『ファミリア』は大切な人との“相互依存”を称賛するアルバム

「私たちの文化においては、自立について、そしてここまで誰の手も借りず、自分一人でやってきたなどとよく話すものだけれど、それはあまりにも美化しすぎていると感じます」
オフィシャル・インタビューにて。
現代社会ではしばしば、“自立”を定義する時に“自分ひとりの力で立ち上がること”と定義づけられることがあるが、2021年11月に恋人ショーン・メンデスとの破局を経験し、“自立”を余儀なくされたカミラは、そうした考えにオフィシャル・インタビューでそう反論する。

カミラにとっての自立とは、大切な人たちとお互いに支え合いながら立ち続けること。2022年4月8日にリリースしたソロとしてのサードアルバムで、自身のラテン系としてのルーツにオマージュを捧げて、このアルバムのタイトルにスペイン語で“家族”を意味する『Familia(ファミリア)』を選んだカミラは、本作で大切な人たちとのそうした関係を祝福する。
ここでいう家族とは、必ずしも肉親に限らず、友人や恋人といった大切な人たちも当てはまる。カミラは本作について、大切な人たちとの“相互依存”を称賛するアルバムだとして、オフィシャル・インタビューで次のように説明している。

「このアルバムで、私は相互依存を称賛したかったのです。感情的に、精神的に、そしてスピリチュアルな面でより成功するのは、素晴らしい仲間がいてくれて、結束の固いコミュニティ、熱い友情、人間関係がある時だと思うので」
オフィシャル・インタビューにて。
メンタルヘルスの悩みを初めて音楽で表現

「私にとってこのアルバムを作るというのは、とにかく無防備でありたい、正直でありたいという心境になることでした」
オフィシャル・インタビューにて。
「その瞬間に感じたことをなんでも話すことができると思えるような、安心できると感じさせてくれる環境をコラボレーターたちが作ってくれた」とオフィシャル・インタビューで語るように、カミラは、安心して無防備になれるような環境の中で完成させた『ファミリア』で、ありのままの彼女をすべて晒け出している。
メンタルヘルスの悩みを赤裸々に打ち明けてきたカミラ・カベロ
明るい自由奔放キャラで知られるカミラは、これまでにSNSなどを通じて自身が抱えるメンタルヘルスの悩みを赤裸々に打ち明けており、精神障害の一種である強迫性障害(OCD/※1)を抱えていることや、新型コロナウイルスによるロックダウンの直前には、燃え尽き症候群(※2)に陥っていたことを公表してきた。
※1:自分の意思に反して不合理な考えやイメージ、行動を繰り返してしまう精神障害で、症状としては、抑えようとしても抑えられない“強迫観念”と、それによる不安を打ち消すために無意味な行為を繰り返す“強迫行為”の両方が見られる。
※2:過剰かつ長期的なストレスにより、感情的、肉体的、精神的に疲弊した状態を指す。一生懸命な人ほど陥りやすく、ストレスが続くと、仕事などそれまで熱心に取り組んでいたことへの興味やモチベーションが失われていく。

自身が抱える精神的な不安を積極的にファンに共有してきたカミラだが、そうした自身のメンタルヘルスについて、楽曲を通じて表現するのは今回の『ファミリア』が初めて。
「インタビューではよく、自分が抱える不安 やメンタルヘルスについて語ってきたけれど、それらを音楽の中で表現したことはなかった。それは常に他人に良いところを見せようとしてきたからであって、自分がすべてをちゃんとこなしていると見せたかったからなのかもしれない。 自分以外の人たちがみんな、すべてをしっかりこなしているんだとばかり思っていたので。でも今回は自分をさらけ出し、ありのままの自分でいるということを、実際にやりたいと思いました」とオフィシャル・インタビューで語った。
「サイコフリーク(psychofreak) feat. ウィロー」で日常的に抱える不安や葛藤を告白
「皆と同じになれたらいいのに/でも私は誰とも違う」
そんなカミラが自身の抱える不安や葛藤を歌詞に載せて歌った1曲が、ウィル・スミスとジェイダ・ピンケット・スミスを両親に持つウィローをフィーチャリングに迎えた「サイコフリーク(psychofreak)」。
フィフス・ハーモニーの一員としてデビューし、今ではインスタグラムで6,100万人を超えるフォロワーを持つトップスターの1人となったカミラだが、この曲では、「みんな昔の私が懐かしいって言う」と、昔の自分を懐かしむ周囲の声に葛藤する気持ちや、「インスタでは『癒された』なんて書いてるけど」「ごめんね、こんなに憂鬱になると思わなかった」と、インスタで見せている姿はありのままの自分ではないという本音を打ち明ける。
カミラは、「丘の上の家はトランプで作った家/まばたきしたら おとぎ話は壊れて消える」と、自分が作り上げるものがすぐに壊れてしまうように感じる不安も歌いながら、「私ってエイリアンかも 地球は大変」と、日頃抱えているプレッシャーを吐露する。

