イギリスのある一般家庭の視点からブラックユーモアたっぷりに現代社会を風刺して、アメリカでは絶賛されて中国では放送禁止になったファミリードラマ『2034 今そこにある未来』。スターチャンネルEXにて配信中の本作のクリエイターであるラッセル・T・デイヴィスにフロントロウ編集部が単独インタビュー。

2019年からの15年間を描いた社会風刺ドラマ

画像: 2019年からの15年間を描いた社会風刺ドラマ

 BBCとHBOが共同製作した『2034 今そこにある未来』は、2019年~2034年の15年間を描いたドラマ。現代社会のなかで私たちが抱える不安や恐怖をブラックユーモアたっぷりに描いた社会風刺ドラマでありながら、そんな社会の混沌をライオンズ家という3世代の家族の視点から描いたファミリードラマでもある。

 現代社会のなかで私たちが抱える不安や恐怖を全6話で描き、フィクションでありながらフィクションに感じさせないリアリティがある『2034 今そこにある未来』は、米ワシントンポスト紙に「2019年最高傑作の1つ」と絶賛された一方、中国では放送禁止にもなった話題作。

クリエイターのラッセル・T・デイヴィスにインタビュー

 ドラマ『2034 今そこにある未来』を制作したのは、ドラマ『ドクター・フー』や『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』を手がけたラッセル・T・デイヴィス。フロントロウ編集部では、『2034 今そこにある未来』の制作秘話やメッセージをラッセル本人に聞いた。

約30年前からやりたかったテレビシリーズだった

画像: 孫世代のベサニーはトランスヒューマンだとカミングアウト。肉体から解放されてデータとして生きたいと言い出す。

孫世代のベサニーはトランスヒューマンだとカミングアウト。肉体から解放されてデータとして生きたいと言い出す。

ラッセル・T・デイヴィス(以下ラッセル):現代社会を見ていて、このドラマの着想を得た。世界は狂ってしまった。でもテレビドラマは制作に時間がかかるから、そんな現実世界とリンクさせたテレビドラマが作られない。例えば私は今脚本を書いているのだが、これは2023年11月に公開される。制作と公開までにタイムラグがあるからテレビドラマでは時事問題は置き去りにされがちなんだ。だから、私たちの今の心配事をテレビで見たいと思った。じつはずっと昔、1988年頃に、ウェールズで当日収録の昼ドラを担当したことがあったんだ。その日の午後に撮影して、その日の夜に放送する。だから、王室の結婚だったり殺人事件だったり、その日に起きたことをセリフに入れるチャンスがあった。画面でその日の新聞を見ることもできた。私はそれが大好きでね。ずっと忘れられなくて、いつかこういう作品作りをしてみようとずっと思っていたんだ。

トランプ氏、地球温暖化、難民問題…ドラマでは私たちの“不安”が描かれる

画像: 難民問題の不条理はライオンズ一家をも揺るがすことに。

難民問題の不条理はライオンズ一家をも揺るがすことに。

ラッセル:劇中に登場するテーマのなかで、個人的に最も不安を感じるのは気候変動…いや、ドナルド・トランプだね。劇中ではドナルド・トランプが2020年大統領選で再選するが、『この予想は外れたね』と言われたことがある。外れてくれてよかったが、しかし彼は2024年の再選をもくろんでいて、実際に成功しかねない。そうしたら最悪だ。一体国に何が起きているのか? なぜ大国があそこまでおかしくなってしまうのか? 彼こそ私にとって最大の恐怖だね。

そして気候変動。第5話では60日間も雨が降り続け、第2話では(人権活動家の長女)イーディスが気候変動についてのスピーチを行なう。しかし私自身も、気候変動についてどう描くべきか試行錯誤している。テレビドラマを作る者はみんな悩んでいることだと思う。気候は、書くのは難しいが無視するのも難しいテーマだからね。

ほかにも、第4話ではイギリスにわたった難民の問題が描かれる。これはイギリスで実際に起きている問題で、新聞を開くと毎日状況が悪化している。海岸に(ボートで海を渡ろうとした)難民の死体が打ち上げられたりして。こういうときこそ私たちは国境を開くべきなのに、国境を閉じようとしている。だからこそ物語に書き入れたんだ。

