとってのインスピレーションです。これは男性に対しては起こらない言いがかりですよ」

 また、元ファーストレディであり、法務博士である弁護士のミシェル・オバマ氏も、女性が直面する問題についてコメントした。

 「8年間、多くのプロフェッショナルな女性たちが行なっている、1度に多くの責任を負い、それをマネージメントするということをジル・バイデン博士が行なっている姿を見てきました。彼女の教育責任から、ホワイトハウスにおける公務、母親、妻、友人としての役割までです。そして今、非常に多くのプロフェッショナルな女性たちに何が起こるのかを、私たちはみんなで目撃しています。ドクター、ミス、ミセス、もしくはファーストレディであっても。かなり多くの場合、私たちの功績は懐疑的にみられ、時にはあざ笑われます。私たちは、敬意の強さよりも嘲笑の弱さを選ぶ人たちに疑われる。そしていまだに、なぜか彼らの言葉はまとわりつき、何十年という働きの末にも、私たちはふたたび自分たちを証明しなければならないのです」

 ヒラリー・クリントン氏も、「彼女の名前はジル・バイデン博士です。慣れなさい」と、エプスタイン氏の意見を一刀両断した。

 今回、この問題の発端となったのはThe Wall Street Journalだったことで、他メディアからも批判の声が続出している。ちなみに、The Washington Postは、医学博士を含むどのような人物に対してであっても敬称を使わないと発表している。エプスタイン氏の記事について、The Wall Street Journalは取り下げる予定はないとしている。

 ジル氏は、この問題への直接的な言及は避けたが、ツイッターでこう投稿した。

 「連帯すれば、私たちの娘たちが成し遂げた功績が過小評価されるのではなく、祝福される世界を作り出すことができます」

(フロントロウ編集部)

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