マディー・ジーグラーの起用が「エイブルイズム」だと問題に
シンガーソングライターのシーアが初めて監督を務めた新作映画『MUSIC(ミュージック)』に俳優のマディー・ジーグラーを起用したことが「エイブルイズム(Ableism)」だとして問題視された。
2021年に公開される予定の映画『ミュージック』は、ケイト・ハドソン演じる中毒症状を克服した女性ズーが、義理の妹で自閉症の少女ミュージックの唯一の後見人となり、この世の中をどう生き抜いていくべきかを模索していくという物語となっていて、問題視されたのは、自閉症の少女ミュージック役にマディーが起用されたことで、これが「エイブルイズム」だとして批判が寄せられている。
「エイブルイズム」とは、日本語に訳すと非障がい者を優先する差別のことで、今回のケースでは、自閉症の役に自閉症ではないマディーが起用されたことが問題となっている。障がい者への差別はここ日本にも存在するもので、障がい者総合研究所が2017年に発表した「障がい者に対する差別・偏見に関する調査」によれば、日常生活において、「差別や偏見を受けた」と感じている人は59%いたという。
シーアが「エイブルイズム」だと認める
シーアは「エイブルイズム」ではないかとする批判が持ち上がってからも、一貫してそれを否定し続けてきたのだけれど、現地時間2021年1月3日に放送された地元オーストラリアのトーク番組『The Project』に出演した際、マディーの起用が「エイブルイズム」だったことを初めて認めた。「エイブルイズム」ではないかという批判に対し、シーアはこれまで攻撃的な姿勢でそれを否定を続けてきたため、炎上する事態となっていた。
番組のなかで、シーアは「これはエイブルイズムではないの。確かに、エイブルイズムではあるのだけれど、どちらかというと、えこ贔屓のようなものだったことに気がついた」と、ハッキリとは認めていないものの、マディーのキャスティングがエイブルイズムであることを認識していると述べた。
マディーはシーアが長年にわたって起用してきた俳優として知られ、マディーはこれまでに「シャンデリア」や「ザ・グレイテスト」など数々のシーアのミュージックビデオに出演してきており、シーアはそんなマディーを起用したことは「えこ贔屓のようなもの」だったと述べた上で、「マディーなしではできなかった。彼女がいなければ、私は芸術を作れなかった」として、『ミュージック』を制作する上でマディーに参加してもらうことが不可欠だったことを強調した。
シーアは番組のなかで、マディー本人が自分が自閉症の役を演じることで自閉症の人たちを「からかっている」ように思われてしまうのではないかと心配していたことも明かしている。
『ミュージック』の予告編はこちら。
実際に障がいを持つ俳優をキャスティングしようとしていた
「マディーなしではできなかった」としつつも、シーアは以前、自閉症の役に言葉を話すことができないキャストを起用しようとしていたことを明かしており、ツイッターでファンの質問に答える形で、「言葉を話すことができない素敵な若い女性と仕事をしようと試みましたが、彼女は居心地の悪さやストレスを感じてしまいました。なので、マディーをキャスティングしたのです」と、撮影現場に馴染めなかったことを明かしている。一方でこのシーアの主張に対しては、障がい者を主人公にした映画だからこそ障がい者が働きやすい環境づくりに努めるべきだという批判も一部で出ている。
I actually tried working with a a beautiful young girl non verbal on the spectrum and she found it unpleasant and stressful. So that’s why I cast Maddie.
— sia (@Sia) November 20, 2020
また、別のツイートでは、「ミュージックを障がい者だと言ったことはありません。私はこれまでずっと“特別な能力の持ち主”と言ってきましたし、彼女のようなレベルの能力の持ち主を起用することは親切ではなく、非情なことだと思ったので、私たちは愛を持ってできるだけそうしたコミュニティを代表できるように務めることにしたのです」と説明していた。
I agree. I’ve never referred to music as disabled. Special abilities is what I’ve always said, and casting someone at her level of functioning was cruel, not kind, so I made the executive decision that we would do our best to lovingly represent the community.
— sia (@Sia) November 20, 2020
アメリカの財団法人Ruderman Family Foundationが2016年にまとめた報告書によれば、2016年3月の時点で最も人気を集めていた10のテレビ番組に登場した障がい者のキャラクターのうちで、実際に障がいを持っているキャストが演じた割合はわずか4.8%だったという。
また、米PRNewswireは2019年、過去4年間でヒットした1,200本の映画に登場した4,445人のセリフがあったキャラクターのうちで、障がい者が演じたのはそのうちのわずか1.6%だったというデータを示している。障がい者を支援する非営利団体RespectAbilityで副代表を務めるローレン・アップルバウム氏によれば、アメリカでは人口の27.2%が何かしらの障がいを持っていることを自認しているといい、1.6%はそれに到底及ばない数字となっている。
「障がいについて言えば、そのレプリゼンテーションは未だに甚だ不十分なものであり、それは社会やハリウッドに蔓延している汚名によるものだと私たちは考えています」とRuderman Family Foundationの代表は2016年に米The Washington Postに語っており、社会やショービズ界における障がい者に対する差別は改善されなければならないと指摘している。(フロントロウ編集部)