プリングルズの新フレーバーは「味わえない」
1968年にアメリカで発売され、日本にも1994年に上陸したポテトチップスの「プリングルズ(Pringles)」。ちょびヒゲ&蝶ネクタイのMr. P(ミスター・ピー)ことジュリアス・プリングルズでおなじみの筒型パッケージに入ったチップスは、世界140か国以上で販売され、年間総売り上げは10億ドル(約1000億円)を超える。
これまでに100種類以上もの豊富なフレーバーが登場してきたけれど、プリングルズが新たに発表したフレーバーは、なんと食べることができない⁉
米プリングルズの公式ツイッターで発表されたのは、「CryptoCrisp(クリプトクリスプ)」と名づけられた新フレーバー。
Introducing our newest Pringles flavor: CryptoCrisp, an exclusive #NFT flavor created by artist #VasyaKolotusha. Only 50 exist, all starting at the price of a Pringles can. Click the link to get your *digital hands* on one! https://t.co/JA6Bas4Ez0
— Pringles (@Pringles) March 17, 2021
仮想通貨に詳しい人は、名前を聞いてピンと来たかもしれないけれど、じつは、この新フレーバーは食べることができないNFT(ノン・ファンジブル・トークン)。
“味わうことができない”新種のプリングルズに愛好家たちは言うまでもなく困惑している。
いま話題のNFTブームに乗っかる
「非代替性トークン」を意味するNFTとは、暗号資産(仮想通貨)に用いられるブロックチェーン(分散型台帳技術)を利用したデジタル資産。複製することができない独自の識別情報を持つ唯一無二のトークンとして、オンライン上のアート作品や楽曲、ミーム(インターネット上で流行する画像や映像、GIFなど)そして、ゲームやゲーム内のコンテンツなどの“原物”のデジタル証書的な役割を果たす。
デジタルアートは、これまで簡単にコピーできてしまうことから、現物として存在する絵画や彫刻といったアート作品と比べて希少価値が見出されにくく、オークションなどで取引されることもなかった。しかし、これを可能にしたのがNFT。
NFTは、世界にたった1つだけのデータ(デジタル・コンテンツ)に価値を付ける技術として注目され、2021年に入り、大きなブームを巻き起こしている。
最近では、さまざまな形式のデジタルコンテンツが高額で取引されており、最も高額なものでは、風刺的なデジタルアートで知られるアーティストのBeepleが自身のキャリアにおける最初の5000日間で製作したアートを集約した「The First 5000 Days」と呼ばれるNFTが3月11日に6900万ドル(約75億円)で取引された。
Christie's is proud to offer "Everydays - The First 5000 Days" by @beeple as the first purely digital work of art ever offered by a major auction house. Bidding will be open from Feb 25-Mar 11.
— Christie's (@ChristiesInc) February 16, 2021
Learn more here https://t.co/srx95HCE0o | NFT issued in partnership w/ @makersplaceco pic.twitter.com/zymq2DSjy7
NFTは著作権とはまったく別者。クリエイターにとっては、著作権そのものは保持したまま、オリジナル・コンテンツをNFT化してオンライン上のマーケットプレイスに出品したり、オークションハウス(競売会社)やギャラリーを介さずに買い手と直接やり取りして作品を販売できるため、収益の大部分を手に入れることができるという利点も。さらに、デジタル作品に印税をプログラムすることも可能なため、データが新たなオーナーに転売されるたびに収益の一部を受け取ることもできる。
NFTとして取引できるのは、アート作品や音楽だけに限らず、ツイートをNFTとしてオークションにかけたケースも。
ツイッター社の創設者であるジャック・ドーシー氏は、創業当時の2006年に投稿した初ツイートをNFTとしてオークションに出品。
just setting up my twttr
— jack (@jack) March 21, 2006
3月21日に入札が締め切られるが、記事執筆時点で最高入札者は250万ドル(約2億7000万円)の値をつけている。
ドーシー氏はNFTの収益を仮想通貨のビットコインに換金し、飢餓に苦しむアフリカの人々を援助するチャリティ団体「Give Directly」に寄付することを発表している。
プリングルズのNFTはいかほど?
話はようやくプリングルズに戻るが、1080x1080ピクセルのMP4ファイルとして50個が限定販売される「CryptoCrisp」のNFTは、ウクライナ人アーティストのVasya Kolotushaがデザインしたもの。
仮想コインがデザインされた黄金のパッケージがくるりと回転し、Mr. Pが20年ぶりのイメチェンで髪の毛を失う代わりにゲットした眉毛をピクッと動かす可愛らしい動作もいい味を出している。
「なんだ、食べられないのか!」とプリングルズファンからは落胆の声も上がっているけれど、流行りのNFTブームに乗っかったことで、プロモーション効果はばっちり。
NFTマーケットのRaribleを通じて競売に出されているCriptoCrispのNFTには、記事執筆時点で0.31WETH(※)(557.73米ドル/約6万円)の値段がついている。
※ビットコインに次ぐコインとして世界中で広く取引されているイーサリアム(ETH)が、統一規格であるERC20に変換するためのプロジェクト(Wrapped ETH)の略。
ちなみに、米Hype Beastによると、CriptoCrispの収益のすべては、プリングルズではなくクリエイターのVasyaに入るそう。(フロントロウ編集部)