2022年、アヴリル・ラヴィーンから大きな影響を受けた若手たちが大活躍中

「この20年以上の間、私のショーでは同じエネルギーや雰囲気を保ち続けてきました。みんなでロックして、モッシュして、ジャンプして、拳を突き上げるんです。『(ロックが)帰ってきた!』って言う人もいますけど、私としては、『私にとってはずっとこうだったよ!』っていう感じです」
ー米Bustleとのインタビューにて
2022年にデビュー20周年を迎え、2月にはポップパンクに回帰した最新スタジオアルバム『ラヴ・サックス』をリリースしたアヴリル・ラヴィーン。
一方で、音楽シーンでは、アヴリルから多大な影響を受けた若手アーティストたちが台頭中。現在19歳のシンガーソングライターであるオリヴィア・ロドリゴは、アヴリルからの影響が感じられるポップパンクのシングル「good 4 u(グッド・フォー・ユー)」で全米1位を獲得し、同じくアヴリルのファンを公言しているヒュニンカイが所属するK-POPグループのTOMORROW X TOGETHERは、アヴリルのボーイフレンドであるモッド・サンをコラボレーターに迎えた「0X1₌LOVESONG(I Know I Love You)」をリリースした。

「私はあなたの大ファンで、心から尊敬しています」とアヴリルに伝えたこともあるオリヴィア・ロドリゴは、2022年4月からスタートさせた自身初のツアーの全公演のセットリストに、アヴリルの『レット・ゴー』に収録されている「コンプリケイテッド」のカバーを含んでいる。
加えて、自分らしさを貫き続け、現代のティーンたちにとってのカリスマ的存在となっているビリー・アイリッシュも、「今の私がいるのはあなたのおかげ」とアヴリルに感謝。ウィル・スミスとジェイダ・ピンケット・スミスを両親に持つミュージシャンであるウィローも、「彼女はアイコンのような人。13歳〜16歳の頃の自分にとってのアイドルだった」と、アイデンティティを形成する10代の時期にアヴリルから大きな影響を受けたことを公言している。

アヴリルに会えて満面の笑みを浮かべるビリー・アイリッシュ(左の写真)と、憧れのアヴリルとコラボ曲「G R O W(グロウ)」もリリースしたウィロー(右の写真)。

左から時計回りに、アヴリルと交流するリル・ナズ・X、アヴリルと挨拶を交わしているザ・プリティ・レックレスのテイラー・モムセン、アヴリルを「エモ・クイーン」と崇めるヤングブラッド。
アヴリルの影響を受けた若手たちが活躍し、シーンではポップパンクの再ブームやアヴリルの再評価が巻き起こっているが、本人が自分は20年間“ずっとこの姿勢を貫いてきた”と米Bustleに話すように、アヴリルは全世界で2,000万枚も売り上げた伝説的なデビュー・アルバム『レット・ゴー』の時から、ずっと変わっていない。
今回、『レット・ゴー』が20周年を迎えたことを記念した『LET GO – 20th ANNIVERSARY EXPANDED EDITION』がリリースされたことを受けて、アヴリルが2002年に同作でシーンに与えた衝撃を改めて振り返る。
アヴリルの自分らしさが全面に出た『レット・ゴー』の名曲たち
地元・カナダで開催されたコンテストで優勝したことをきっかけにレーベルの目に留まり、16歳の時にレコード契約を結んだアヴリル。

契約を結んだ当時は、ブリトニー・スピアーズやクリスティーナ・アギレラといったポップスターたちが活躍していた時代で、アヴリルも当初は彼女たちのように、プロデューサーたちが主体となって書いた楽曲を歌うポップスターの卵としてデビューする可能性もあったというが、アヴリルはそういう売られ方はしたくないと拒否したという。

「自分が何をやりたいか、何をやりたくないかについて、私は明確な考えを持っていました。不安を表現した、バンドのような音楽をやりたいと思っていました」とアヴリルは英The Guardianに語っている。「(明るいサウンドの派手な)バブルガム・ポップのようなものはやりたくなかったんです。私は自分の感情を歌詞に落とし込みたかった」。
「レーベルは私が伝えたかったことに興味を持っていませんでした。彼らには彼らのやり方があったので、私と向き合って、私にリードさせてくれようとはしませんでした」とも語り、プロデューサーたちがメインで書いた曲を歌う可能性もあったことを明かしたアヴリルだが、最終的にはチームを説得して、デビューアルバムの段階から自身が主体となって書いた曲を歌うことができた。

