ソウルの女王アレサ・フランクリンをジェニファー・ハドソンが演じる
米RollingStoneが選ぶ「史上最も偉大な100人のシンガー」の第1位にも選ばれた“ソウルの女王”アレサ・フランクリンの半生を描く音楽エンターテイメント映画『リスペクト』が、2021年11月5日より全国の劇場で公開となった。
STORY
少女のころから抜群の歌唱力で天才と称され、煌びやかなショービズ界の華となったアレサ・フランクリン。しかしその裏に隠されていたのは、尊敬する父、そして愛する夫からの束縛や裏切りだった。すべてを捨て、自分の力で生きていく覚悟を決めたアレサの歌声が、世界を歓喜と興奮で包み込んでいく…。
本作でアレサ役を務めるのは、デビュー映画『ドリームガールズ』でアカデミー賞助演女優賞受賞という快挙を成し遂げ、シンガーとしてもグラミー賞を制したジェニファー・ハドソン。今回の映画化にあたっては、アレサ本人が生前にジェニファーを指名し、この運命的なキャスティングが実現した。
監督を務めたリーズル・トミーは、南アフリカ生まれの劇作家。2016年に、ルピタ・ニョンゴ主演のブロードウェイ作品『Eclipsed』で黒人女性として初めてトニー賞の演出賞にノミネートされた。また、米ディズニーランドで上演された舞台『アナと雪の女王』や、現代版にアレンジされた『レ・ミゼラブル』では、有色人種を中心としたキャスティングをしたことで注目され、最近ではドラマ『ウォーキング・デッド』や『ジェシカ・ジョーンズ』など人気ドラマシリーズのエピソード監督を務め、今後は2022年春より撮影予定のディズニープラス実写ドラマシリーズ『美女と野獣』のエピソード監督にも就任予定。
フロントロウでは、この度公開となった映画『リスペクト』で長編映画監督デビューとなったトミー監督に単独インタビュー。
『リスペクト』リーズル・トミー監督インタビュー
本作の制作には、アレサ・フランクリン自身が関わっていたと伺っていますが、アレサ自身の影響は、作品のどのような部分に表れていますか?
影響で一番大きかったことは、やはりジェニファー・ハドソンを主人公に添えるということ。これはアレサ・フランクリンが選んだことだし、とにかくジェニファーの声が大好きで。同時に、彼女は女優としても素晴らしい。ジェニファーに会ったときに、もちろん声はすごいんだけれど、とっても心が広いということと、情熱的であり、非常に優しい性格だったのが素敵だった。共感力も高い。しかも、彼女(ジェニファー)自身も悲劇を経験していたし、もちろん成功も収めている。これがとってもアレサに似ている部分だと思う。(アレサは)完璧なキャスティングをしてくれたと思った。
演劇にルーツを持つトミー監督ですが、映画制作にあたってチャレンジになった部分はどこですか?
自分が監督になったということで、初めは非常に恐ろしく、というか脅威に感じた。不安をたくさん抱えていた。でも同時に、私にとってはものすごく喜ばしいことでもあって。私は今まで演劇ではミュージカルをたくさんやってきたし、ミュージシャンと仕事も沢山してきた。だから、今回音楽を使ってストーリーを語れるということは私にとって非常に嬉しいことだった。この伝記に関しては、歌を通してキャラクターの掘り下げを試みた。
また、「リスペクト」という歌を歌うシーンがあるんだけど、このレコーディングもかなり技術的に大変だった。マディソン・スクエア・ガーデン(エンターテイメント会場)を含めた、ニューヨークの60年代を再現するのも大変だったし、技術的なことでのチャレンジはたくさんあった。
でもやはり、『リスペクト』という映画の中で「リスペクト」という曲が完璧ならないと困ると思った。
トミー監督は以前、女性に焦点を当てた作品『Eclipsed』で評価を得られました。本作では、「女性として」という点で何か意識したことはありますか?
