ニュージーランドで流産を経験したカップルに有給休暇を付与するという法案が可決された。(フロントロウ編集部)

流産による悲しみから回復するための有給休暇

 ニュージーランド議会は、現地時間の3月25日、流産を経験した女性とそのパートナーに自動的に3日間の有給を付与するという法案を満場一致で可決した。

 ニュージーランドではこれまで、死産により子を失ったカップルに3日間の有給休暇が与えられてきたが、新たな法案の可決により、妊娠期間の長さに関係なく、流産も“忌引き休暇”の対象となる。さらに、この法案は、養子縁組により子を持つ準備をしているカップルや代理母出産によって子供を迎えようとしているカップルにも適用される。

 同法案の提案者であるニュージーランド労働党のジニー・アンダーセン議員は、「これは労働者の権利と公平さのための法案です。人々が流産による深い悲しみと向き合う時間を得られること、(社会における)流産に対する寛容さが促進されることを望んでいます」とツイート。

 流産に対して有給休暇が与えられるという法律の存在が「女性たちが、ただストイックに何とか人生を進めていくのとは対照的に、精神的、肉体的な悲しみから立ち直るために、もし必要ならば、そういった有給休暇をリクエストすることができるのだと自信を持つことに繋がればと願っています」と、米The New York Timesに語っている。


世界でも稀な“流産休暇”

 アンダーセン議員は、妊娠期間の長さに関わらず流産を経験したカップルに対して有給休暇が保証されるのは、ニュージーランドが「世界で初めてかもしれません」と語る。

 “流産休暇”が適用されるのは、世界でニュージーランドとインド、フィリピンだけ。インドの法律では女性が流産した場合に6週間の休暇が認められるが、ほとんどの労働者が取得条件に当てはまらないという。フィリピンでも女性のみへの適用となる。

画像: ニュージーランド労働党のジニー・アンダーセン議員

ニュージーランド労働党のジニー・アンダーセン議員

 日本では、流産休暇に直接該当するものはないが、労働基準法第65条の母性保護規定によると、雇用主は「出産後は8週間、女性を就業させることはできません」(※)とあり、この“出産”とは、妊娠4カ月以上(1ヶ月は28日として計算するため、正確には妊娠85日以上)の分娩をいい、死産や流産もこれに含まれるため、産後休業の対象となる。

※6週間は強制的な休業だが、6週間を経過した後は労働者本人が請求し、医師が差し支えないと判断した業務に就かせることは可能。

 英The Guardianによると、イギリスでは妊娠24週以降、オーストラリアでは妊娠12週以降に流産を経験した女性は、産後休暇として休暇を取ることができる。

 アメリカには流産に対して休暇を保証する法律はなく、それぞれの企業のポリシーに従うか雇用主と相談することとなる。


流産による悲しみは、病気ではなく「喪失」

 ニュージーランド保険省の統計では、流産は全妊娠の10~20%の頻度で起こるとされている。日本産科婦人科学会は、医療機関で確認された妊娠の15%前後が流産となるとしており、その確率は35歳で20%、40歳で40%と年齢を重ねるほど高まるともいわれる。

 流産は、深い喪失感や悲しみといった精神的な負担にくわえ、場合によっては、子宮内から胎児を出す掻爬(そうは)手術が必要となるなど、身体的な苦痛をともなうこともある。

 お腹の中でひとつの命が失われることは、妊娠した女性はもちろん、そのパートナーにとってもトラウマとなる辛い経験であり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や不安症、うつなどを引き起こす原因にもなり得る。

画像: ※イメージ画像

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 これまでニュージーランドでも、早期流産を経験した女性が休暇取得を望む場合には、傷病休暇を申請したり、通常の有給休暇を消化する、もしくは休職するといった方法が一般的だった。しかし、アンダーセン議員は「流産による悲しみは、病気ではありません。喪失なのです。喪失から立ち直るには時間がかかります。身体的な回復、そしてメンタル面での回復にも時間がかかるのです」と語る。

 3日という日数は決して多くはないが、妊娠期間の長さに関係なく、通常の有給や傷病休暇に手をつけずに安心して休む時間が取れること、そして、パートナーも一緒に有給が取得できることは、少しは励みになるだろう。(フロントロウ編集部)

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