一般的に見ない女性キャラに惹かれるロザムンド・パイク
キャリア初期には“史上初のオックスフォード大学卒のボンドガール”として騒がれたロザムンド・パイク(42)は、近年は、スクリーンで描かれてこなかった女性像を演じて議論を呼ぶことが多い。
2014年の映画『ゴーン・ガール』では、知的で、策略的で、自分の欲しい結果を手に入れるためならば手段を選ばず冷酷に夫を追い詰める女性を怪演。本作はロザムンドにキャリア初のアカデミー賞ノミネートを与えた一方で、フェミニスト映画かアンチフェミニスト映画かという議論を巻き起こした。2019年の伝記映画『レディオアクティブ』では、ノーベル賞受賞科学者のマリ・キュリー役に。しかしマリ・キャリーの輝かしいキャリアにだけフォーカスするのではなく、科学者としての人生を選んだ代償や、彼女の研究が後世に与えた負の影響も描いて賛否を呼んだ。
そして最新作『パーフェクト・ケア』では、アメリカの後見人制度を使って高齢者の資産を搾り取る悪徳主人公を熱演。完全なる悪人を応援してしまった瞬間に自分のモラルにハッとさせられる本作は、これまた議論を呼んだ。ロザムンド自身は演じるマーラ・グレイソンについて、「マーラは私がスクリーンで見たいと思っていた女性そのものだった。これまで男性にばかり許されてきた、残忍で野心的で、臆面もなく欲しいものを追い求める、そういうことが許される人物。彼女は勝ちにこだわっていて、お金を稼ぎたがっている。そして嫌われることに何の恐れも抱いていない。たしかに彼女は人に好かれないタイプだけど、でも愛おしくなり、応援してしまう」 と語っており、本作でキャリア初のゴールデン・グローブ賞を受賞した。
フロントロウ編集部では今回、人々を考えさせる役を演じ続けているロザムンド・パイクにインタビュー。最新映画『パーフェクト・ケア』の役どころや共演者との親和性について聞いた。
ロザムンド・パイク、映画『パーフェクト・ケア』インタビュー
脚本について
これまで映画館で観たことが無い、最も独創的な脚本だった。マーラは勝つことに執着していて、お金を稼ぎたがっている。そして嫌われることに何の恐れも抱いていない。それらはすべて“女性らしくない”と思われることだけど、マーラには確かにそういう性質があって、だからこそ見ていて楽しいの。
原題の『I Care A Lot(※)』というタイトルについて
タイトルはある意味風刺的だし、皮肉だけど、でも同時にマーラ・グレイソンが“たくさん”面倒をみているというのは事実。 “I Care A Lot”は気の利いた愉快なタイトルだと思う。
※I Care A Lotには、たくさん面倒を見ている、とても大切に思っているという意味がある。
作品のトーンについて
この映画のトーンはとても独特で、役者もスタッフもそれをきちんと理解する必要があった。この作品はある種のブラックコメディで、今私たちが目にしているアメリカについての風刺(※)でもある。とても面白い瞬間はあるけど、地上から離れてホバリングをしているようで、実際には常に真実に足がついている。クールで、ある種とても象徴的でとても独特なトーンだから。でも実際に撮影が始まって、撮影監督も制作部も衣装デザイナーも、その独特なトーンをきちんと理解しているということがわかったの。もちろんJ(・ブレイクソン監督)自身も、脚本を書いたのは彼なわけだけど、自分がなにを表現したいのか正確に把握していた。そしてそれは、私が初めて脚本を読んだ時に頭の中に浮かんだ印象そのままだった。この映画は不遜でダークで、意欲的で、おかしくて、変わっていて、そして時折とても無礼(笑)。それから、私たちみんながこの作品を作るのを楽しんだということが映画のトーンに現れていると思っている。私たちは作品に真剣に向き合いつつ、同時に、最後まで隣り合わせで描かれる真実と不可能さのユニークな組み合わせを楽しんでいたの。
※アメリカでは映画で描かれているような、高齢者の後見人になって資産を奪う事例が多発しており、ドキュメンタリーも多数作られるほどの社会問題になっている。この制度は改革が求められているが現時点で解決に至っておらず、多くの高齢者が泣き寝入りの状態にある。
