2020年3月に最新アルバム『アフター・アワーズ』をリリースして以降、ザ・ウィークエンドのルックスはどんどん変化していった。ある時は、バンドエイドをつけてテレビ番組に出演し、またある時は、包帯グルグル巻きでアワードに出演して、「大怪我をしたのではないか」と世間をザワつかせた。その「病み系」なルックスを通じて、ザ・ウィークエンドは何を示そうとしたのか? スーパーボウルのハーフタイムショーで1つの区切りを迎えた、ザ・ウィークエンドのルックスの変化を考察した。(フロントロウ編集部)

ザ・ウィークエンドがハーフタイムショーで圧巻のパフォーマンス

 現地時間2月7日、フロリダ州タンパのレイモンド・ジェームス・スタジアムにてNFLの頂上決戦である第55回スーパーボウルが開催され、恒例行事のハーフタイムショーには、ザ・ウィークエンドが出演した。ハーフタイムショーでパフォーマンスを行なうことはアーティストにとって最高の名誉の1つとされており、これまでポール・マッカートニーやザ・ローリング・ストーンズ、マイケル・ジャクソン、レディー・ガガなど、そうそうたるアーティストがパフォーマンスを行なってきた。

 自身にとって初のハーフタイムショーへの出演となったザ・ウィークエンドは、ゲストを呼ばず、単独でパフォーマンスを行なったのだけれど、彼がゲストアーティストの代わりにステージに召集したのは、自身と同じ赤と黒の衣装に身を包み、顔を包帯でグルグル巻きにした大勢のダンサーたち。スタジアムには異様な光景が広がることとなった。

画像1: ザ・ウィークエンドがハーフタイムショーで圧巻のパフォーマンス

 思わずゾッとしてしまうようなメイクが施されたダンサーたちが登場するという演出は、実は、ザ・ウィークエンドが2020年3月にリリースした最新のスタジオアルバム『アフター・アワーズ』のミュージックビデオなどで描いてきたものと地続きのものとなっている。

 ザ・ウィークエンドとは、本名をエイベル・テスファイという彼のペルソナであり、彼が演じているアーティストのこと。「俺は『アフター・アワーズ』で取り組んでいることを、すべてのアルバムでもやろうとしていたんだ」とエイべルは昨年、米Rolling Stoneとのインタビューで語っている。「『アフター・アワーズ』ほど、ビジュアル面において、まとまりや特異性のあるものを作るための資源や予算がなかったというだけなんだよ」と続けて語るように、『アフター・アワーズ』におけるビジュアルが一体となったプロジェクトは、彼がザ・ウィークエンドとしてずっと表現したいと願ってきた芸術だった。

画像2: ザ・ウィークエンドがハーフタイムショーで圧巻のパフォーマンス

 ザ・ウィークエンドはハーフタイムショーへの出演を前に、米Varietyとのインタビューで次のように語っている。「頭に巻いた包帯は、ハリウッドセレブの馬鹿げたカルチャーや、自己満足や承認欲求といった表面的な理由だけで自分自身を操る人々を意味してるんだ」

 過去10年間でリリースした曲を集めたキャリア・スパン・アルバムとなる『ザ・ハイライツ』の国内盤を3月5日にリリースしたザ・ウィークエンド。彼はこの10年の間に、ハーフタイムショーにおいて単独でパフォーマンスを行なったことが象徴しているように、現代を代表するスターの1人となった。皮肉にも、彼がキャリアを通じて願ってきた、芸術でビジュアルを通じてハリウッドの文化に一石を投じたいという願いが叶ったのは、人気を得て自身も“ハリウッドセレブ”の仲間入りを果たし、潤沢な予算を得られるようになってからだった。

 ザ・ウィークエンドは、一連のフェーズの1つの締めくくりとなったこのハーフタイムショーのパフォーマンスに、約7億7,000万円(700万ドル)もの私財を投入したことを明かしている。億単位の資産を自由に操れるようになってもなお、彼が伝えたかったメッセージとは果たしてどんなものだったのだろうか?