「私はファーストアルバムの音楽を自分で書いたのですが、それはちょっとしたチャレンジでした。というのも、一緒に働くことになったプロデューサーやソングライターたちはみんな、違った想定をしていたようなので。彼らは自分たちがほとんどの部分を担うと思っていたんです。でも、私は『いいえ。ソングライティングは私にとってすごく大切なので』って伝えました」
ーカナダCBCとのインタビューにて
アヴリルが思うがままの感情を綴った『レット・ゴー』収録曲の歌詞には、カナダの小さな町から出てきたばかりのティーンエイジャーだったアヴリルが当時抱えていた、等身大の不安などが赤裸々に綴られており、同世代のファンたちや、多感な10代を経験したすべての人たちの心を掴むこととなった。ここでは、名曲揃いの『レット・ゴー』の中から、厳選した代表曲たちの歌詞を振り返る。
「Complicated(コンプリケイテッド)」
オリヴィア・ロドリゴのお気に入りでもある「コンプリケイテッド」で歌われるのは、他人の前で自分自身を取り繕おうとする相手に向けた、自分に正直に生きているアヴリルらしい、“カッコつけないでよ”というストレートなメッセージ。
カッコつけているつもりでも
あたしが見たらバカみたい
ねえどうしてあなたは自分から
わざわざ物事を難しくしてしまうの
あなたを見ていると
違う誰かの振りをしているようで
あたしはイライラしちゃうー「コンプリケイテッド」歌詞抜粋
「Sk8er Boi(スケ8ター・ボーイ)」
自身もスケーターだったアヴリルが「スケ8ター・ボーイ」で歌うのは、スケーターの少年に恋をした女の子が、その少年と付き合うまでを綴った物語風の歌詞。後にロックスターになるスケーター・ボーイの魅力を見抜けず、かつて彼を振った女性に向けて、主人公は「あの子はもう、あたしのもの」と宣言する。
お気の毒さま
惜しいことしたわね
運が無いってことよ
あの子はもう、あたしのもの読めなかったあなたが悪い
あの少年が、どんな大人になるか
目と目が合うだけじゃなく
あたしには内側の魂が見えるのー「スケ8ター・ボーイ」歌詞抜粋
「I'm With You(アイム・ウィズ・ユー)」
「あたしはあなたについて行く」を意味するタイトルがつけられた「アイム・ウィズ・ユー」では、まだ自分のことが理解できずに葛藤し、誰かと一緒にいることで自分の価値を見出そうとする10代特有の不安が歌詞に落とし込まれている。
やけに寒い夜
人生を考えてみる
手をつないでちょうだい
連れて行ってよ、どこか知らないところ
あなたが誰か知らないけれど、あたしは
あたしはあなたについて行くからー「アイム・ウィズ・ユー」歌詞抜粋
「Losing Grip(ルージング・グリップ)」
『レット・ゴー』の1曲目に収録されている「ルージング・グリップ」で歌われるのは、自分を大切にしてくれなかった相手への怒り。「大声で泣いてやる」と宣言したアヴリルは、「気にしたってしょうがない」と前を向こうとする。
これだけは言わせてちょうだい
置いてきぼりで、あたしは泣いた
外で待ちぼうけ
遠い目をして、にやついて
そうしてあたしは決めたのよ気にしたってしょうがない
そばにいてくれなかったじゃない
怖い思いをしてたのに
ひとりぼっちだったのにー「ルージング・グリップ」歌詞抜粋
恋愛はずっとアヴリルにとってのインスピレーションだった
『レット・ゴー』には、恋愛をテーマにした等身大の楽曲が多く収録されているが、デビューしてから20年が経った今も、恋愛はアヴリルにとって楽曲制作における重要なインスピレーション源であり続けている。

アヴリルとのデリック・ウィーブリー。
翌2003年にリリースされ、日本でも150万枚以上を売り上げるなどこちらも大ヒットとなったアルバム『アンダー・マイ・スキン』でも恋愛がメインのテーマの1つに。
さらには、2007年にリリースされ、文字通り恋愛をテーマにした「ガールフレンド」などで、“ロックプリンセス”の地位を確固たるものにした2007年リリースのサードアルバム『ベスト・ダム・シング』では、2006年に結婚した元夫であるサム41のデリック・ウィーブリーと共作。アヴリルはこの20年の間、ミュージシャンたちと恋に落ちることが多かったが、自身が惚れ込んだ彼らの創造性をアルバムにも活かしてきたことで知られている。
2010年にデリックと破局したアヴリルは、翌2011年に4thアルバム『グッバイ・ララバイ』をリリースしたのだが、ここでは再出発などをテーマにしつつ、元夫となったデリックと再び共作。その後、2013年にリリースしたセルフタイトル作『アヴリル・ラヴィーン』では、当時の夫だったニッケルバックのチャド・クルーガーをコラボレーターに迎えた。