マーラ・グレイソンというキャラクターについて
マーラは死さえも恐れない女性。さすがに私には正直、(彼女がどうやったらそれができるのかは)想像すらできないけどね。
最強のパートナー、フランについて
エイザ・ゴンザレスがこの役を射止めたのは至極もっともなこと。彼女だからこそ、根性や迫真性といった、フランというキャラクターに必要な感情や魂を表現することができたし、彼女とは完全に自由に演じることが出来た。
ピーター・ディンクレイジとの共演について
彼の仕事ぶりをすごく尊敬している。彼はどんな役でも独創的なものにするの。面白いのは、ピーターが演じたローマンは自惚れが強いというところ。彼が鏡で自分を見たり身だしなみを整えたり、体を鍛えたりしている姿が描かれるんだけど、頭の切れる女性、冴えた女性というマーラというキャラクターに対するカウンターバランスがとても気に入った。私たちは、2人で似たヘアスタイルにするところから始めた。ピーターが私の演技を見て、自分の演技においてその瞬間を盗もうとするの。私たちはつねに互いにしのぎを削るという内輪のゲームをしていた。私たちは陰と陽の関係のようなものだから、これはキャラクターにとっても、映画にとっても、大いにいいこと。マーラとローマンは似たもの同士なの。ふたりは悔しいけどお互いを尊敬している。悪人ふたりが、互いのことを「特別な相手だ」なんて思っているの。ピーターと共演できて本当に楽しかった。
ダイアン・ウィーストとの共演について
素晴らしい役者たちがJの素晴らしい脚本を読んでこう思ったと思う。“自分にもこの脚本で何かできることがあるはずだ”って。そして思うに、名乗りをあげ、役を引き受けた役者たちは皆、エッジの効いた、大胆で不遜な感覚を持った人たち。ダイアン・ウィーストはこのチャンスを見事に掴み取っていた。私自身ずっと彼女のファンだったし、彼女が参加してくれたことは本当に幸運だった。考えてみれば、(自分が演じる)マーラと(ダイアンが演じる)ジェニファー・ピーターソンも同じことをしているの。2人とも可愛い子羊を演じることができるけど、その下にはライオン、もっといえばオオカミを隠してる。
ジェニファーの弁護士を名乗るディーンについて
クリス・メッシーナはこの役を、負けることに慣れていない、ピリッとして洗練された、歯に衣着せぬ弁護士にしてくれた。ディーンは人にお金を見せびらかしたり、人を脅したり、大物たちを利用して思い通りに事を動かすことに慣れている。だからマーラのような女性に出くわすのは初めてなの。クリスと働くのはとても楽しかった。よく、ラブシーンを演じる俳優同士の相性について言われるけど、実際にはどんな関係性、敵対者や競争相手との関係であっても、相性は重要なの。幸運にも、クリスとの相性はとても良くて、とても楽しかった。
監督のJ・ブレイクソンについて
今まで脚本と監督が同一人物の映画には関わったことはなかった。これはとてもユニークな経験だし、本当に最高だった。脚本兼監督というのはとても特別なことで、Jは自分の言葉を自分で演出すべき人なんだと思う。彼は独特で大胆で激しい言葉の使い方をするの。役者にとってその言葉を書いた人自身に演出されるのはとても楽しいことだった。それに、彼はとてもシネフィルで、自分が求めているもの、さらにその作品に必要なトーンをどうやったら作り出せるのかという重要なことを正確に把握している。演技だけでなく、視覚的な刺激が全体の売りになることもわかっていた。とても好みがはっきりしていて、自分が何を求めているかをよくわかっているの。それに、常に編集のことを念頭に置いている。彼はみんなにものすごく敬意を払っていて、クルーも彼が大好きだった。そのおかげでセットにとてもポジティブな空気が流れていたし、みんな早い段階から、自分たちが誇りに思えるものを作っていると気づいていたと思う。
ロザムンド・パイク主演映画『パーフェクト・ケア』は、12月23日(木)まで劇場公開中。動画配信サービスでもデジタル配信中。(フロントロウ編集部)