 ザ・ウィークエンドが『アフター・アワーズ』のリリース以来演じてきたキャラクターがハーフタイムショーのフィールドに立つまでを、時系列を追って紹介しながら考察していく。

ザ・ウィークエンドの「病み系ルック」の変遷

ザ・ウィークエンドがラスベガスでハイに

 すべての始まりは、『アフター・アワーズ』からの最初のシングルとしてリリースされた「ハートレス」のミュージックビデオだった。

 「たくさん稼いだ金と名声のせいで俺は無情な男になってしまった」と、セレブとなったことで人間味を失ってしまった様が歌われるこの楽曲のビデオの舞台となっているのは、ラスベガス。黒のシャツとパンツに赤いジャケットを羽織るという、『アフター・アワーズ』のフェーズを象徴する衣装に彼が身に包み始めたのもこの時からで、ビデオは、ザ・ウィークエンドがお酒や葉巻などをたしなみながらラスベガスを思う存分楽しんだ後で、視界が歪んでいくというシーンで終わりを迎える。

 人々がお金を持って集まるラスベガスと言えば、「what happens in vegas, stays in vegas(ラスベガスで起きたことはそこだけの話)」というフレーズがあるほど、豪快にハメを外す場所として知られる。だからこそ破滅と紙一重にある場所である。

 そんなラスベガスは『アフター・アワーズ』の舞台の1つとなっていて、同作に収録されている「フェイス」では、「ラスヴェガスの大通りをよく見えないまま運転している/砂漠のネオンで目をやられるんだ/生きているって気がする」と、ラスベガスにいる時は生きている心地がすると歌われている。

クラブで顔面血まみれに

 続けて公開された「ブラインディング・ライツ」のミュージックビデオは、鼻や口が血まみれになったザ・ウィークエンドの顔のアップという、衝撃的なシーンから幕を開ける。ラスベガスでハイになったザ・ウィークエンドが猛スピードで車を飛ばして向かったのは、女性シンガーのもと。

 ザ・ウィークエンドはこの楽曲について、米Esquireとのインタビューで次のように説明している。「夜に誰かに会いたくなって、泥酔して、その人の所に向かおうと車を走らせながら、街頭に目が眩んでしまうんだけど、その人に会いに行こうとする気持ちを止められるものは何もないんだ。それだけ孤独を感じているということなんだよ」

 「ブラインディング・ライツ」は、「ちゃんと見えなくなるんだ/君がいないと」「眠れるわけがない/君のぬくもりを感じるまで」などと、心の拠り所として女性を求める気持ちが歌われている楽曲。ザ・ウィークエンドはこのビデオで、クラブで女性に近づこうとしたところをセキュリティに抑えられ、顔面を殴られて怪我をしてしまう。

バンドエイドをつけてテレビに出演

 ここから、徐々にミュージックビデオの世界とリアリティが融合していくことに。ザ・ウィークエンドは「ブラインディング・ライツ」のミュージックビデオを公開してから間もなくして米トーク番組『Jimmy Kimmel Live(原題)』に出演したのだけれど、ミュージックビデオの続きになっていると言わんばかりに、顔面に傷をつけたまま、鼻にバンドエイドをつけてパフォーマンスを行なった。

精神的なダメージを負うザ・ウィークエンド

 “ショートフィルム”とジャンル分けされたアルバムのタイトルトラック「アフター・アワーズ」のビデオはなんと、先述した『Jimmy Kimmel Live(原題)』のスタジオでのシーンからスタートする。

 このビデオでは、「ハートレス」や「ブラインディング・ライツ」のビデオで描かれてきたラスベガスの煌びやかな雰囲気はなくなり、一気に不穏なトーンに。ハイになった状態から我に返るかのように、傷の上に貼ったバンドエイドを抑えるシーンや、音としては届かない絶叫のシーンなどが描かれるほか、華やかなステージを降りて孤独を痛感したのか、涙を浮かべるシーンも。

 「必死に生きようとしても、息ができなかった/とても深いところへ堕ちていく」などと、心の拠り所としていた愛する人が離れてしまった喪失感を歌う「アフター・アワーズ」のミュージックビデオは、精神的にダメージを負ったザ・ウィークエンドが男女のペアとエレベーターに乗り合わせ、扉が閉まった後で女性の悲鳴が響くというショッキングなシーンで幕を閉じる。

ザ・ウィークエンドが首を切断される 

※このビデオには暴力的なシーンが含まれます。視聴にはご注意ください。

 「イン・ユア・アイズ」のミュージックビデオは、「アフター・アワーズ」の最後に描かれたエレベーターでのシーンから始まる。乗り合わせた時には、男性と女性がいたはずのエレベーターだけれど、エレベーターから外に出てきたのは女性1人だけ。ザ・ウィークエンドは片手に刃物を持っており、彼が男性を殺害したことが示唆されている。

