フロントロウ編集部には子供を持つLGBTQ+の編集者がいます。東京レインボープライド2021のテーマ「声をあげる。世界を変える。Our Voices, Our Rights.」に合わせて、子供を持つLGBTQ+の編集者を中心に、子供をもうけるまでの道のりや、会社や同僚がアライとしてできることについて座談会を行ないました。(フロントロウ編集部)
画像: 子どもがいるレズビアンの編集部員に色々聞いてみた【フロントロウ編集部座談会】

※今回の座談会で出た質問は当事者の許可を取って選定してあります。
※座談会の後に出たやりとりの一部をアフタートークとして追加掲載しました。

LGBTQ+の子作り、方法や制度とは?

K:まずは、私と女性パートナーの間に子供ができた経緯をお伝えします。うちの場合は、私の卵子を取り出し、精子バンクから購入した精子を使って受精卵を作り、その受精卵を女性パートナーの子宮に入れるという、DNAは私、お腹で育てるのはパートナーという方法でやりました。英語だとReciprocal IVF(直訳すると相互交換の体外受精)と言われています。私の場合はイギリスに数ヶ月行って治療を行ない、現地で妊娠に成功して、子供は日本の病院で生まれました。

S:IVFを海外でやったのは、日本ではハードルが高かったからなんですか?

K:東京の大きな病院で相談したところ、「ゼロとは言わないが、医師会に所属している以上は倫理的に日本のほとんどの病院だとできないだろう」と言われたので、では海外に行こうと即決しました。後から聞いた話だと日本でも少なからず実施している病院はあるようなので、これはあくまで私の体験ですが。

S:日本の産科婦人科学会の規定では、第三者の精子提供を受けるAIDは無精子症の「法的に婚姻している夫婦」に限られているらしいですね。現状のシステムが、親になりたい人のチャンスを妨害してしまっている残念さを感じます。

K:そうですね。パートナー無しで親になりたい異性愛者の選択的シングルマザーだっているわけで、制度の再検討が必要ですよね。

F:お子さんの日本での法的な親子関係はどうなっているんですか?

K:子供は遺伝子的には私と血が繋がっていますが、日本では産んだパートナーが親となるため、書類上、パートナーはシングルマザー(ひとり親)、私は赤の他人という状態です。いつか同性間の結婚が合法化され、書類上も家族と認められる日がくることを願っています。

S:家族というフェーズに入って、法によるさまざまな差別が堂々と行なわれているのを見ると、なぜこれが許されるのかが不思議でならないです。今は書類上ではKさんはパートナーと子供とは他人になってしまうわけですよね? それによる不合理を経験したことはあるんですか?

K:過去の手術や今回の出産では、病院では“パートナーさん”として問題なく付き添えてきました。30代半ばで家族をもうけた私が今感じる一番の不合理は、結婚している夫婦が受けられる税制上の恩恵が受けられないことです。所得税の配偶者控除ができない、健康保険や厚生年金が被扶養配偶者としてカバーできない、生命保険に入ってもパートナーが法定相続人になれないなど。あと、子供が産まれたばかりの頃に“子供の親”でないと出来ない手続きが1つだけありまして、産後まもないパートナーが遠い場所まで手続きに行きました。その時は法律上の自分の価値の無さを感じました。

F:日々の生活の中で、LGBTQ+の親だから経験する苦労はありますか?

K:うちはまだ未就学児ですし、今はコロナ禍で他人との関わりが非常に少ないため正直あまりないですが、子供が学校に行き始めた時にどのような新しいチャレンジが待っているかは不安としてあります。

アフタートーク

S:子供の絵本事情って正直どうなんですか?

K:親になって初めて気づきましたが、子供たちが読む本は1つのイメージに非常に偏っています。同性同士の親が登場する本を探すのも難しいですが、ひとり親の子や親がいない子が登場する本もないに等しいです。そして本に登場するパパはいつもスーツ姿で、ママはエプロンをつけています。こういった本を読む子供たちは、このイメージに合わない子供をみたときにどう思いどう行動するでしょうか?

S:子供が見聞きするものの中で適切なレプリゼンテーションを行なうことを、私たちみんなで考えて変えていかないといけないですね。

ぶっちゃけ...治療費はいくらかかった?