(左から)2018年から活動を休止しているフィフス・ハーモニーのダイナ・ジェーン、アリー・ブルック、ノーマニ・コーディ、ローレン・ハウレギ。
カミラはこの曲で、「私は15 歳からこの道を歩んできた」と、若くしてこの業界に入ったことで名声に葛藤することになった事実にも触れているが、デビューから2016年に脱退するまで在籍していたフィフス・ハーモニーのメンバーとの、一部でささやかれてきた確執説については、「それでどうなったか彼女たちを責める気はない」と一蹴。
米Reutersとのインタビューでは、「サイコフリーク」の歌詞でフィフス・ハーモニー4人のメンバーについて歌っていることを認めた上で、メンバーたちとの関係は至って良好だとして、「私たちはダイレクトメッセージなどを通じてお互いにサポートしてきました。彼女たちとはとても良い関係にありますよ」と明言している。
ショーン・メンデスとの関連を匂わせる楽曲もたくさん

もちろん、2021年11月にショーン・メンデスとのおよそ2年半の交際に終止符を打ってからは初のアルバムとなった本作では、ショーンとの関係を思い起こさせる楽曲も数多く収録されている。
「ドント・ゴー・イェット(Don't Go Yet)」はショーンとの交際中に完成
「置いてかないで 今夜の私はあなたのものなのに/もう少しだけ まだ行かないで」
まだショーンと交際中だった時期にリリースされたシングル「ドント・ゴー・イェット」では、多忙な毎日を送る恋人と離れる寂しさを表現。カミラは、「そんなこと言うの?/飛行機に乗るから 早く寝なくちゃ、だなんて/だめよ まだ行かないで」と、早起きのために自分よりも早く寝ようとする相手に繰り返し投げかけ、まだ一緒に夜を楽しみたいと赤裸々に歌う。
「ドラマチックな夜のためにこのドレスを着ているのに/ホントはわかってるくせに わかんないって言うならこの私が教えてあげる/欲しいと思った時に欲しいものを手に入れたいの 私のやり方で」
「ラ・ブエナ・ビダ(La Buena Vida)」で綴る人生への焦り
「私の20代が終わっちゃう/そんな人生は望んでない」
自身のラテンルーツにオマージュを捧げ、カミラの父親であるアレハンドロもバックボーカルで参加した、スペイン語で“いい人生”を意味するタイトルが付けられた「ラ・ブエナ・ビダ(La Buena Vida)」。この曲でも、多忙な恋人の不在を寂しく思う心境が吐露されているが、ここでは少し意味合いが異なる。
カミラは、陽気なラテンのサウンドをバックに跳ねるように歌いながらも、「ここにいてよ 仕事じゃなくて/今夜は一緒にいてほしいのに あなたはいつも働いてばかり」「あなたのワイングラスを手に なぜ家にひとりでいるんだろう/Oh no, oh no/そんな人生は望んでない」と、「ドント・ゴー・イェット」よりも後ろ向きな感情を打ち明けている。
現在25歳のカミラは、「私の20代が終わっちゃう」と焦る気持ちを歌い上げ、「いい人生 いい人生はどこにある?/いい人生 いい人生はどこにある?/あなたが必要 あなたはどこにいる?」と、自分には愛されることが必要だと繰り返す。
「ボーイズ・ドント・クライ(Boys Don’t Cry)」ではトキシック・マスキュリニティに言及
「誰が言ったの 男の子は泣かないはずなんて」
『ファミリア』で大切な人との“相互依存”を祝福しているカミラは、「男の子は泣かない」を意味する「ボーイズ・ドント・クライ」で、“男は泣いてはいけない”、“男は弱さを見せてはいけない”というトキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)の呪縛からボーイフレンドを優しく解放する。
カミラは「何度私を助けてくれたか あなたは気づいていない/何を隠しているの そんなことをしても事態を悪化させるだけなのに」と、自分を何度も救ってくれた相手に向けて、悩みを隠さないでと促し、「あなたの苦しみを私に分けて 肩の重荷を軽くしてあげるから/怖がらないで身を委ねて 抱きしめてあげるから」と語りかけている。
トキシック・マスキュリニティに声をあげてきたショーン・メンデス
日本語では「有害な男らしさ」や「男らしさの呪縛」とされている「トキシック・マスキュリニティ」とは、“弱さを見せてはいけない”、“強くいなければいけない”といった、社会が男性に対して“男らしさ”を設定し、その“らしさ”に沿わない行動や思想を罵ったり、バカにしたりして排斥することや、またはその概念のことを示す。

