ブルーノ・マーズ、リアーナ、テイラー・スウィフト、ハリー・スタイルズ…。今活躍するアーティストは、プリンスの影響を通って作られてきた! 未来を見てきたのかと言えるほど時代を超越していて、後世にインパクトを与えてきたプリンスを今きちんと知るべき理由を解説。2021年7月30日にリリースされたプリンスの幻の新作『ウェルカム・2・アメリカ』で綴られる、10年以上前に書かれたとは思えないタイムリーな歌詞を読みながら、プリンスが持ち続けてきた先見性を振り返る。(フロントロウ編集部)

現代のアーティストに多大な影響を与えた“革新者”プリンス

 2016年4月21日、プリンスという偉大すぎるアーティストの訃報に世界が打ちひしがれた。享年57歳だったプリンスは常に時代の最先端を歩み続け、その影響は現代を代表する多くのアーティストたちにも受け継がれている。

画像: 現代のアーティストに多大な影響を与えた“革新者”プリンス
画像: フランク・オーシャン

フランク・オーシャン

「彼は初のテレビ出演でビキニのボトムスとニーハイのハイヒールを履いた、ストレートの黒人男性だった。英雄だよ。ジェンダーの役割といった時代遅れの考えに従うことなく、自由に振る舞っていた彼のおかげで、僕は自分のセクシャリティをすんなりと受け入れることができた」

Tumblrより。

画像: ジャスティン・ティンバーレイク

ジャスティン・ティンバーレイク

「(プリンスは)『生涯に1人』のアーティスト以上の存在。『永遠にたった1人』のアーティストなんだ」

Instagramより。

画像: リアーナ

リアーナ

「多くの人たちが、プリンスがきっかけとなって音楽を作り始めたし、聴き始めた」

2016年4月21日にプリンスが亡くなってから初めて行なわれた自身のライブにて。

画像: ブルーノ・マーズ

ブルーノ・マーズ

「プリンス、あなたは僕のヒーローです。他の誰に『違う』と言われようとね。例えあなたにそう言われても。あなたの偉大さを目撃できたことを幸運に思います」

Twitterより。

プリンスの影響力は世界のリーダーたちにも

 プリンスが影響を与えたのはエンターテイメント業界のみに留まらず、政治家や企業家たちにも大きな影響を与えている。

画像: バラク・オバマ元米大統領

バラク・オバマ元米大統領

「『強靭な魂はルールを超越する』プリンスはかつてそう言った。彼以上に強く、大胆で、クリエイティブなスピリットの持ち主などいなかった」

Twitterより。

画像: ティム・クックApple社CEO

ティム・クックApple社CEO

「プリンスは真のイノベーターであり、唯一無二のアーティストだった」

Twitterより。

入門編!プリンスのプロフィールをサラッと振り返る

画像: 2004年に行なわれた第46回グラミー賞授賞式でプリンスと共演したビヨンセも、プリンスを敬愛する1人で、プリンスが亡くなった後に刊行された写真集『プリンス写真集 A PRIVATE VIEW』の序文をビヨンセが執筆している。

2004年に行なわれた第46回グラミー賞授賞式でプリンスと共演したビヨンセも、プリンスを敬愛する1人で、プリンスが亡くなった後に刊行された写真集『プリンス写真集 A PRIVATE VIEW』の序文をビヨンセが執筆している。

アルバム累計1億2千万枚以上のセールスを記録

 セールスや受賞歴などの数字は、アーティストの偉大さを示す1つの側面に過ぎないが、アルバム累計で1億2千万枚以上売り上げたという事実だけでも、プリンスがいかに多くの人に聴かれてきたかが分かる。

 アルバム100枚相当分の楽曲を残して亡くなったとも言われているプリンスは、最も多作なアーティストの1人で、スタジオアルバムだけでも39枚のアルバム(サウンドトラック4作品)を発表。また、殿堂入りも果たしているグラミー賞においては7度の受賞歴を誇っている。