 ザ・ウィークエンドから次の標的にされた女性は、彼から逃げようと試みるのだけれど、彼に追い付かれてしまう。女性は思わずザ・ウィークエンドに向けて刃物を振るい、彼の首を切り落とすという、ショッキングな展開に。

画像1: ザ・ウィークエンドの「病み系ルック」の変遷

 ビデオのクライマックスでは、まるでザ・ウィークエンドという有名セレブの“首だけ”でも持っていればステータスになると言わんばかりに、女性が切り落としたザ・ウィークエンドの首を持ってクラブで踊るという場面も描かれている。

傷だらけでVMAsに出演

 舞台は再び現実の世界へ。ザ・ウィークエンドは2020年8月に開催されたMTVビデオ・ミュージック・アワードにて、「ブラインディング・ライツ」のミュージックビデオが最優秀R&B・ビデオ賞(BEST R&B)を受賞。同曲のパフォーマンスをリモートで披露したのだけれど、傷だらけの「痛々しいメイク」で出演したことが話題になった。

画像2: ザ・ウィークエンドの「病み系ルック」の変遷

ザ・ウィークエンドの首がセクシーな男性の身体に

※このビデオには暴力的なシーンが含まれます。視聴にはご注意ください。

 切り落とされてしまったザ・ウィークエンドの首のその後が描かれたのは、「トゥー・レイト」のミュージックビデオだった。このビデオは、美容整形手術を受けた直後と見られる、顔を包帯で覆った2人の女性が、道路に落ちているザ・ウィークエンドの首を発見するという場面から始まる。

 “首だけ”にもかかわらず、ザ・ウィークエンドの顔面を「イケてる」と言って興奮した女性たちは、それを自宅へと持ち帰ることに。その後、別の筋骨隆々な男性を呼び出して、その男性を殺害。女性たちは男性の首を切り落とし、ザ・ウィークエンドの首をその男性の身体にくっ付けて、セックスを楽しみ始める。

画像3: ザ・ウィークエンドの「病み系ルック」の変遷

 まるで、「イケてる(と世間的にされる)」顔と身体さえあれば中身など関係ないと言わんばかりの、間違った美の基準に疑問を問いかけるような内容になっているこのビデオ。ちなみにザ・ウィークエンドは、LA=ハリウッドにおける女性と美容整形の関連性について、『アフター・アワーズ』に収録されている「エスケイプ・フロム・LA」で次のように歌っている。「LAの女の子はみんな同じように見える/見分けがつかない/同じ整形手術を受けているんだ」

AMAsで包帯グルグル巻きに

 再び現実世界の話へ。ザ・ウィークエンドは2020年11月にアメリカン・ミュージック・アワード(AMAs)の授賞式に出演。最多タイとなる3部門を受賞したザ・ウィークエンドだけれど、受賞結果以上に、パフォーマンスでお披露目された、頭に包帯がグルグルに巻かれた新たなルックスが話題になった。

画像4: ザ・ウィークエンドの「病み系ルック」の変遷

整形後の顔をお披露目

 ザ・ウィークエンドはなぜ、AMAsで包帯グルグル巻きになっていたのか。その答えが明かされたのは、「セイヴ・ユア・ティアーズ」のミュージックビデオ。どうやら、ザ・ウィークエンドは美容整形の手術を受けていたようで、このビデオでは、唇が強調されたような手術後の新たな顔がお披露目されている。

画像5: ザ・ウィークエンドの「病み系ルック」の変遷

 ザ・ウィークエンドがミュージックビデオのなかでパフォーマンスを披露するのは、『アフター・アワーズ』から公開された一連のミュージックビデオではこれが初めてとなっていて、美容整形手術を受けてようやく自信が持てたとばかりに、こなれた様子でパフォーマンスを披露しているのが印象的なビデオとなっている。

スーパーボウルのハーフタイムショーでクライマックス

 そして、ようやく包帯を取ることができたザ・ウィークエンドは、満を持して2021年2月に開催されたスーパーボウルのハーフタイムショーに出演。とはいえ、包帯こそ取れているものの、「セイヴ・ユア・ティアーズ」のミュージックビデオで描かれた整形後の顔はあくまでフィクションで、ザ・ウィークエンドは以前と変わらぬルックスでパフォーマンスを披露した。