カミラとお互いのメンタルヘルスもケアしながら交際していたショーン・メンデスはかつて、トキシック・マスキュリニティについて、2020年12月にET Canadaとのインタビューで次のように語っていた。
「(トキシック・マスキュリニティは)僕にとって、不安の大部分を引き起こす原因となっています。常に強く、より大きく、より良い存在であることを心がけ、悲しんだり、不安や困惑を感じたりしてはいけないという観念です。本当の強さというのは、そういう(悲しみや不安といった)感情を感じ、涙でそれを解放できる強さと弱さから生まれるものだと思います」
「バン・バン(Bam Bam) feat. エド・シーラン」で“人生はそんなもの”と前を向く
「人生ってそういうもの/もう立ち上がれないと思ったのに/今は踊っている」
「ラ・ブエナ・ビダ」で「私の20代が終わっちゃう」「いい人生はどこにある?」と焦る気持ちを歌っていたカミラだが、自身のアイドルだと公言しているエド・シーランを迎えた「バン・バン」では、「今あなたの知らない誰かと踊っているの/あなたも別の誰かとデートをしているんでしょう/時の流れって残酷ね」と、元恋人同士がそれぞれ新しい相手といい雰囲気になっていることに触れつつも、「それが人生」と吹っ切れた様子。
『ファミリア』というタイトルを表現するように、仲の良い女友達と思い切り遊びながら失恋を吹っ切る様子を描いたミュージックビデオにも注目のこの曲で、カミラは「それが人生/人生を生きて」と繰り返し歌い、聴く人たちを励ましてくれる。

「ある人物が自分の理想の相手だと思っていても、最終的にはそうじゃなかったということがある。あんな人に出会うことはもう二度とないだろうと思っても、それでも別の出会いがあって、その人こそが理想的な相手だっていうこともある。何が起こるかなんて分かりっこない。それが人生というもの。(この曲では)それについて笑い飛ばしている というところがあります。そういう意味で、この楽曲は他とは違うと思います。そういうメッセージを持たせた曲にしたいと決めていました」
オフィシャル・インタビューにて。
ラテン系としての自身のルーツにトリビュート
アルバムのタイトルに『Familia(ファミリア)』というスペイン語が使われているように、カミラがメキシコ系とキューバ系の血を引くラテン系としての自身のルーツにオマージュを捧げたこのアルバムでは、スペイン語がふんだんに使われている。カミラは、普段自分のそうしたルーツとどのように向き合っているかについて、オフィシャル・インタビューで次のように語っている。