作詞作曲・プロデュース・アレンジ・マスタリング・演奏をすべて自分でこなす天才

 魔法のようなスピードで楽曲をどんどん生み出すなど、ソングライターとしても稀代の才能の持ち主だったプリンスだが、驚くべきは、作詞作曲のみならず、プロデュースやアレンジ、マスタリングなど、楽曲が完成するまでに必要な工程をすべて自分でこなすことのできた天才でもあったということ。

画像: 作詞作曲・プロデュース・アレンジ・マスタリング・演奏をすべて自分でこなす天才

 ちなみに、楽器の演奏もお手の物で、1977年にリリースしたデビューアルバム『For You(フォー・ユー)』では、27もの楽器を1人で演奏してみせている。

映画との関連

 プリンスのファンの中には、1984年に公開された自身の自伝的な主演映画『パープル・レイン』でプリンスのことを知ったという人も多いかもしれない。本作は、俳優としてもミュージシャンとしてもプリンスの代表作の1つとなり、同作のサウンドトラックは米Billboardの全米アルバムチャートにて、24週にわたって1位を獲得するという偉業も達成した。同作でアカデミー賞も受賞したプリンスは、1989年に公開されたマイケル・キートン主演の映画『バットマン』のサウンドトラックも手掛けている。

プリンスが時代の先駆者だったことが分かる4つのエピソード

 常に自分の思い描くアーティスト像を探求してきたプリンスは、世間の常識にとらわれることなく、先駆者として様々な道を切り開いてきた。ここでは、プリンスがいかに時代を切り開いていったかが分かる4つのエピソードを紹介。

①ファッションでジェンダーの壁を打ち破ったプリンス

 2020年代になった今でこそ男性がメイクを楽しむことや、ハリー・スタイルズのようにジェンダーにとらわれないファッションを楽しむアーティストが第一線で活躍しているが、プリンスはこのトレンドの最も先駆けと言える存在。

 ゲイであることを公言したフランク・オーシャンが前述した文章で振り返った通り、プリンスは社会的規範に囚われることのない唯一無二なファッションでジェンダーのステレオタイプを打ち破ってきた。また、早い段階からナチュラルメイクを取り入れていたことでも知られている。

画像1: プリンスが時代の先駆者だったことが分かる4つのエピソード

 

②現代的な音楽の販売方法に以前からチャレンジ

 プリンスは90年代に所属元のワーナー・ミュージックと契約をめぐって争っていたのだが、この時にプリンスがこだわっていたのは、いかに音源を自分の好きなように流通させられるかということ。そのなかには、現代では当たり前になった販売手法もいくつかあり、いかにプリンスがCDショップなどの小売店以外での販売手法を先取りしていたかが分かる。

 例えば、1998年にアルバム『Crystal Ball(クリスタル・ボール)』をリリースした時点から、後にCDショップなどでも販売したものの当初は自身のサイトのみで販売するという手法を確立していたし、2003年には『Xpectation(エクスペクテーション)』を当時としては珍しい“配信限定”でリリース。

画像2: プリンスが時代の先駆者だったことが分かる4つのエピソード

 さらに、2004年にはアルバム『Musicology(ミュージコロジー)』をコンサートチケットとセットにして販売。2007年にリリースした『Planet Earth(プラネット・アース〜地球の神秘〜)』や2010年にリリースした『20Ten』では、雑誌や新聞の付録という異例の形での配布にチャレンジした。

③原盤権を手に入れるために闘ってきた

 2019年、ジャスティン・ビーバーらのマネージャーを務めるスクーター・ブラウンが、テイラー・スウィフトがデビュー時から所属していたビッグマシン・レコードを買収し、テイラーのスタジオアルバム6枚の原盤権を取得したことが話題に。テイラーがこれに猛反発し、原盤権を自分のものにするため、現在進行形で6枚のアルバムの再レコーディングを行なっていることをご存知の方も多いと思うが、プリンスもまた、原盤権をめぐってレーベルと争ってきた1人。

画像1: ③原盤権を手に入れるために闘ってきた

 プリンスは所属していたワーナー・ミュージックから原盤権を取り戻すための闘いを1990年代から続け、ついに2014年に原盤権を取り戻した。このことは、後のアーティストに“原盤権は取り戻すことができる”という1つの例を示すこととなった。

