ゴールデン・グローブ賞主催のHFPA、解散までの道のり
HFPA(ハリウッド外国人映画記者協会)は少人数の団体
1943年からゴールデン・グローブ賞を主催しているのは、アメリカ国外の記者からなるハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)。2021年に21名の新規会員が増やされるまでは長年90名以下という少ない会員数で運営されており、彼らがゴールデン・グローブ賞の結果を決めてきた。会員数が9,000人以上のアカデミー賞、2万人以上のエミー賞と比較しても、ごく少人数が権限を持っていることがわかる。
腐敗の実態が告発される、問題のポイントは接待や人種差別
第78回ゴールデン・グローブ賞の開催を1週間後に控えていた2021年2月21日に、Los Angeles TimesがHFPAの腐敗した実態を報道。
同紙は、「適格な志願者を締め出し、会員の収入を不適切に担保しながら、重要な報道へのアクセスを独占している」と訴えを起こしたノルウェー人記者Kjersti Flaa氏の主張をもとに調査を行ない、団体が“公然の秘密”として映画スタジオなどから高額の接待を受けている事実を告発。
調査のなかでは、第78回ゴールデン・グローブ賞で2部門にノミネートされていたドラマ『エミリー、パリへ行く』の制作を行なったパラマウント・ネットワークが、2019年に30名以上のHFPA会員をフランスで行なわれていた撮影現場に招待し、贅の限りを尽くしたおもてなしを行なっていたという報告もあった。本作のノミネートは報道前から“意外”とされていたため、報道を受けて、“HFPAはノミネートをお金で売っている”という疑惑が濃厚視された。
さらに記事では、約90名からなるHFPAに黒人会員が一人もいないこともスクープされた。ゴールデン・グローブ賞では白人男性に偏った選考が問題視されてきたが、団体内の人種差別的で偏った体勢が記事によって事細かに暴露される形となった。
スタジオ、パブリシスト、トム・クルーズらセレブがボイコットを発表
スクープを受け、多くのハリウッドセレブは『#TimesUpGlobes(意味:時間切れだグローブズ)』というハッシュタグと共にHFPAに変化を求めるメッセージを発信。さらに、ワーナー・メディアやAmazonスタジオ、Netflixを含む100以上の業界団体は、HFPAが抜本的な改革を行わない限り「一緒に仕事はしない」と、ボイコットを表明。タレントの取材やイベント出席を決めるパブリシストからも改革しないと取材等から締め出すとされた。
また、本アワードを毎年放送するために数百万ドルを支払っている米NBCも、2022年度の授賞式は放送しないと発表し、2023年までに改革が行なわれることを期待していると付け加えた。
さらに、トム・クルーズは今までに受賞したゴールデン・グローブ賞のトロフィーを3つ全て返却し、スカーレット・ヨハンソンはHFPAを「性差別的」だとはっきり言い切るなど、厳しい対応や告発が相次いだ。
HFPAが団体の体質を改善したと主張するも…
問題を受け、HFPAは組織改革を2021年3月に宣言。前回のゴールデン・グローブ賞から約9か月で改革をしたと主張しており、6人の黒人ジャーナリストを含む21人の多様性に富んだ新会員を増やしたり、ダイバーシティ・アドバイザーを起用したりと、新たな試みを行なっていると声明を出した。
そして2022年の授賞式開催の約1週間前には「抜本的な変化」があったと主張。「この8ヶ月の間に、HFPAは規約を全面的に見直し、倫理と行動規範、多様性、公平性と包括性、ガバナンス、メンバーシップなどに対応した、上から下までの抜本的な変更を実施しました。HFPAは最近、これまでで最大数かつ最も多様な21名の新会員を入会させ、その全員がゴールデン・グローブ賞の初投票者です」と、改めて声明を発表した。
しかし映画スタジオやセレブ、放送局のNBCからは一切反応がなく、「抜本的な改革」があったとはみなされなかった。
ノミネート発表をセレブが完全スルー、スヌープ・ドッグが登場する謎の事態に
例年12月に行なわれるノミネート発表では通常様々なセレブがかわるがわる登壇しノミネート作品を発表するが、2021年12月に行なわれた第79回ゴールデン・グローブ賞のノミネート発表では、ラッパーのスヌープ・ドッグが1人で淡々とノミネーションを読み上げる形になった。しかもスヌープは候補者の名前の読み間違えを連発。ゴールデン・グローブの公式ツイッターも誤ツイートが目立ち、視聴者やセレブたちの失笑を買った。
また、例年ノミネーションの発表直後は各映画スタジオが嬉々としてSNSで自社作品がノミネートしたことを祝うが、今年は最多ノミネートとなったNetflixをはじめ、各社がスルー。映画『ハウス・オブ・グッチ』で主演女優賞(ドラマ部門)にノミネートされたレディー・ガガをはじめ、俳優賞にノミネートされた俳優たちも全く反応を示さなかった。
2022年はナイナイ尽くしの授賞式が開催、HFPAは新型コロナを理由にするが
そんな混沌とした状況の中で、2022年1月に第79回ゴールデン・グローブ賞が開催。候補者やスタジオが無反応を貫くなか、例年ゴールデン・グローブ賞を生放送している米NBCも2022年は放送を見送ると発表。観客もレッドカーペットも無しで開催するという異例の発表がHFPAから行なわれた。
HFPAは「パンデミックにおける(感染)急増のなか、健康と安全こそHFPAにとって最優先事項である」と、新型コロナウイルスの流行が理由であるとしたが、米Varietyによると、プレゼンターを依頼されたセレブは全員がその申し出を拒否したそうなので、出席したがる者がそもそもいないことが背景にあるよう。
2023年はレッドカーペットにセレブが戻る
記念すべき第80回目となった2023年は、多くのセレブが授賞式にカムバック。2022年はゴールデン・グローブ賞を完全スルーしたNetflixもイベントを行なったものの、"Celebration Toast(意味:お祝いの乾杯)"と題してゴールデン・グローブ賞の名前を出さないなど、まだ距離を取っていることが伺える面が多々あった。また、映画『ザ・ホエール』で主演男優賞にノミネートされていたブレンダン・フレーザーがHFPAのフィリップ・バーグ氏からの性的暴力を理由に出席を拒否するなど、HFPAに対する告発は続いた。
HFPAが解散へ、ディック・クラークとエルドリッジが主催へ
スキャンダル発覚から約2年半の間に団体としての存続を模索してきたHFPAだが、ハリウッドでの信頼回復をできることなく、創立80年という記念イヤーに団体の歴史に幕を下ろすこととなった。
2023年6月12日、テレビ制作会社であるディック・クラーク・プロダクションズ(DCP)と投資会社エルドリッジがHFPAの全資産や権利を取得したことを発表。今後はDCPがゴールデン・グローブ賞の主催団体となり、2024年1月7日(日)に新体制によるアワードを開催するそうで、「私たちは、この象徴的なブランドを成長させ、テレビと映画の最高傑作を祝うために、新しい視聴者と既存の視聴者を魅了するために、素晴らしいチームを編成しています」と、新たな門出であることを強調した。
2024年1月、ゴールデン・グローブ賞の新たな幕開けはハリウッドでどのように迎えられるのか。