 自ら7億円もの私財を投入して作り上げたステージで、整形後の顔をお披露目した「セイヴ・ユア・ティアーズ」をはじめ、同じく『アフター・アワーズ』より「ブラインディング・ライツ」、先日解散を発表したダフト・パンクとの「スターボーイ」と「アイ・フィール・イット・カミング」、セカンドアルバム『ビューティー・ビハインド・ザ・マッドネス』より「ザ・ヒルズ」、「キャント・フィール・マイ・フェイス」、デビューミックステープのタイトルトラックである「ハウス・オブ・バルーンズ」と、キャリアを代表する楽曲の数々をパフォーマンス。

 冒頭にも記したように、ハーフタイムショーのステージには、顔面に包帯を巻いたダンサーも大勢出演した。繰り返しになるけれど、ザ・ウィークエンドはこの演出について、「ハリウッドセレブの馬鹿げたカルチャーや、自己満足や承認欲求といった表面的な理由だけで自分自身を操る人々を意味してる」と説明している。

画像6: ザ・ウィークエンドの「病み系ルック」の変遷

 『アフター・アワーズ』のフェーズを通じて、ビジュアルでハリウッドにおけるセレブ文化や、人々の承認欲求を皮肉ってきたザ・ウィークエンド。今年のハーフタイムショーで彼が証明したのは、世間においてある種のスタンダートとされている基準に自分自身を合わせなくとも、世界最高峰のアーティストになれるということ。人々の承認欲求を擬人化した大量の包帯ダンサーたちは確かに目を引いたかもしれないが、人々を惹きつけ続けたのは、紛れもないザ・ウィークエンドその人だった。

キャリアを振り返るアルバム『ザ・ハイライツ』をリリース

 そんなザ・ウィークエンドは、ハーフタイムショー直前のタイミングとなった2月5日に、10年のキャリアを振り返るアルバム『ザ・ハイライツ』を配信でサプライズリリースした。本作の国内盤は3月5日にリリースされている。

画像: umj.lnk.to
umj.lnk.to

 本作には、ハーフタイムショーで披露されたほとんどの楽曲のほか、映画のサウンドトラックである『ブラックパンサー ザ・アルバム』に収録されているケンドリック・ラマーとの「プレイ・フォー・ミー」や、アリアナ・グランデとの「ラヴ・ミー・ハーダー」など、ザ・ウィークエンドのオリジナルアルバムには収録されていなかった楽曲も収録。まさに、ザ・ウィークエンドが現在のようなトップアーティストになるまでの軌跡を振り返る上で欠かすことのできない、“ハイライト”のようなアルバムとなっている。

<作品情報>

The Weeknd / The Highlights
ザ・ウィークエンド / ザ・ハイライツ
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国内盤品番:UICU-1327
価格:2,500円(税込2,750円)
歌詞・対訳付き
★国内盤ブックレットにはザ・ウィークエンドの年表を掲載

<トラックリスト>

1 セイヴ・ユア・ティアーズ
2 ブラインディング・ライツ
3 イン・ユア・アイズ
4 キャント・フィール・マイ・フェイス
5 アイ・フィール・イット・カミング feat. ダフト・パンク
6 スターボーイ feat. ダフト・パンク
7 プレイ・フォー・ミー - ケンドリック・ラマ―&ザ・ウィークエンド
8 ハートレス
9 オフトゥン
10 ザ・ヒルズ
11 コール・アウト・マイ・ネーム
12 ダイ・フォー・ユー
13 アーンド・イット(フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ)
14 ラヴ・ミー・ハーダー - アリアナ・グランデ&ザ・ウィークエンド
15 アクエインテッド
16 ウィキッド・ゲームス
17 ザ・モーニング
18 アフター・アワーズ

参考:
1, 2, 3, 8, 18: 『アフター・アワーズ』(2020)収録
11: 『マイ・ディアー・メランコリー』(2018)収録
7: V.A.『ブラックパンサー ザ・アルバム』(2018)収録
5, 6, 12: 『スターボーイ』(2016)収録
4, 9, 10, 13, 15: 『ビューティー・ビハインド・ザ・マッドネス』(2015)収録
14: アリアナ・グランデ『マイ・エヴリシング』(2014)収録
16, 17: 『トリロジー』(2012)収録

Photo: ゲッティイメージズ,Instagram,YouTube

(フロントロウ編集部)

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