BRITアワードでテイラー・スウィフトから手紙を送られたグリフ
グリフへ。パフォーマンスの幸運を祈っているね。挨拶できる機会があるといいな。あなたの友達のテイラーより愛を込めて。
現地時間2021年5月11日に開催されたイギリス・ロンドンのO2アリーナで行なわれたBRITアワードにて、グローバル・アイコン・アワードを受賞したテイラー・スウィフト。テイラーは授賞式がスタートする前、同じくBRITアワードに出席していた、20歳のシンガーソングライターであるグリフに花を贈り、添えた手紙に手書きでそう綴っていた。
控室でテイラーからのプレゼントを見つけたグリフは最初、この手紙の送り主があのテイラー・スウィフトだとすぐには分からなかったという。「『私が忘れてしまっているテイラーがいるかな?』って思った」とグリフは米Vogueに話す。少し思いを巡らせた後で、あのテイラー・スウィフトだと気が付いたという。「『もしかしてテイラー・スウィフトだったりする?』ってね」。
テイラーから手紙を送られたことは、グリフにとって一大事だった。なぜなら、テイラーはグリフにとって敬愛するアーティストの1人であり、グリフが音楽の道に進むきっかけになったアルバムこそ、テイラーが2008年にリリースしたセカンドアルバム『フィアレス』だったから。グリフは様々なインタビューのなかで、初めて自分で選んで聴いたアルバムが『フィアレス』であり、9歳の頃には収録曲を演奏できるように練習したことを明かしている。
BRITアワードでライジング・スター賞を受賞
そのグリフはBRITアワードにて、日本出身イギリス育ちのリナ・サワヤマと、イギリス出身のラッパーであるパ・サリュをしのぎ、期待の新人に贈られるライジング・スター賞を受賞した。2008年に新設され、アデルが最初の受賞者となったライジング・スター賞の歴代受賞者は、フローレンス・アンド・ザ・マシーンやエリー・ゴールディング、サム・スミスなど後の大スターたちばかり。グリフは偉大なる受賞者たちの仲間入りを果たした。
他にもUKにおける新人アーティストの登竜門にノミネートされてきたグリフ
○英国作曲家協会が主催するソングライター・作家のための賞「アイヴァー・ノヴェロ賞」で新人賞にノミネート(2020年)
○英・BBCが選ぶ期待の新人賞「Sound Of…2021」で5位にランクイン(2021年)
ベッドルーム発の宅録D.I.Y.シンガー
ジャマイカ人の父と中国人の母親のもとに生まれたグリフ
イギリスはハートフォードシャー州のキングス・ラングリーで、ジャマイカ人の父と中国人の母のもとに生まれたグリフ。有色人種というマイノリティであったことが現在までの音楽活動に大きな影響を与えているといい、グリフは英The Guardianに次のように語っている。
「ジャマイカ人と中国人のハーフであることで、私たち家族は場違いのような環境に置かれていた。私は常に、人とは少し違うと感じてきたの。そんななかで、私にとって音楽がそれを受け入れる助けになった。今では、他のみんなと同じということほど最悪なことはないって思うようになった」
グリフはまた、アイルランドのHotPressによるインタビューのなかで、地域で数少ない有色人種として学校生活を送った経験について、次のように振り返っている。「私は学校で唯一の有色人種だったし、友だちグループでもそうだった。子どもの頃を通じて、私は少し目立ったり、奇妙な存在になったりすることに慣れたの。そのことは間違いなく、音楽作りや、少し変わったことをするという行為に心地よさを感じることに影響を与えた。私は自分を大衆から切り離すことができるの」。
12歳の頃から音楽制作ソフトLogicで楽曲制作をスタート
ビリー・アイリッシュが兄のフィニアス・オコネルと共に自宅で制作した楽曲で世界を制してみせるなど、今では宅録シンガーソングライターもすっかり珍しい存在ではなくなったけれど、グリフもまた、楽曲制作をすべてベッドルームで完結させてしまうような、そんな宅録シンガーの1人。6月18日にリリースされる最新ミックステープ『One Foot In Front Of The Other(ワン・フット・イン・フロント・オブ・ジ・アザー)』に収録されている曲もすべて、グリフがベッドルームで自らプロデュースを手掛けている。
父親がゴスペルシンガーだったグリフにとって、歌は幼い頃から身近にあったもので、毎週日曜日には教会で音楽を聴くという生活を送っていたという。そんななかで、幼い頃からピアノを習っていたグリフが本格的に楽曲制作に興味を持ち出したのは、両親が自身のきょうだいに、Appleの音楽制作ソフトであるLogicを買い与えたのがきっかけだったそう。グリフは豪Women In Popに次のように話す。
「12歳くらいの頃に使い始めて、当時はまったく上手ではなかったけど、ソフトウェアを研究して、どうすれば自分で曲を作れるかを学んだの。学校に通っていた時によく使うようになって、宿題をやらなければいけない時ですら使っていた」
早くから楽曲制作をスタートさせ、有色人種であることで“周囲と違うこと”に慣れたと話すグリフは、自分らしさに徹底的にこだわる、生粋のクリエイター。「ポップガールたちのマーケットはすごく飽和しているし、どれも似通っているところがある。だからこそ私には、他の人たちとは違うビジュアルや、他の人とは違うと感じてもらえるようなものを持つことが重要だった」とグリフは英Dorkに語る。「サウンドはなるべくミニマルにして、他のポップガールたちがやっていることとは違うものにしたかった。それが、私があらゆる点で達成しようとしているテーマだよ」。