K:私の場合は最初のカウンセリングから妊娠までに130万円くらいかかりました。ここには渡航費や滞在費は含まれないです。私はイギリスで滞在できる場所があったのでその費用がかからなかったのは大きかったです。滞在費もすごい金額になりますから。

S:小さな金額ではないから、ここがハードルになる人は多そうですね。

K:そうですね。私のやり方だと子供を作ること自体にお金がかかるので、実際にうちは経済的に2人目は厳しいなと思っています。

S:こういう負担を背負っていることはもっと知られるべきですし、そういった面での支援も社会として考えていかなくちゃいけないですね。

会社がアライとしてできるサポートとは?

K:会社からのサポートとしてまずは実務的なことで言うと、前例がないことだからと二の足を踏むことなく、こちらの事情に合わせて柔軟に対応してもらえたことは大きな助けになりました。海外から出来る仕事を一緒に考えてもらえて、その分の給与をもらえたことは経済的なサポートにもなりました。

そして実務以外のことで言うと、実際にこれが一番心強いサポートでしたが、会社をあげて100%応援してもらえたところです。これは、多様な人がいるのが当たり前だよね、という社内カルチャーがあるからこそだと思います。子作りのために私が現場からいなくなり穴が開くことに関して、“めんどくさい”や“大変”という雰囲気を出されたことは一回もなかったです。LGBTQ+に限らず、普段からそれぞれの事情をリスペクトするというカルチャーがあることは全員が働きやすい空間を作ることになるので重要だと再認識させられる経験でした。

F:みんなの反応が良い意味であっさりしてましたよね(笑)。「そうなんですね!いってらっしゃい!」みたいな。それにLGBTQ+だからとか関係なく、子作りといった私生活のことも応援してくれる会社なんだということがほかの社員にも伝わり、みんなにとってすごくポジティブな出来事だったと思っています。

K:渡英前にみなさんに子作り計画について話して「申し訳ないがこういう事情なので協力して欲しいです」とお願いしたあの時、みなさんの目に使命感のようなものが光ったのが強く記憶に残っています。私は、あれは当事者意識だったんだと勝手に思っています(笑)。

S:現地に行ったらいつどんなことをやるかとか細かく共有してくれたので、色々な可能性を考えながら相談して、早くから計画したし、上手くいきましたよね。LGBTQ+であってもなくても人は色々なライフステージを迎えるわけで、とくに多様性を受け入れる社会になれば、今よりさまざまなケースが出てくる。でも、ちゃんと話せる環境さえあれば、どれも大きな問題ではないと思っています。渡英中も、みんなサポートする強い気持ちで取り組んでいましたよ。イギリスからお菓子とか送ってくれたときには大盛り上がりでした(笑)。

K:エリザベス女王の顔のキャンディーでしたっけ(笑)。

F:盛り上がりましたねー! 逆にもっと「こうしてほしい」「こうだったらいいな」と思うことはありますか?うちの会社だけでなく、ほかの会社も含めて一般的にでもいいのですが。

K:健康保険料の補助のようなレベルの福利厚生ができる企業は限られているかもしれないですが、現在ある制度を改良することはどこの会社でもできることです。例えば、まずはマネジメント以上の社員がLGBTQ+にとって働きやすい職場にするための勉強をすることや、結婚・育児・介護休暇といった、すでに結婚している異性愛者のカップルに与えられている福利厚生をLGBTQ+の社員にも広げることなど。うちではLGBTQ+の社員で育休を取得したのは私が初めてでしたが、「いついつ子供が生まれるのでこれだけお休みください」「はい了解です」のような一つ返事で決まりました(笑)。そこら辺の交通整備は複雑ではなかったですか?

S:育休を取得してもらうにあたって、同性愛者のカップルであることで何か複雑さや難しさがあったかというと、100%ありません。200%と言えるぐらいです。そこに必要なのは複雑な手続きではなくて、会社側の正しい認識だけだと思います。

声をあげることの大切さ

S:プライドウィーク2021のテーマである「声をあげる。世界を変える」だけれど、子供ができた今、どのように声をあげている?何か変化はあった?