個人的には、若い世代には希望を感じているよ。ただ、“次の世代にたくす”という論調にも不安を覚える。変化はゆっくり起きるからね。今60歳や80歳の人は、80歳や100歳になった20年後も投票するだろう。だから若者に頼るといいながら、上の世代の声が強くあり続ける状況には不安を感じるね。

社会風刺ドラマだが、希望を与えるファミリードラマでもある

画像: 祖母のミュリエル(右)は、古風な考え方で下の世代と衝突することもあるが、一家の柱のような存在でもある。

祖母のミュリエル(右)は、古風な考え方で下の世代と衝突することもあるが、一家の柱のような存在でもある。

ラッセル:BBCが制作にゴーサインを出したとき、希望のあるエンディングにしたいという願いがあった。実際に、自分としても誇れる、希望にあふれた美しいエンディングになったと思う。明るさがある作品にしたいというのは、私の願いでもあった。全6話の憂鬱なドラマを見たい人なんていないからね。この作品をファミリードラマにしたかったのも、そういう理由からなんだ。というのも、テクノロジーがどうであれ、家族は変わらないから。それぞれ何らかの家族を持っていて、お母さんやおばあちゃん、子供を愛している。

例えば、このドラマを記者の視点から描くこともできた。若い記者がドナルド・トランプや中国との戦争についてのスクープを書く。でもそれは、心の休まらないハードな作品になるでしょう。だから、家族を中心に描いたことは意図的なことなんだ。家族というものは、時には仲たがいもするだろうし、ひごいことが起こることもあるが、一緒に座って、お茶を飲んで、ご飯を食べて、笑い合う。最後の映像が、家族全員が一緒に座っているシーンで終わるのもとても気に入っている。素晴らしいファミリードラマだ。

過激な政治家ヴィヴィアン・ルックは私たちの化身

画像: 過激な発言をきっかけに人気を集め、政界に進出することになるヴィヴィアン・ルック。

過激な発言をきっかけに人気を集め、政界に進出することになるヴィヴィアン・ルック。

ラッセル:ヴィヴィアン・ルックは、(元米大統領の)ドナルド・トランプであり、(現イギリス首相の)ボリス・ジョンソンであり、(現ブラジル大統領の)ジャイール・ボルソナーロでもある。世界中で増えている、ポピュリスト(※)なリーダーを表しているんだ。

ヴィヴィアン・ルックのあの安っぽい発言、人種差別的な発言、嫌なユーモアのセンス。じつはあれは、インターネット上の私たちの声を擬人化しているんだ。ドナルド・トランプはこのやり口を武器にしたが、(ポピュリストな)リーダーたちはみんなそうやり始めている。左派は、右派がこんなことするなんて思ってもみなかった。ゆっくり保守的にソーシャルメディアと付き合うと思っていた。しかし左派がのんきに寝ている間、右派がやってきて(ソーシャルメディア上の)会話を手中に収めた。そしてそれがすべてを過激化させている。つまりヴィヴィアン・ルックは私たち。私たちの中にある、いじわるで、わがままで、自分のホームを愛しすぎ、ずる賢く、古風なことを望んでいる部分を擬人化している。彼女は一筋縄ではいかない。彼女は私たち。

※既存のエリート集団に無視されていると感じている一般の人々に訴えようとする人。

エマ・トンプソンが出演を承諾したときはびっくりした

画像: エマ・トンプソンは全6話でヴィヴィアン・ルックをコミカルに演じている。

エマ・トンプソンは全6話でヴィヴィアン・ルックをコミカルに演じている。

ラッセル:どうやってエマ・トンプソンを起用できたかって? 私自身、いまだにわからないよ(笑)! ツテは一切なくて、『ドクター・フー』時代から知っているアンディ・プライオールという素晴らしいキャスティング・ディレクターを頼って、ダメ元でオファーしてみようということになった。有名な人がテレビに出ているのを見るが、友達だったり、共通の知り合いがいたり、前に仕事をしたことがあったりするのが一般的。ああいうのはエージェントにかかっているから、脚本を送ってみたんだけど、(エマの)エージェントが僕らを気に入ってくれた。彼女は1日に20本くらいの脚本を受け取るからね。それをエージェントが振り分けるわけだが、彼が、『これを読んでみて。気に入ると思う』って勧めてくれた。エマはとても政治的な人だから、ドナルド・トランプとボリス・ジョンソンを合わせたようなキャラクターを演じられる機会に興味を持ち、脚本を気に入ってくれて、番組のメッセージにも共感してくれた。