そんなグリフのソングライターとしての才能が1曲にギュッと凝縮された楽曲の1つが、2019年にリリースしたデビューシングル「Mirror Talk」。高校在学中に一般教育修了上級レベルのテストを受けた直後にグリフが書いたこの曲は、なんとたった1時間で書き上げられたものだというから驚き。
YouTubeで配信している「Against the Clock」シリーズが人気を集める
そんなグリフが、幼い頃からの憧れだったというテイラー・スウィフトの目に最初に留まることとなったのは、グリフがYouTubeで配信しているシリーズ「Against the Clock」がきっかけ。このシリーズは、1時間という制限時間のなかで、グリフが他のアーティストたちの名曲を再解釈してプロデュースし直し、パフォーマンスするというもので、クリエイターとしてのグリフの魅力を思う存分に堪能できるシリーズとなっている。
「Against the Clock」シリーズにはこれまで、多くのアーティストたちをゲストとして迎えており、ホンネやバーディ、ニーナ・ネスビットらがコラボレーターとして参加している。
シリーズでこれまでに配信されてきた主な動画のリストはこちら。
グリフはシリーズの1つのエピソードのなかで、同じUK出身のシンガーソングライターであるメイジー・ピーターズを迎え、テイラー・スウィフトとボン・イヴェールによる「Exile」をカバーしたのだけれど、これがテイラー本人まで届くことに。
テイラーは、この動画を紹介した米Billboardのニュースをツイッターでシェアし、「元々2人のファンだったけど、スタジオで魔法を生み出す2人を見ていたら、将来の2人が作るものを聴くのがもっと楽しみになったよ。この動画はもちろん最高。嬉しい贈り物になったよ」と2人を絶賛した。
BRITアワードの衣装はお手製のもの
「ショップを見て回って、ピンとくるものがなかったから、自分の服は自分で作ってしまおうと思ったの」
2019年に英Vogueとのインタビューに臨んだ際、衣装の制作からスタイリング、撮影のディレクションまですべて自分でこなしたグリフがそう語ったように、何もかもを自分の手で作り出してしまうグリフの手にかかれば、衣装だってお手のもの。
憧れのテイラーと初対面を果たしたBRITアワードの授賞式で着用したドレスも、実はグリフが自分で作ったドレス。
元々ファッションにも興味を持ち、織物についても学んでいたというグリフは、アーティストとしてデビューしてからも自分で衣装を作ることに。その理由も、何でも自分で作ることを好むグリフらしいもので、米Vogueに次のように話す。「レコード契約を結んで、写真撮影に臨み始めた時に、スタイリストを使うといかにコストがかかるかということを知ったので、自分で作ったアイテムを撮影に持っていくことにしたの。『もしこれを使いたければ、ぜひ』っていう感じでね」。
ミックステープ『ワン・フット・イン・フロント・オブ・ジ・アザー』をリリース
そんなグリフは6月18日に、最新ミックステープとなる『ワン・フット・イン・フロント・オブ・ジ・アザー』をリリース。
ミックステープに収録されている、BRITアワードでも披露された「Black Hole」では、「心を失くして、真っ黒な穴が開いた/要らないもので埋めようと必死だったけど/そんなの上手くいかない、簡単じゃない/あなたが開けた穴を埋めるなんて」と、愛する人と離れてしまった切なさを歌い上げているグリフだけれど、実は自身には恋愛経験がないのだという。
誰もが共感できる楽曲の作り手に
それでも誰もが共感できる曲をグリフが書くことができるのには理由があり、グリフは意図してこうした曲作りを行なっているそう。「聴いている人にとって、その歌声が自分たちの人生や置かれている状況と共鳴してくれていたら、助けになるでしょ」とグリフは英The Line Of Best Fitに語っている。
とはいえ、グリフが目指しているのは、シンガーソングライターとしてのさらなる高み。「それは、私にできる唯一の曲作りの方法でもあるの。必ずしも全員は共感できないような、ニッチなシチュエーションについての曲は書くことができないから」と、ソングライターとしての自身を冷静に分析するグリフは、英The Line Of Best Fitに次のように話す。
「(聴いた人が曲の題材について)あらゆる細かいところまで把握できるアーティストに私はなりたい。テイラー・スウィフトの『フォークロア』にはすごく刺激を受けた。というのもあのアルバムは、必ずしもテイラー自身のことを書いているわけではないのに、テイラーはものすごく緻密に、物語を詳細に描いていたから」。グリフの目は、シンガーソングライターとしての頂点を見据えている。
<リリース情報>
Griff/グリフ
『ワン・フット・イン・フロント・オブ・ジ・アザー(One Foot In Front Of The Other)』
<収録曲>
1. Black Hole
2. One Night
3. Shade Of Yellow
4. One Foot In Front Of The Other
5. Dreams
6. Earl Grey
7. Walk
Photo:ゲッティイメージズ,©︎Griff/Instagram
(フロントロウ編集部)