 そして現代では、音楽の聴き方としてストリーミングサービスで聴くことが主流となっているが、ストリーミングサービスの問題点としてたびたび指摘されてきたのが、アーティストにわたるロイヤリティが極端に少ないという点。今でこそ主要なストリーミングサービスの多くでプリンスの楽曲を聴くことができるが、自分の音楽が“搾取”されないことに強いこだわりを持ってきたプリンスが自身の楽曲を提供することに決めたのは、ミュージシャンへの分配が比較的多いことで知られる、ジェイ・ZによるTIDAL(タイダル)が最初だった。

④アーティスト名に記号を採用

 枠に囚われることのなかったプリンスの姿勢を最も象徴するエピソードの1つが、所属していたワーナーとの契約をめぐって争うなかで、1993年に自身のアーティスト名を『記号』に変更したこと。

画像2: ③原盤権を手に入れるために闘ってきた

 プリンスがアーティスト名として使用したのは、生物学上で雄を表す“♂”と、雌を表す“♀”をミックスさせた、発音はおろか名前すらついていないオリジナルの記号。プリンスは当時、所属していたワーナー・ミュージックを困らせるためにアーティスト名を記号に変更。

 キーボードなどにこの記号は登録されていなかったため、メディアはこの記号を正確に記すことができず、当時のプリンスは、『シンボル』もしくは『T.A.F.K.A.P.(The Artist Formerly Known As Prince/かつてプリンスとして知られていたアーティスト)』と呼ばれることも多かった。プリンスはその後、ワーナーとの契約が満了を迎えた2000年に『プリンス』という名前に戻している。

現代人に11年越しに訴える、幻のニューアルバム『ウェルカム・2・アメリカ』

 未来人とも言えるアーティスト、プリンスの“超越ぶり”は死しても続く。2010年にレコーディングしていたという幻の新作『ウェルカム・2・アメリカ』が7月30日にリリースされたのだが、驚くべきは、プリンスが10年以上も前に2021年の時代を生きる私たちに投げかけるようなメッセージを綴っていたということ。

「Welcome 2 America」

画像: ハリーもテイラーもプリンスの足跡を辿ってきた!幻の新作で再び注目を集める、プリンスの先見性

「世の中は偽情報に溢れかえっている。ジョージ・オーウェルが警告していた未来そのものだ。僕たちはこのようなチャレンジングな時代を信念曲げずに生きなければならない」

 プリンスはアルバムを収録した当時、政府による監視社会を描いたジョージ・オーウェルのディストピアSF小説『1984』に社会をなぞらえ、上記のように語っていたのだが、アルバムから最初のシングルとしてタイトルトラック「Welcome 2 America」が2021年にリリースされると、未来を見透かしていたかのような歌詞はファンに大きな衝撃を与えた。

 プリンスはこの曲で、「マスメディアのせいで/情報過多」「iPhoneの機能のせいで気が散る」と、誰もがスマートフォンの世界に没入している情報過多な社会を予見したような歌詞を歌いながら、「真実/それが最新の少数派」と、真実を知る者たちこそがマイノリティになってしまったと現状を嘆いている。

 また、楽曲の最後には、「変わる?/変わらない?」と歌い、自身が予見してから10年以上変化していない現代社会が変化することはあるだろうかと、聴く者に問いかけている。

「1000 Light Years From Here」

 Black Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター)やStop Asian Hate(ストップ・アジアン・ヘイト)といった人種差別に対抗する運動が勢いを増している現代だが、人種差別はプリンスが継続して訴えてきたことでもある。

 プリンスは「1000 Light Years From Here」で、差別がなくなった1,000年後の未来を見据えながら、次のように歌い上げている。

いい生活/自由/革新
肌の色に関わらずどの子供も/教育を受けるんだ
スラムでの生活だってもう怖くない
今から一千光年も先の話だけど

「Same Page, Different Book」

 時代が変わっても“違う本の同じページにいる”と歌われる「Same Page, Different Book」でプリンスが投げかけているのは、宗教の違いや、戦争の意味に対する問いかけ。プリンスは人間同士で争う必要などないと訴える。

