ドラマ『デアデビル』ショーランナー、マーベル・コミック編集長を非難
マーベル・コミックの作品を原作にしたNetflixドラマ『デアデビル』でショーランナーを務めたスティーヴン・S・デナイトが、現在マーベル・コミックで編集長を務めているC.B.セブルスキーに辞職を求めたことが波紋を呼んでいる。
スティーヴンは自身のTwitterで、セブルスキーが過去に行なった行為を批判し、彼が辞職するまでマーベル・コミックとは仕事をしないとコメント。
How does this man still have a job? Completely unacceptable. https://t.co/PLmZ7j0BhD
— Steven DeKnight (@stevendeknight) October 9, 2021
セブルスキーは2004年~2005年の約一年間、「Akira Yoshida(吉田晶)」という日本人のようなペンネームを使用し、その人物のバックグラウンドまで作り上げ、和風のアレンジを効かせた作品をマーベル・コミックで創作していた。
2017年、彼がマーベル・コミックの次期編集長に指名された際にその過去が明らかになり、アメコミ界に激震が走った。
“架空の生い立ち”で日本人だと偽っていたC.B.セブルスキー
先述の通り、セブルスキーは2004年~2005年の約一年間、「Akira Yoshida(吉田晶)」という日本人のようなペンネームを使用し、セブルスキーとしてマーベル・コミックで副編集長を務めつつ、「吉田晶」としてそれ以外の出版社でも作家を務めていた。
作家がペンネームを使い、性別や国籍を不詳にするというのはよくあることだが、彼は自分が日本人であると主張し、日本人男性としての架空の生い立ちを精巧に捏造し、まるで自身が日本文化の権威であるかのように振る舞っていたと米Screen Rantは報じている。あるマーベルスタッフは「吉田晶」とランチに行ったと主張したが、実は彼が会ったのは日本人翻訳者だった、という。
セブルスキーが吉田晶として手がけた作品の中には、マーベルヒーローのキティ・プライドが来日して忍者や龍、日本人スパイと冒険をしたり、ウルヴァリンが日本で忍者やゾンビと闘ったりしているといった、和テイストのものが多かった。
そして当時マーベル・コミックで編集長を務めていたジョー・ケサダによると、セブルスキーは流暢な日本語を話し、日本人の漫画家とも太いパイプラインを築いていたという。
実際セブルスキーの家族は日本に住んでおり、彼は香港で仕事をしていたこともあったため、アジアには造詣が深かったものと考えられる。
彼は自分が「吉田晶」であることを否定し続けていたが、編集長に指名された2017年、米Bleeding Coolにて「セブルスキー=吉田晶」であることを認めた。
「私は偽名であるAkira Yoshidaの使用を約1年でやめた。透明性のないことだったが、その名は執筆やコミュニケーション、プレッシャーについて様々なことを教えてくれた。当時の自分は未熟で、まだ色々と勉強しなくてはならなかった。しかしこれも今は解決済みの古いニュースだ。私は現在、マーベルの新しい編集長として新たな1ページを刻み始める。これまで私がマーベルで経験した全てのものを、世界中の才能ある若者に共有していくことにとても興奮している」
C.B.セブルスキーが批判されているポイントは?
セブルスキーが批判を受けたポイントは、彼が「吉田晶」として活動していた際にマーベル・コミックの規則を破っていた点と、そのうえで白人男性であるにもかかわらず日本人男性のフリをして仕事をしていたと言う点にある。
当時マーベル・コミックは、編集者とコミック作家の兼業を禁止していたと米Bleeding Coolは報じている。その理由は、編集者とコミック作家の間に、不正なつながりが多かったため。たとえば、ある編集者がコネを使って他の編集者に自分をコミック作家として雇ってもらうとする。すると本来仕事が回るはずだったコミック作家に仕事はまわらない。当時この悪習がアメコミ業界に物議を醸していたため、ジョー・ケサダが編集者とコミック作家の兼業を禁止する規則を作った。
つまり、副編集長の「セブルスキー」として仕事をしながらも作家の「吉田晶」としても仕事をしていたということは、規則違反に当たる。
また、セブルスキーが日本人のフリをしていたのは、漫画文化がある日本からのコミックライターと言えば箔がついてキャリアのプラスになると考えてのことだと見られている。これに対しては日本への敬愛があってこそだと擁護する声があるが、日本人アーティストたちのチャンスが少ない中ではそうも言っていられない。
当時コミック作家には“有色人種が少ない”と言われており、アジア人がコミック業界で成功するのは容易なことではないとされていた。そんな環境の中で彼がアジア人男性であると偽ったことで、本物のアジア人のチャンスを収奪し、キャリアやマネー、成功への機会を掴んだのではないか、と批判されている。
コミック評論家のケリー・カナヤマは、「セブルスキーはエキゾチックに見えるほど異なっている日本文化を描いたが、それは日本文化、そして日本人が実際にどんなものかについての西洋の偏見と一致していた」と、米Atlanticで厳しく指摘している。
また、アメリカ社会では2021年にもアジア系に対する暴力が激化するなど、アジア系への差別はまだまだ根強い。そのような現状がある中、今回の行為は、マイノリティー文化の利用できる部分だけを利用する都合が良い行為と批判を受けている。
マーベルを含むアメコミ業界は現在、多様性を意識した作品作りや作家の起用に積極的に取り組んでいる。しかし、編集長という重要なポジションについている白人男性のセブルスキーが自分のキャリアのためにマイノリティであるアジア人男性であると偽っていた過去には批判の声が強く、今回、ファンからのコメントでこの件を知って驚愕したという『デアデビル』ショーランナーのスティーヴンの発言で再びこの問題がスポットライトを浴びることになった。
スティーヴン・S・デナイトの発言でセブルスキーの虚偽行為が再炎上
12月より新連載が始まるコミック『Wastelanders』シリーズの作家を務めるスティーヴンは、自身のTwitterでセブルスキーがまだ仕事を続けていることに疑問を呈し、彼の行動を「全く受け入れられない」と述べた。
Completely unacceptable. Writing for Marvel is a childhood dream come true. My next issues come out in December. But I can’t in good conscience accept any additional work until this is resolved. I hope other creatives will follow suit. https://t.co/vbKReksGk8
— Steven DeKnight (@stevendeknight) October 9, 2021
そして、マーベル・コミックでの仕事は好きで子供の頃からの夢だったが、セブルスキーの過去を知ったことで、その考え方が「大きく変わった」と述べ、「ここには多くの素晴らしい編集者がいる。文化的なアイデンティティーの盗用によってトップに上り詰めた男をその地位にとどめておくことは、良心に欠けることだ」と語った。
現在スティーヴンのツイートは多くの共感を集めている一方、マーベル・コミックは本件を“すでに終わったこと”として片付けているため、セブルスキーに何らかの処分が下される可能性は低いと見られている。(フロントロウ編集部)
※本記事内で、ソースの記載漏れがあった箇所に情報追加いたしました。文中で「振る舞っていたと〜〜は報じている」とした箇所は「振る舞っていたと米Screen Rantは報じている」が正しいものとなります。