アヴリルとチャド・クルーガー。
2019年には、難病のライム病の闘病生活を乗り越え、アヴリルは復活作となった『ヘッド・アバーヴ・ウォーター』をリリースしたのだが、ここでも、当時既に離婚を迎えていたチャドと共作。
さらに、アヴリルは今年に入ってからリリースした、“恋なんて最低”を意味するタイトルがつけられた原点回帰のポップパンク・アルバム『ラヴ・サックス』でも、文字通り恋愛をテーマに。それどころか、アルバムを共同制作したモッド・サンと恋に落ち、4月には婚約したことを発表した。

アヴリルとモッド・サン。
このように、アヴリルは自身の恋愛を楽曲制作のインスピレーションにし、アーティストたちの創造力と恋に落ちるということを繰り返してきたが、アーティスト活動の初期の頃から恋愛経験がアヴリルにとっていかに大切だったかが、恋愛をテーマにしたものが多かった『レット・ゴー』の楽曲たちからも窺い知ることができる。
スタイリストも自分!オリジナルのスタイルでファッションアイコンにも
アヴリルといえば、飾らないシンプルでロックなファッションでもデビュー当初から話題になり、一躍ティーンたちの間でファッションアイコンに。

アーティストたちが表舞台で活動する時には、スタイリストがついてアーティストをコーディネートすることが多いが、アヴリルがデビューしたての頃にはスタイリストがついておらず、デビューからおよそ1年は自分で衣装を準備していたという。

「私にはスタイリストがいなくて、1年間は繰り返し自分のスーツケースから自分の服を取り出して着ていました。それから、メイクやヘアの担当もいなくて。私はストレートで汚いロックなヘアスタイルという感じでしたけど、それが私を私らしくしてくれたとも思います」
ー米Nylonとのインタビューにて
自分で衣装を選んでいたことも手伝って、自分らしさが全面に出たアヴリルのオリジナルのファッションやメイクはたちまち話題に。

2002年に開催されたMTVビデオ・ミュージック・アワードに出席したアヴリル。授賞式の場でも、タンクトップにネクタイ、ゴツめのブレスレットという自分流のファッションをとことん貫いていた。
とりわけ、「コンプリケイテッド」のミュージックビデオでも着用していた、タンクトップにネクタイという組み合わせはアヴリルを象徴するスタイルとなり、2003年に地元カナダのバンクーバーで初めて凱旋ライブを行なった際には、既に自身のスタイルを真似したファンたちでいっぱいだったという。

「楽屋の窓から外を覗くと、ショーに来てくれたファンたちの列ができていました。しかも、みんな私みたいな格好をしていたんです。白のタンクトップにネクタイを着けて、黒のアイライナーをして。あれは驚きましたね」
ーカナダCBCとのインタビューにて

