アメリカの女性たちが中絶の権利を侵害される危険に直面するなか、スターバックスが、中絶を必要とする従業員の移動費を負担すると発表した。(フロントロウ編集部)

ロー対ウェイド裁判がひっくり返される危険性

 「ロー対ウェイド裁判」は、妊婦であるジェーン・ロー(仮名)がヘンリー・ウェイド地方検事に対して、中絶を禁止する州法は違憲であるとして裁判を起こし、連邦地方裁判所および最高裁判所が州法は違憲だと判断したことで、1973年にアメリカで女性の人工妊娠中絶の権利が認められた歴史的なもの。

 しかし、2022年5月の初めに米最高裁によるロー対ウェイド裁判の判決を覆す草案がリークされ、最高裁も、草案は最終的なものではないとしながらも本物であることを認めた。

 判決が覆されるという危険性は、急に起こったことではない。これまでには、多くの団体や識者が判決を成文化(※)することを求めてきた。
 ※ボストン大学法科大学院のリンダ・マクレーン教授によると、成文化するというのは、権利や規則を正式に法制化するということ。連邦法という形で議会が制定することで可能になるという。また、州議会も法律を制定することによって権利を成文化することができる。判決が成文化されれば、それはすべての州をまとめるものになるという。

画像: ロー対ウェイド裁判がひっくり返される危険性

 判決の成文化は長年求められてきたことであり、バラク・オバマ元大統領は上院議員だった2007年に、大統領となったら早急に判決を成文化すると約束していたが、2009年に大統領選で当選した後に「法関連で最も優先することではない」とコメントし、実現しなかった。

 そして保守派のドナルド・トランプ氏が大統領だった期間に、彼は異例となる3名もの最高裁判事を指名。これにより、判事9名のうち保守派が6名、リベラル派が3名となり、最高裁が保守派寄りの判決を下す可能性が高くなっている。ちなみに、米最高裁は終身任期。

 最高裁による草案がリークされた直後に、ジョー・バイデン現大統領は成文化に向けて取り組むと発表したが、実現は難しいと見られている。

スターバックスが中絶を求める従業員への支援を発表

 判決が覆された場合、女性の中絶の権利を合法とするか、違法とするかは、各州の判断に委ねられることになる。NPO団体プランド・ペアレントフッドによると、もしも判断が覆った場合、直ちに中絶を原則禁止とするとしている州は、テキサス州、ルイジアナ州、ミズーリ州、ユタ州ほか12州。その他14の州でも中絶禁止に向けた法律の制定が進むと見られる。

 そんななかスターバックスが、中絶を求める女性従業員が、そのために家から約160キロ以上離れた病院や医療機関に行かなければならない場合、その移動費を負担することを発表した。

 スターバックスのパートナーリソース部門の副主任代理であるサラ・ケリーは、「多くの従業員に重くのしかかっていることを理解しています。なので、前もって明確にさせてください。最高裁がどのような結論に至ったとしても、私たちはいつでもパートナーたちが良いヘルスケアにアクセスできるように保障します」と声明を発表している。

 米ガットマッハー研究所によると、もし判決が覆された場合、中絶を受けるためにかかる平均距離は25マイル(約40キロ)から122マイル(約200キロ)にまで増加する。スターバックスの他にも、金融企業のシティグループやテスラ、レストランレビューで知られるYelpなどが、中絶を必要とする女性従業員の移動費を負担すると発表している。

 また、スターバックスは、トランスジェンダーやノンバイナリーの人々のためのケアであるジェンダー・アファーミング・ケアを受けるために遠方へ行かなければいけない従業員の移動費も負担すると発表している。

(フロントロウ編集部)

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