K:子供が生まれてからはカミングアウトすることの大切さを再認識しました。まずは存在しないと権利が得られない。そう思って、私は近所など地域で機会があるたびに2人ママであることをカミングアウトしています。

F:カミングアウトした時はどういった反応が多いですか? うちの会社の人たちはみんなとてもオープンですが、一般的にどうなのかが気になります。あと、ものすごく初歩的なことですが日常レベルで偏見や差別を感じることはありますか? 

K:初めて会った方にカミングアウトした時は、急に口数が減って距離ができてしまう方もなかにはいます。あと私は海外旅行が好きなのですが、新しい国に行く時は空港の入国審査前にその国で自分は存在することそのものが法律違反かどうかは調べます。小さいかもしれないですが、そういったシスジェンダーの異性愛者は経験しにくいであろう経験が生活の中でちょくちょくあります。テレビやインターネットはやはり差別的な表現がたくさんありますね。

S:Kさんはこれまでも声をあげてきたと思うけれど、子供が生まれてカミングアウトの大切さを再認識したっていうのは、どんなことが影響しているの?

K:子供が学校に行く時のことを考えるようになったからです。子供ができる前は会社や友人には言っていましたが、わざわざご近所さんや犬の散歩仲間など他人には自分たちがカップルだなんて言っていませんでした。でも、例えば今近所で10人にカミングアウトしたら、上手くいけば、子供が小学校にあがる頃には子供のまわりにアライが最低10人、さらにはその人たちが私たちについて伝えた人数分いることになるかもしれないと考えるようになりました。それが上手くいくかどうかはケースバイケースなので全員がカミングアウトするべきだと言っているわけではないです。ただ私の場合は現時点でやって良かったと思っています。

S:2人で積極的にカミングアウトすることで、きっといろんな反応があると思うけれど、LGBTQ+の親としてまわりから言われると嫌なこと、逆に言われると嬉しいことはどんなことなんだろう?

K:ママ2人の家庭なんだとカミングアウトした時に相手の反応で嬉しいのは、「へーそうなんですね」です(笑)。

S:へーそうなんですね!?

K:私たちが欲しいのは平等なわけで、例えば異性愛者の男性が「うちの子供と妻です」と言ったら「へーそうなんですね、お子さん可愛いですね!」ってなりますよね。だからその“普通”の反応が嬉しいです。

SF:なるほど!

K:言われて良い気がしないのは、バンクのドナー精子を使ったと伝えた後も「この子のお父さんは」といったことを言われるのと、自分が子育て中に取った行動について話した時に「まるでお父さんだね」と言われることです。これはLGBTQ+がどうのってより、子供には父親がいるもの、こういう行動は父親が取るものだという、差別につながる固定概念が裏にあるように感じられてしまって。

S:私たちはみんな社会に根づいた“普通”の中で育って生きているから、思わず出てしまう言葉に差別や偏見が含まれている可能性があると常に意識して気をつけたいところですね。

F:たしかに無意識の差別ってありますよね。そういう意図はなかったとしても、当事者の人からすると傷つく言葉や表現を使ってしまっていることって、きっとたくさんありますよね。

K:はい、そういった発言は当事者でさえしてしまう可能性があることなので、その自覚を持って、してしまった時は訂正してまたしないようにすることを私自身も心がけていきたいと思っています。

アフタートーク

K:たまに「自分たちのことを子供にどう説明するの?」と聞かれることがありますが、そのたびにはて?と思ってしまいます。きっと誤解があるのだと思うのですが、私が子供に説明するのは、なぜお母さんが2人いるかではなく、なぜみなさんにお母さんが2人いないのかなんです。というのも、うちの子にとっての“普通”は母親が2人いることなのですから。なので私は親として、母親父親がいる子もいれば、片方だけがいる子、父親が2人いる子、親がいない子など多様な家族のカタチがあり、みんな違うけどみんな一緒なのだと教えたいと思っています。

S:LGBTQ+に限らず、家族のカタチはひとつではないですからね。家庭によって事情はさまざまですし、普通・普通じゃないという軸で考えない姿勢は次の世代につなげたいバトンですね。

This article is a sponsored article by
''.