1つは映画の中で暴力がどう描写されるか。最近の映画では、暴力(バイオレンス)はエンターテイメントだとされていて、戦うシーンがフィーチャーされることもあるけれど、やはり私としては、女性目線で暴力を見たときに、物によっては非常にトラウマになってしまうような、ダメージを受けるような側面もあると思う。だから、私としては実際に人を叩いたり暴力を振るったりするところを見せるよりは、その暴力による影響っていうものによりクローズアップしたかった。心理的な部分に焦点を合わせた。
やはり男性が監督する作品となると、主人公に対して良いアドバイスをしたりその道を示す人物は男性なんだけど、今回の映画の中では、女性の主人公に対して色々なアドバイスをしたり、真実を伝え、励まし、力を貸すという役割は女性にした。やはり女性の関係というのが非常にこの映画の中では重要なものになっている。
また、私はアパルトヘイト(※)時代の南アフリカで育った。だから、本当に普段の生活の中に人種差別があった。アレサ・フランクリンも同じような時代に生きていたから、普通に人種差別を経験している。時代の中で女性解放運動や公民権運動などさまざまな運動があった。私はそういう背景を持っているため、政治的な見解というものは常に芸術の中に現れるし、そういうものを作りたいと思っている。
※主に南アフリカ共和国において行なわれていた白人と非白人の人種隔離政策。
アレサも同じように非常に粘り強く、正義のために差別をなくそうと戦った人だと思う。非常に女性としてパワフルだったことを伝えることによって、世界中の女性にもパワーを与えられるのではないかと思う。
現場での出来事について質問です。ジェニファー・ハドソンは、どのような俳優でしたか?
ジェニファー・ハドソンは、とにかく監督としては夢のように理想的な俳優で、非常に準備をしてくるし、謙虚だった。最初に話し合いをしたとき、現場でディーバ(※)になるのはアレサ・フランクリンであって、他の人たちはディーバにはならないようにしようと言っていた。つまり、非常に友好的に、みんなでアレサに感謝しながら、そして謙虚に仕事をしよう、と決めたの。彼女はとにかくベストを尽くした。そして私はジェニファーの歌を毎日生で聞いて、ちょっと宗教的な体験になった。とっても特別なものだったよ。
※歌姫という意味と共に、高飛車で扱いづらいという意味もある。
アレサ・フランクリンの曲で好きな作品はなんですか?その理由も教えてください。
私の一番好きなアレサの歌は「エイント・ノー・ウェイ」という曲。本当はこの曲を(劇中に)入れるつもりはなかったんだけど、ジェニファーとの話し合いの中で、ジェニファーもこの歌が大好きだっていうことが分かった(ので、作中に挿入歌として入れた)。非常に感情的で、とっても豊かな感情がある歌。そしてアレサがまた本当に芸術的な、素晴らしい歌い方をするんだよね。
また、これはアレサの妹がアレサのために書いた曲でもある。私としても非常に、この映画の中に絶対入れたいと思った。
本作は新型コロナウイルスの影響で公開が遅くなってしまいましたが、ご自身に何か影響はありましたか?
世界中でパンデミックが起きて、人々が多くの人が亡くなっている中では、これはもう、公開日のことを気にしていられないと、まずは本当に安心な世界になるようにということを願うばかりだった。やはり私としてはこの映画こそ映画館で観てもらいたいと思っていたため、1年半待った。本作は、映画自体を祝福するような作品になったと思うから、ぜひとも映画館で観てもらいたい。
今後はどのような作品を手掛けたいですか?
私はこの『リスペクト』に全ての魂、心とパッションをつぎ込んだから、次何するかっていうのはすぐには浮かばないな。でも、とにかく昔から映画が大好きで、やはり自分も黒人ということで、そういう有色人種の映画は、これこの先も作っていきたいと思う。ハリウッドは大作を作らせてくれるところなので、やはりそういう大きな作品を、そして現代に何かメッセージ性があるクールなものを作っていきたいと思う。本当は昔の古き良きクラシック映画、カルトのクラシック映画のようなものを作りたいんだけど、そうだとしても、我々自身が投影されているものを作っていきたい。
映画『リスペクト』は11月5日より全国の劇場で公開中。(フロントロウ編集部)