飢えずに、普通に食事を取るようになったら「木の幹」のようだと男性記者に書かれた。エマ・トンプソンが警鐘を鳴らした。(フロントロウ編集部)

セックスシーンが必要かを決定しているのは誰?

 映画『ラブ・アクチュアリー』や『ハリー・ポッター』シリーズ、『いつか晴れた日に』などで知られる俳優のエマ・トンプソンは、今年で63歳。何十年と映画業界で女性俳優として活躍してきた彼女は、新作映画『Good Luck to You, Leo Grande(原題)』で、夫を亡くし、安定していた一方で退屈だった結婚生活を送るなかで、セックスワーカーのレオを雇って一夜を過ごそうとするナンシーを演じた。

 彼女は過去に、「(男性俳優が)40歳や30歳年下の誰かと一緒にいても何事もなく受け入れられるでしょう。でももし私がロマンチックな関係で誰かといるなら、制作陣は誰か(相手役を)見つけ出さなくてはいけません」と、映像作品では女性と男性の描かれ方が「徹底的にアンバランス」だと指摘しており、本作はそんな彼女による、じつは挑戦的なコメディ映画だと言える。

 そんな作品について英The Timesに話すなかで、エマは、じつはこれまでにセックスシーンをオファーされたことがないという事実を明かした。

 「セックスシーンをオファーされたことはないんですよ。私の母が言うに、私は“良い”女性を演じ、“知性に訴える”女性を演じてきました。さらに私は、みんなが裸を見たいであろう体型や外見に合わせたこともない。“みんな”というのは、上層部の男性のことです。私はおしゃべりすぎるし、充分に可愛くないし、正しい体でもない。そして驚くことに、私たちは自分はどんな体型をしているかを常に言われています」

 女性俳優が不必要にセックスシーンやヌードシーンを強要されてきたことは問題となっており、最近では改善のためにストーリーを語るうえで必要のないセックスシーンは削除したり、俳優を守るためにインティマシー・コーディネーターを配属したりする現場が増えている。

 映画俳優として成功しているエマの経験談からは、セックスシーンは女性俳優によっては避けられるものであり、つまりセックスシーンがなくても良い映画は作れ、すなわち特定の女性たちが必要ではないセックスシーンを演じさせられている作品が多くある、ということを物語っている。

 セックスシーンがなくても、例えば朝日が入る温かな部屋で、パジャマを着た2人が抱き合っているだけでも、その2人の間にある愛情の表現は出来ることもある。本当にそのセックスシーンは絶対に必要なのか、今後も制作陣に問いかけていく必要がある。

非現実的な細さの女性を標準だとする社会

 また、エマは体型についても話を進めた。メディアに登場する女性は“細い”ことが多いが、カメラを通しているため気づきづらいが、その細さは“非現実的”なほどだという。

 「過去にした1つのインタビューでは、男性のジャーナリストに、ドラマ『Fortunes of War』に出演してから体重がかなり増え、私の脚は“今では木の幹のよう”で、私は“落ち込んでいる”だろうと書かれたことがあります。当時私は31歳で、正直に言って、自分を飢えに苦しませなくなったからです。人々は、多くの女優が実生活でどれだけ細いかに気がついていないと思いますね。彼女たちは非常に…、非現実的ですよ」

 普通に食事をしている女性の体型が、“木の幹のよう”だと表現される世界では、細くなるには“食べない”という、病気に繋がりかねない選択肢が出てきてしまう。実際、食べないダイエットをしたことがある女性は少なくないはず。

 非現実的な細さの女性像ばかりが映されることも、その細さが標準で、“普通は太っている”とされることも、深刻な社会問題。とくにメディアが発信する女性像や発言、価値観は社会に影響を与える。映像作品の制作陣も、メディア関係者も、自分が抱える責任について考える必要がある。

(フロントロウ編集部)

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