「自分らしさ、そしてどういう人物になりたいと思うかというのは、私が受け継いできたキューバとメキシコの伝統によるところが大きいと思っています。私の開放的な部分や遊び心、官能性、カラフルさ、プライドは、それらの文化から来ています」
オフィシャル・インタビューにて。
「アスタ・ロス・ディエンテス(Hasta Los Dientes )feat. マリア・ベセラ」など全編スペイン語の曲も
「分け合うなんて嫌よ あなたを独り占めしたい/ほら 体が火照っているのがわかる?」
カミラは『ファミリア』で、スペイン語圏のシンガーたちをトリビュートしており、「私はキューバの女」という歌詞も登場する全編スペイン語による「セリア(Celia)」では、キューバはハバナ出身のシンガーである故セリア・クルスをオマージュ。
さらに、「アスタ・ロス・ディエンテス」では、アルゼンチン出身のシンガーであるマリア・ベセラをフィーチャリングに迎えて、こちらも全編スペイン語による楽曲を通して、「あなたにキスをされても心が疼く/こんな風に彼女にもキスをしたのね/分け合うなんて嫌よ あなたを独り占めしたい」と、恋人の元カノに嫉妬してしまう心情を情熱的に歌い上げている。
「ローラ(Lola)feat. ジョトゥエル」では社会的なメッセージも発信
「ローラなら月の上すら歩けそうだった/人類に救いをもたらす存在にだってなれた/でも家族は食べるものがなかった/だから学校をやめて働きに出るしかなかった」
自身の出身国であるキューバに直接的に言及した「ローラ」は、カミラがこれまでリリースした中で最も社会的なメッセージが込められた楽曲と言える。カミラは、キューバのヒップホップ・アーティストであるジョトゥエルをフィーチャリングに迎えたこの曲で、キューバにおいて、女性がなかなか夢を追えない現状に警鐘を鳴らしている。
「ローラ/信じられる世界と約束された未来があった/でも大人になって わかり合える人はいなくなった/何日も電気が使えないし いつまでも食べものは手に入らない/何も変わらない あの頃植え付けられた夢とは大違い」「ハバナには たくさんのローラがいる」
ラテン系を代表していることは誇りとカミラ
自身のメンタルヘルスと誠実に対話し、1人の女性として自分が内面に抱える不安を表現しながらも、ラテン系を代表するアーティストとしての責任とも向き合い、自身のルーツにトリビュートを捧げたカミラ。そんな彼女は、自身の楽曲に社会的/文化的なメッセージを込めることについて、オフィシャル・インタビューで「世界の人が聴くということはあまり意識しない」と前置きしつつも、次のように語っている。

「そういった社会的なインパクトについては嬉しく思います。私はラテン系を代表しているということを誇りに思いますし、女性であること、答えを模索している若者であることを誇らしく思います。そういった私の姿に、人々が自分を重ねてくれることに喜びを感じます」
カミラが無防備なありのままの自分自身を晒け出したという『ファミリア』には、カミラが“相互依存”の関係にあると頼りにする、家族や友人、恋人への心からの愛が存分に詰め込まれている。彼女のルーツでもあるラテンの音楽も手伝い、陽気なサウンドも鳴らされる本作は、不安を抱えている人たちをカミラが“私を頼っていいよ”と優しく受け入れ、前を向かせてくれるような安心感に満ちている。
<リリース情報>

最新アルバム
『Familia | ファミリア』
「バン・バン feat. エド・シーラン」「ドント・ゴー・イェット」等収録
2022年4月8日(金)全世界同時発売(国内盤・輸入盤・配信)
音源再生/ダウンロード/アルバム購入リンクはこちら。https://lnk.to/CamilaCabelloFamiliaFT
1.ファミリア
2.セリア
3.サイコフリーク feat. ウィロー
4.バン・バン feat. エド・シーラン
5.ラ・ブエナ・ビダ
6.クワイエット
7.ボーイズ・ドント・クライ
8.アスタ・ロス・ディエンテス feat. マリア・ベセラ
9.ノー・ダウト
10・ ドント・ゴー・イェット
11.ローラ feat. ジョトゥエル
12.エヴリワン・アット・ディス・パーティー
<国内盤>
【完全生産限定盤】
<豪華3つの特典> ①オリジナル・ポストカード(8枚セット)②オリジナル両面ポスター ③オリジナル・フォト
CD1枚:2,700円(税抜)|2,970円(税込)
【通常盤】
CD1枚:2,400円(税抜)|2,640円(税込)

完全生産限定盤に封入されるオリジナル・ポストカード、オリジナル両面ポスター、オリジナル・フォト。
lnk.to(フロントロウ編集部)