先進的であることに変化はなかった『マトリックス レザレクションズ』
キアヌ・リーブスが約20年ぶりにネオ/トーマス・アンダーソンを演じた『マトリックス レザレクションズ』が、高評価を得ている。
数十年ぶりの新作というのは、前作ファンからの厳しい目が向けられるうえ、現代ファンの視点にも応えるものでないといけないため、結果として評価されないこともある。
しかし、1999年に公開された『マトリックス』はそのストーリーだけでなく、様々な人種や外見のキャストが起用され、映像にも日本や中国からインスピレーションを得た要素が組み込まれるなど、革新的な部分がかなりあった。それを作り上げたラナ・ウォシャウスキー監督の性格が変わることはなく、本作でもカンフーを織り込んだアクションや日本にインスパイアされたセットデザインなどは健在。
また、主要キャラクターのバッグス役に中国系イギリス人のジェシカ・ヘンウィックが起用され、そしてそれがとくに強調されることもなく、自然なこととして扱われた。ちなみに、サティーを演じたプリヤンカー・チョープラーはインド人、レキシーを演じたエレンディラ・イバラはメキシコ出身でアメリカ育ち、シェパードを演じたマックス・リーメルトはドイツ人。
キアヌ・リーブスもアジア系の血を引いている
そしてなによりも、主演のキアヌもアジア系の血を引いている。彼の父親はハワイ出身の中国系アメリカ人で、母親で衣装デザイナーのパトリシア・テイラーはイギリス人。キアヌはレバノンのベイルートで生まれ、カナダで育った。
キアヌの父親と母親は離婚しており、父親は1994年にヘロインとコカインの大量所有で逮捕されて10年間の実刑判決となったが、1996年に出所した。キアヌは2000年に受けた米Rolling Stoneのインタビューで、父親とは13歳の頃から話しておらず、演技することを通して、母を思って父親への怒りを自覚したと明かしている。
その父親から受け継いだと言えるアジア系というアイデンティティだが、そこにわだかまりはないよう。キアヌは先日、米NBC Asian Americaのインタビューで、こう話した。
「自分のアジア系アイデンティティとは、いつも健全で良い関係だったよ。それが好きだね。一緒に育ってきたものだから」
キアヌが自分のアイデンティティを良く思っていることは分かったが、一方で自身が“有色人種”だと位置づけられることには違和感があるようで、「その肩書きに僕が同意するかは分からないな。でも、同意しないとも言えない」とコメントした。
その反応からは、有色人種だと言われるのが嫌だということではなく、白人としての特権を持ってきたと自覚しているハリウッド俳優としての意識が感じられる。
『マトリックス』シリーズだけでなく、『ジョン・ウィック』シリーズや『47RONIN』、『ファイティング・タイガー』など、キアヌはアジア要素を含む作品に数多く出演してきた。とくにそのアクションは人気だが、その撮影でも信念を持って取り組んでいるという。
「マテリアルアーツでは、芸術的な方法で、あの芸術的な術を表現した。敬意を持ったうえでだ。パロディとしてではなく、敬意を持ってね」
仕事においてもプライベートでも“良い人”として知られるキアヌだが、その生い立ちは平たんなものではなかった。そんなキアヌだからこそ、様々な視点から物事を見て、敬意を払えているのかもしれない。
(フロントロウ編集部)