※この記事には、『THE BATMAN-ザ・バットマン-』のネタバレが含まれます。
『ザ・バットマン』のヴィランたち
マット・リーヴス監督によるDCコミックスを原作とした単独映画『THE BATMAN-ザ・バットマン-』が大ヒット&高評価を記録している。
そのストーリーライン、音楽、映像、俳優たちの演技力など、すべてが上手くフィットし、米Rotten Tomatoesでは絶大な人気を誇るノーラン監督の『ダークナイト』3部作を抜く評価を打ち立てた。
そんな本作では、公開前からファンの注目を集めていたキャラクターがいる。それは悪役のジョーカー。
『ザ・バットマン』続編への繋がり?あの敵の存在感
本作のヴィランはリドラーだが、撮影中の2020年には関係者が米The Direstに、リーヴス監督は『ザ・バットマン』の2作目と3作目にジョーカーを登場させたい、1作目でもその存在を示唆したいと考えていると明かしていた。
そして2021年12月に公開された予告編を見たファンの間では、ジョーカーらしき人物の写真が壁に貼りつけられているのではないかという指摘があがり、その“口元”はバリー・コーガンのものではないかと予想されていた。
そして、そのファンの予想は見事しか言いようがない。
『ザ・バットマン』にはバリーが出演しており、その役名は“Unseen Prisoner (見えざる囚人)”。しかし劇中での彼の態度を見るかぎり、彼はジョーカーであることは確かだ。
「見えざる囚人」を登場させたリーヴス監督の意図
そこでフロントロウでは、バリーの出演についてリーヴス監督に質問。すると、ジョーカーが明確に登場するシーンも撮影していたが、カットしたことを明かしてくれた。
「あのキャラクターの名前は実際あまりよく見えないのもあって、“Unseen Prisoner”となっています。で、実は別のシーンをカットしています。
彼はリドラーと同じような犯罪を犯し、バットマンによってアーカムに囚われているわけですが、そこにリドラーをプロファイリングするためにバットマンが訪れる。リドラーが自分に手紙を書いていることで気持ちが落ち着かないし、リドラーの頭の中を理解し、何が起きているのかを知りたいからです。このUnseen Prisonerのアプローチを取ることでリドラーの心理に迫れないかと考えたわけです。
でもそのことで、Unseen Prisonerがバットマンの心理をかき乱し始める。『でもおまえだって同じなんじゃないか?』『理解できないって?2人ともマスクをつけた復讐者なのに?』『彼によって自分が弱く見えることを恐れているのか?』。
バットマンは、自分のことを話すためにきたわけじゃない、奴について話すために来たんだ、と返す。2人の押し引きが見られるシーンです」
ジョーカーの登場は、多くのファンを歓喜させるもの。そしてそれによって、『ザ・バットマン』の続編が制作される可能性が高いことが理解できる。しかし監督によると、バリーの出演は続編への繋がりではなく、あくまでバットマンやリドラー、そしてゴッサム・シティを描くうえで必要だったから採用されたものだと語ってくれた。
「あのバージョンのあのキャラクターは、何が起きているのか、という物語の心理と、それが物語にどう作用しているのかに踏み込めるように作られたキャラクターなんです。
アーカムにいるこのキャラクターの造形は、心理的に不穏なもので、人の心や最も脆いところに入り込むことができるというもの。だから彼と話すのはとても危険です。彼に見られるということは、彼に自分のことを知られるということだから。狡猾ですよね。
なので、何か他の目的で登場させようという意図ではなかったんです。これがこの作品での彼の役回りでした。もちろんこの先何があるかはわかりませんが。
でもあのシーンは物語の終わりでもあるのでとても重要でした。リドラーの最後のシーンですし、彼の物語はここで完結する。
実は一時このシーンはカットしていたんです。でもあった方が良いと気づいた。それは他の目的のためではなくて、リドラーのストーリーを完結させるのにとても重要だと思ったからです。
一方で、セリーナが街の話をしているシーン。いつかこの街に殺されるかもしれないし、この街がいかに危険な場所なのかと彼女が言います。でも(Unseen Prisonerの)シーンがないと、まだまだいろいろなことが(ゴッサムで)起きている、ということがそこまで実感できない、ということにも気づきました。
ブルースが(ゴッサムに)戻り、街をより良い場所にしたいと話している時も、僕たちには(状況を)反対方向に引っ張ろうとする力があることを既に知っていて、今が最も希望に満ちた瞬間であると同時に、極めて危険な瞬間でもあるのがわかる。事態は良くなるどころか、悪化する可能性だってあるんです。
そして、このことがバットマンとセリーナ・カイルを引き離す一因となっており、その重みは、アーカムでのあの2人のキャラクターのシーンがあることによって増幅される。だからあのシーンがあそこで必要だった。
他のストーリーや、作品用のイースター・エッグとかではないんです。このストーリーを掘り下げるために必要だったんです。
とはいえ、もちろん、この先あのキャラクターについては是非語りたいとは思っているし、あのキャラクターが何らかの形で戻ってくることはあるかもしれません。でも、このストーリーに登場するのは他のストーリーのためというのではなく、そういう不穏な心理学に踏み込むためでした。
この時点でバットマンは自分とリドラーの似ているところに目を向けたくはないし、似ているところがあるということ自体が彼を居心地悪くさせる。このことはストーリーの展開と共に進化していく。だから、リドラーとの物語を終えた時、あのシーンがないと、あそこまで響かない。そのためにあのシーンはあそこに入っているんです」
インタビューの内容からも分かるとおり、監督は彼のことを一度も「ジョーカー」とは呼ばなかった。そのことからも、本作における監督から彼への姿勢が理解できる。しかし、続編が制作されることになれば、バリーがメインのヴィランを演じることに期待がかかるだろう。
監督は2017年に米FANDANGOのインタビューで、「重要なことはまず始めることでしょう…。1作品目をスタートさせないと。なにかの始まりになる物語を始めないといけないのです。『猿の惑星』のシリーズが最初から計画されていたものであったと私が言ったら、それは嘘になる。なぜなら、そうではなかったから。キャラクターが非常に強力で、始まりから可能性が感じられる作品ではありました」と話していた。
『ザ・バットマン』はすでに2本のスピンオフドラマの制作が決定しており、1つは精神病院のアーカム・アサイラムを描くもの、1つはコリン・ファレル演じるヴィランのペンギンが主人公となるもの。『ザ・バットマン』のユニバースがどのように拡大していくのか。リーヴス監督の手腕に期待。
(フロントロウ編集部)