まだ同じページにいるんだ/違う本のね
共通点がありすぎて
きちんと探せば/神は一人しかいない

どんな名前で呼ぼうが/戦争になれば同じこと
何を相手に/何を相手に
僕たちは戦っているんだろう

「One Day We Will All B Free」

 そして、アルバムの最後を締めくくる「One Day We Will All B Free」では、1曲目「Welcome 2 America」で今の状況について「変わる?/変わらない?」と問いかけながらも、いつかは変わるはずだという、プリンスの希望が歌われる。

その日 輝かしい日に僕たちはみんな自由になれる
君の話だよ
僕の話でもあるけど
その日/その日が来たら僕たちはみんな自由になれる

 プリンスが2010年に『ウェルカム・2・アメリカ』で綴った社会についての歌詞は、今なおタイムリーなものとして聴く者に響いてくるかもしれないが、裏を返せば、プリンスが嘆いていた状況が10年以上変わってこなかったということでもある。アーティスト人生を通じて自分を貫き続けてきたプリンスが、本作の制作に際して語ったという「僕たちはこのようなチャレンジングな時代を信念曲げずに生きなければならない」という言葉の意味を、今こそ考えるべき時かもしれない。

『ウェルカム・2・アメリカ』のストリーミングはこちらから。

<アルバム情報>

画像: sonymusicjapan.lnk.to
sonymusicjapan.lnk.to

『ウェルカム・2・アメリカ』 【通常盤】(CDのみ)
2021年7月30日発売(国内盤)
2,500円(税別)/ 2,750円(税込) SICP-31431 ※世界同時発売予定 ※Blu-spec CD2
※歌詞・対訳・解説付 ※初回生産限定盤のみデジパック仕様

『ウェルカム・2・アメリカ 【完全生産限定盤/デラックス・エディション】(CD+Blu-Ray)《ライヴ映像付2枚組》』
2021年7月30日発売(国内盤)
6,000円(税別)/ 6,600円(税込) SICP-31432~31433
※歌詞・対訳・解説付

『ウェルカム・2・アメリカ 【完全生産限定盤/スーパー・デラックス・エディション】(CD+Blu-Ray+アナログ2枚組+ 付属品)』
2021年8月25日発売予定(国内盤)
15,273円(税別)/ 16,800円(税込) SICP-31434〜31438
※完全生産限定盤 ※付属品付 ※歌詞・対訳・解説付

CD購入 / ダウンロード / ストリーミングはコチラ

▼アルバム『ウェルカム・2・アメリカ』 トラックリスト (CD/デジタル)
1. Welcome 2 America
2. Running Game (Son of a Slave Master)
3. Born 2 Die
4. 1000 Light Years From Here
5. Hot Summer
6. Stand Up and B Strong
7. Check The Record
8. Same Page, Different Book
9. When She Comes
10. 1010 (Rin Tin Tin)
11. Yes
12. One Day We Will All B Free

▼ライヴBlu-ray『ウェルカム・2・アメリカ』 (Live at The Forum, April 28, 2011) セットリスト
1. Joy In Repetition
2. Brown Skin (India.Arie cover)
3. 17 Days
4. Shhh
5. Controversy
6. Theme From “Which Way Is Up” (Stargard cover)
7. What Have You Done For Me Lately (Janet Jackson cover)
8. Partyman
9. Make You Feel My Love (Bob Dylan cover)
10. Misty Blue (Eddy Arnold cover)
11. Let’s Go Crazy
12. Delirious
13. 1999
14. Little Red Corvette
15. Purple Rain
16. The Bird (The Time cover – Prince composition)
17. Jungle Love (The Time cover – Prince composition)
18. A Love Bizarre (Sheila E. cover – Prince composition)
19. Kiss
20. Play That Funky Music (Wild Cherry cover)
21. Inglewood Swinging (cover of Kool & the Gang’s “Hollywood Swinging”)
22. Fantastic Voyage (Lakeside cover)
23. More Than This (Roxy Music cover)

(フロントロウ編集部)

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