Y2Kムーブメントで再び当時のファッションに注目が集まる
当時、ファンたちを虜にしたアヴリルのスタイルは、20年の時を経て、2000年代のカルチャーがリバイバルしている昨今のY2Kムーブメントの中で再び注目が集まっている。
2021年6月にTikTokのアカウントを立ち上げたアヴリルは、初めての投稿として、「スケ8ター・ボーイ」のBGMをバックに、『レット・ゴー』期のアイコニックなネクタイ・ルックに身を包み、伝説的なスケートボーダーであるトニー・ホークとコラボした動画をアップ。この動画は2022年6月までに3,500万回以上再生されるなど、大きな話題になった。
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「Breakaway(ブレイクアウェイ)」
『レット・ゴー』の時期に制作されたものの、最終的にはトラックリストには入らず、その後ケリー・クラークソンに提供されて、ケリーの代表曲の1つになっていた「ブレイクアウェイ」。この曲のアヴリル・バージョンは、ファンがリリースを最も待望していた『レット・ゴー』期の未発表曲の1つで、今回、アヴリルが新たにレコーディングして、自身のボーカルを初めて吹き込んだ。
楽曲では、ファーストアルバムとなった『レット・ゴー』の時期らしく、出身地である小さな街から飛び出して、自分の力で人生を切り拓いていきたいという強い思いが歌われている。
あたしは翼を広げて飛び方を覚える
あたしはやるべきことをやる 空に届くまで
願い事をして、チャンスを物にして、変化を起こして
ここから飛び出して行くの
ー「ブレイクアウェイ」歌詞抜粋
「Why(ホワイ)」
『レット・ゴー』日本盤のボーナストラックとして収録されていた曲のため、馴染みがあるファンも多いはず。楽曲で歌われるのは、自分への愛を感じなくなってしまった相手をまだ信じたいという切ない気持ちで、アヴリルは何度も「どうして」と問いかけている。
どうして...
こんな気持ちになるはずじゃないのに
あなたが必要 あなたが必要なの
どんどん、日を追うごとに
こんなに辛いはずじゃないのに
あなたが必要、あなたが必要、あなたが必要なのー「ホワイ」歌詞抜粋
「Get Over It(ゲット・オーヴァー・イット)」
同じく『レット・ゴー』期に既に発表されていたこちらの楽曲は、当時、シングル「スケ8ター・ボーイ」のB面曲としてリリースされた1曲。アヴリルは別れても自分のことが忘れられない相手に呆れながら、「乗り越えなよ」と怒りをぶつけている。
こっちを向かないでよ
ウンザリだし、あなたの顔なんてもう見たくない
これ以上悪化させないで
もうあなたは去って、あたしを怒らせたんだから
最悪だよ、私は悲しくないし、もう去ったこと
よくあることでしょ、乗り越えなよ
ー「ゲット・オーヴァー・イット」歌詞抜粋
「Falling Down(フォーリング・ダウン)」
2002年に公開されたリース・ウィザースプーンの主演映画『メラニーは行く!』のサウンドトラックに提供された楽曲。アヴリルは「もし恐怖が将来の道筋を決めるというなら/あたしはそれには乗らない」という歌詞から幕を開けるこの曲で、自分がまだ将来の明るい若者であることを自覚し、将来は怖くないと宣言する。
あたしは落ちて行っている
あたしを止めようとしてみなさい
地面に着くのは心地がいいよ
顔から落ちて行くの
丘を登っていく人間たちのレース
あたしは落ちて行っている
ー「フォーリング・ダウン」歌詞抜粋
「I Don't Give(アイ・ドント・ギヴ)」
こちらも映画のサウンドトラックに収録されていた楽曲で、2003年公開の映画『アメリカン・パイ3:ウェディング大作戦』のサウンドトラックに提供されていたもの。遊びで付き合っていただけの男の子に向けて、“あなたが何て言ったって、あたしは気にしない”とアヴリルはストレートに言葉をぶつける。
やけになったりしないもん
ちっとも気にしてないもん
あなたが何て言ったって
そう、泣いたりしない
どこかのバカな男のためになんか
自分は完璧だって思ってる男のためになんかー「アイ・ドント・ギヴ」歌詞抜粋
「Make Up(メイク・アップ)」
こちらは『レット・ゴー』期にリリースされていたものの、アルバムには収録されなかった曲で、今回初めて配信されることに。アヴリルは「メイクなんてするつもりはない」と歌いながら、ありのままの自分こそが完璧だと力強く歌い上げている。
メイクなんてするつもりはない
自分らしさは隠さない
私はありのままでいる
もう一度自分に正直になるのー「メイク・アップ」歌詞抜粋
デビュー当初から自分のありのままの感情を歌詞に落とし込み、自分らしいファッションを前面的に楽しんでいたアヴリル。決して飾らない等身大の17歳のシンガーソングライターだったアヴリルは当時のティーンたちを熱狂させたが、『レット・ゴー』に収録されている楽曲で綴られる普遍的な感情は、世代を超えて、オリヴィア・ロドリゴといった今の10代たちも魅了し続けている。
アヴリル自身が語るように、アヴリルはこの20年の間、いつだって自分らしさを大切にしていたし、ファンたちの憧れであり続けた。今年で20周年を迎えた『レット・ゴー』には、アヴリル・ラヴィーンというアイコンの原点が詰まっている。
アヴリルは20周年に際して、SNSでファンに次のようにメッセージを寄せた。

「私がアルバム『レット・ゴー』をリリースしてから今日で20年。私の人生に与えることになった不朽の影響なしに、このアルバムが私にとっていかに大きな意味を持っているかを説明することはできません。私が17歳の頃に書いた曲たちが、20年も経った今でも人々に共感してもらえるなんて、なかなか理解できません。クレイジーなことだと思います。このアルバムは私を夢にも思わなかった道や場所へ連れて行ってくれました。毎日毎日、そのことに感謝しています。
このアルバムと繋がりを持ってくれて、それ以来、ずっと私と一緒にいてくれるみんなに感謝しています。ステージの上でも毎晩話していますが、私は音楽を作れたり、ツアーしたり、思う存分に楽しめていることを本当に幸運に思ってます。私はこの瞬間をみんなと共有したい。だってみんながいなかったら、この曲たちはあれほどの場所に到達できなかったのですから。私の音楽を聞いてくれて、一緒にいてくれているすべての人たちに心からの感謝を伝えたいです。
『レット・ゴー』20周年おめでとう。そしてこれから次の20年へ」
<リリース情報>

アヴリル・ラヴィーン
『LET GO – 20th ANNIVERSARY EXPANDED EDITION』
配信中
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(フロントロウ編集部)