ラッパーのリル・ナズ・XとMSCHFがタッグを組んでプロデュースした“悪魔のスニーカー”こと、サタンシューズ(Satan Shoes)が波紋を広げている。(フロントロウ編集部)

リル・ナズ・Xが“悪魔のスニーカー”をプロデュース

 2019年、異色のカントリーラップソング「Old Town Road(オールド・タウン・ロード)」が全米シングルチャートで驚異の19週連続でナンバー1を獲得し、さらに昨年のグラミー賞で初ノミネートにして2部門で受賞を果たしたリル・ナズ・Xが、米ブルックリン発のファッションブランド「MSCHF」とコラボして制作した「サタンシューズ(Satan Shoes)」に賛否両論が巻き起こっている。

 キリスト教の悪魔の名がつけられたサタンシューズは、ナイキ(Nike)が生み出した不動の名作スニーカー、エアマックス97ををカスタムしたもので、キリスト教において不吉な数字とされる666足限定で制作された。最大の特徴はソールのエアー部分に入った“赤い液体”で、米Wonderland Magazineによると、この謎の赤い液体にはMSCHFのスタッフによって提供された「人間の血」が1滴含まれているという。

画像1: リル・ナズ・Xが“悪魔のスニーカー”をプロデュース

 また、シューレースには悪魔崇拝のシンボルとされる上下逆さまの五芒星のチャームがついており、 サイドには666足のうちの1足であることを示す「◯/666」や、聖書の「ルカによる福音書」の10章18節を表す「LUKE 10:18」という文字が記されている。

画像2: リル・ナズ・Xが“悪魔のスニーカー”をプロデュース

 ちなみに、フロントロウでも以前お伝えしたが、MSCHFは2019年にサタンシューズと対比する「ジーザスシューズ(Jesus Shoes)」なるスニーカーもプロデュースしている。

 サタンシューズと同じく、ジーザスシューズもナイキ エアマックス97をカスタムしたもので、ソールのエアー部分には、イエス・キリストが洗礼を受けた地として知られるキリスト教の聖地、ヨルダン川からすくいあげた後に清められた“聖水”を使用。

 サタンシューズとは対照的に、シューレースには十字架に磔になったイエス・キリストのチャームがついており、かかと部分にあるプルストラップには、ユダヤ人の王/ナザレのイエスを意味する「INRI」、サイドには聖書の「マタイによる福音書」の14章25節を表す「MT. 14:25」という文字が記された神聖なスニーカーとなっている。

リル・ナズ・Xが挑発的な「謝罪動画」を公開

 じつは、このサタンシューズは、リル・ナズの新曲「MONTERO(モンテロ)」のミュージックビデオのプロモーションの一環として発売された。

 リル・ナズの本名であるモンテロと名付けられた新曲は、同性愛者同士のセックス、同性愛者であることを隠して生きることへのフラストレーション、カミングアウトをしていない相手を愛することの痛み、そしてセクシュアリティによる偏見や抑圧を受けずに生活できるストレート(異性愛者)の人たちへの嫉妬を、喜びと辛辣さを織り交ぜながら歌っている。

 また、同性愛者であることを公言するリル・ナズが自分のセクシュアリティを受け入れ、かつて自分を閉じこめていた力への拒絶を表現したミュージックビデオでは、地獄でポールダンスをしたり、サタンを相手にラップダンスを繰り広げたり、大胆かつエロティックなシーンが多く登場する。しかし、キリスト教には同性愛を排斥し続けてきた歴史がある。最近はそれも変わりつつあるが、このミュージックビデオの演出がキリスト教への冒涜だとして一部の保守派の人たちから批判を浴びることに。同様の批判がサタンシューズにも集まり、SNSを中心にバッシングを受けることになったリル・ナズは、後日、謝罪動画をYouTubeで公開。

 しかし、「リル・ナズ・Xがサタンシューズについて謝罪(原題:Lil Nas X Apologizes for Satan Shoe)」というタイトルがつけられた47秒の動画で謝罪をするパートは最初の5秒間だけで、その後、リル・ナズがサタンを相手にラップダンスをする「MONTERO」のミュージックビデオのワンシーンに切り替わる。つまり、謝罪動画というのはフェイクで、本当はリル・ナズからの“宣戦布告”だったというわけだ。

ナイキが関与を否定&訴訟を起こす

 そんなこんなで発売前から波紋を呼んだサタンシューズだが、一部のファンを除いて好評のようで、1足1,018ドル(約11万円)という強気な価格設定にもかかわらず販売開始から1分足らずで完売。

 だが、サタンシューズの“原形”であるエアマックスを販売するナイキは、悪い意味で話題になったサタンシューズのことを快く思っていないようで、「当社はリル・ナズ・XおよびMSCHFとは一切関係がありません。また、ナイキがこのシューズをデザイン、発売したわけではなく、当社がこれを推奨しているわけでもありません」と声明を発表。

画像: ナイキが関与を否定&訴訟を起こす

 さらに、ナイキがこの製品を認可または承認したと勘違いした人たちから「ナイキをボイコットしよう」という声が上がるなど、サタンシューズによって自社のブランドイメージが傷つけられたとして、MSCHFを商標権侵害や不正競争行為で訴える意向を明らかにした。ナイキは、訴状のなかで「ナイキはMSCHFによってカスタマイズされたサタンシューズを承認していませんし、認可もしていません。SWOOSH(※ナイキのロゴマーク)を付ける製品の決定は、MSCHFのような第三者ではなく、ナイキに属しています」と、MSCHFを強く批判している。

 ちなみに、ナイキはMSCHFがジーザスシューズを販売した際は、容認こそしていないものの黙認していた。(フロントロウ編集部)

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