スウェーデンカラーを基調にした、寒暖差に対応するコレクション
ユニクロが2022北京大会のスウェーデン選手団の公式ウェア開発に着手したのは、なんと約3年も前の2019年。冬のオリンピックは極寒の試合会場と温かい選手村などで寒暖差が激しいため、マイナス10℃、0℃、10℃という3つの異なるシーンを想定してウェアを開発。青と黄のスウェーデンカラーを基調にしたウェアは、アウター、ミドラー、ベースレイヤーの重ね着(レイヤリング)を可能にするラインナップになっている。
「高品質(クオリティ)」と「革新性(イノベーション)」にこだわったコレクションは、約7割に回収したペットボトルを使ったリサイクル素材を使用。ほかにも、リサイクルダウンやリサイクルフェザー、リサイクルナイロンの使用、天然素材の植物による染色やフッ素を使わない撥水加工剤の採用など、「持続可能性(サステナビリティ)」も追求している。
日本技術を用いたインクルーシヴ・デザインに選手団から喜びの声
夏の東京五輪2020でもスウェーデン代表団の公式ウェアを担当したユニクロは、選手たちからの細かいフィードバックをもとにウェアの開発を進めたという。担当者はフロントロウ編集部にこう話す。
「パフォーマンス向上のための軽さや動きやすさ、サイズのフィット感、デザイン性、ムレを解消するための通気性など、選手から様々なリクエストをいただきました。できあがったウェアについては、『動きを妨げずに快適に着用できる』といったコメントを数多くいただきました」。
選手の声を細部まで活かすというユニクロのこだわりは、パラリンピック選手のウェアにもよく表れている。例えば、車いすの選手の場合は座ったときに腹部まわりに衣類のもたつきが出やすいが、ユニクロが車椅子の選手と一緒に開発したハイブリッドジャケットでは、座った状態でも美しく見えるように人間工学に沿ってフィットを改善。「車輪に触れる際の動作を考慮し、袖口には堅牢な特殊素材を配置して擦れや汚れを軽減させる仕様にしたところ、選手関係者からは非常に喜んで頂きました」と担当者は話す。
開発段階から障がい者など当事者が参加する「インクルーシヴ・デザイン」の重要性はフロントロウ編集部でも以前からたびたび取り上げているが、ユニクロのスウェーデン代表公式ウェアこそ、その素晴らしい例と言える。
ちなみに今回の公式ウェアはのデザインは、オリンピックとパラリンピックで全く同じ。こちらも、ダイバーシティなコンセプトから生まれた結果のよう。
きっかけはスウェーデンのユニクロ店舗
スウェーデンと言えば、サステナビリティ先進国で、良い国指数(GCI)世界1位の国。品質だけでなくブランドカルチャーにもこだわる国民性を持つスウェーデンの代表団は、ユニクロの何にひかれてパートナーシップを決めたのだろうか?
ユニクロとスウェーデンのパートナーシップのはじまりは、2018年8月にスウェーデンの首都ストックホルムに北欧初のユニクロの店舗がオープンしたことにさかのぼる。現地でのユニクロの評判を経て、「ユニクロの『あらゆる人の生活を、より豊かにするための究極の普段着』というLifeWearの考え方と服のクオリティが評価され、スウェーデンオリンピック委員会(SOC)、ならびにパラリンピック委員会(SPC)からご提案いただき、代表選手団に大会公式ウェアを提供することとなりました」とユニクロ担当者は話す。美しくシンプルなデザインや現代的なライフスタイルを尊ぶスウェーデンで支持を得たことには、製品だけでなくカルチャーも含めたユニクロのブランド価値を物語っていると言える。
一方で、ユニクロとしては、「サステナビリティの先進国であるスウェーデンから服作りについて多くの学びがある」と考えたそう。実際に担当者は、「選手たちからのフィードバックをふんだんに取り入れ、細部に至るまで一切の妥協なく、お互いが納得行く品質まで高めて行けたことは、ユニクロとしても学ぶところが多くありました」と語っており、オリンピック・パラリンピックという極めて特殊な舞台でのウェア開発の過程で生まれた技術は、一般の商品にも取り入れられているという。
「例えば、昨年12月に発売した『SUW(スポーツユーティリティウェア)』の新アイテム『+S(呼称:プラスエス)』は、スウェーデンのトップ選手と共に開発された、優れた機能性とサステナビリティ要素を兼ね備えた、本格的なLifeWearです。動きを妨げずに快適に着用できる仕様や寒暖差の激しい山岳部から都市部までをカバーできる素材や構造のシステムなどの知見は、実着テストとラボテストで得た数値データとともに、今後の商品開発に活用していきたいと思います」。
オリパラという大舞台で日本の技術が認められ使われていることは嬉しいことだが、五輪からのバトンが開発部に渡されて日本の製品へと繋がっているのはさらに嬉しいこと。今後もこのパートナーシップには注目していきたい。(フロントロウ編集部)