出演を承諾してくれたときには、本当に信じられなかった。『エマ・トンプソンがオファーを受けました』って連絡を受けたのは、私のキャリアの中でも最高の瞬間のひとつだよ。彼女が参加してくれたことは、番組の価値や宣伝効果など、あらゆる面で作品のレベルを高めてくれる。そして言うまでもなく、彼女は素晴らしい俳優だ。あの役を自分のものにして、さらに良い役に昇華させ、面白味を生み出してくれた。彼女ほど適任な人はいないよ。受けてくれて本当に良かった。

この約20年で見た、テレビや社会の変化

画像: 次男のダニエル(左)は、仕事を通して運命の人ビクター(右)と出会う。

次男のダニエル(左)は、仕事を通して運命の人ビクター(右)と出会う。

ラッセル:革命というものは、何度も何度も繰り返されながら起こる。女性の権利拡大の運動で言うならば、MeToo運動を中心に近年すごく動きがあるが、変革は1960年代にも、1920年代にも起きた。革命は繰り返し起こりながら世界は変わっていくんだ。

(ゲイの男性である)私の専門分野はゲイ男性の視点。私はおおよそ22年前に『クィア・アズ・フォーク』というドラマを作り、主人公は15歳のゲイの少年だった。1999年当時としては、未知の惑星が現れるくらい珍しく“過激”なことだった。でも今は(テレビ作品に)こういう役がたくさん存在していて、我々の社会において強い存在感を放っている。22年でここまで変化できたなんて、素晴らしい。本当に素晴らしい。

今はセクシャリティやジェンダーは流動的な時代で、この会話を若い世代が牽引している。ブルー・ヘア・アクティビスト(※)と呼ばれる人たちが年寄り世代を怒らせているのを見るたびに、ウキウキした気持ちになるよ。今こそ、トランスの権利やノンバイナリーの権利についてのドラマが必要だと思う。58歳である私自身もそういったものを自分の作品に反映させようとは思うが、これを書くのは18歳の若者であるべきだと思っている。彼らはテレビに目を向けずに、YouTubeのチャンネルとかいろいろな方法で発信しているね。これは素晴らしいことだよ。いつの時代もそうだが、上の世代は下の世代がすることに腹を立てて、下の世代はそんなこと気にせずにただ前進と喜びと解放のために行進していく。私はこの闘いが大好きだ。

※フェミニストや環境保護論者など、社会正義のための闘いに参加している人たちのこと。青い髪色をした人が多いというステレオタイプからきている言葉。英語だとblue haired activist。

秋に日本に行きたい

ラッセル:じつは日本には行ったことがないんだ! ぜひ行ってみたい。『ドクター・フー』のエピソードで、マスターが日本を破壊したことがあるね。これに関しては謝らせてほしい。彼がしたことのなかでも、とくにひどいことだったね(笑)。日本にはぜひ行かせてほしい。友人のトムと一緒に日本への旅行をプランニングしているんだ。日本の秋は格別に美しいと言う人がまわりで多いから、向こう数年のうちにぜひ日本旅行を実現したいね。

 ドラマ『2034 今そこにある未来』はスターチャンネルEXにて独占配信中。1月23日からはBS10 スターチャンネルにて日本初放送も始まる。

<作品情報>
ドラマ『2034 今そこにある未来』
原題:YEARS AND YEARS
全6話

【配信】スターチャンネルEX
<字幕版>配信中
<吹替版>3月全話配信開始
【放送】BS10 スターチャンネル
【STAR1 字幕版】1/26(水)より毎週水曜23:00 ほか★第1話先行無料放送★1/23(日)18:00
【STAR3 吹替版】1/25(火)より毎週火曜22:00 ほか※第1話は初回無料放送

(フロントロウ編集部)

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