マイケル・J・フォックスが演じられない役とは?
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』バック・トゥ・ザ・フューチャー3部作や『摩天楼はバラ色に』、ドラマ『グッド・ワイフ』などで知られるマイケル・J・フォックスは、1991年にパーキンソン病だと診断され、1998年に病気を公表。病気とともに俳優としてのキャリアを続けてきた彼は、あることを含む作品への出演オファーは断ることに決めているという。それは、長いセリフ。
パーキンソン病によってセリフを覚えることが徐々に困難になっていったというマイケル。彼はポッドキャスト番組『Working It Out』のなかで、2019年公開のクエンティン・タランティーノ監督による映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の、レオナルド・ディカプリオが演じた俳優リック・ダルトンがセリフを覚えられずに取り乱すシーンを例に出して、こう語った。
「(ディカプリオのキャラクターは)西部劇のシーンをやっていて、セリフが覚えられなかったんです。彼は控え室へ戻って、自分自身を怒鳴りつけ、鏡越しに自分を罵倒して、そしてアルコールを飲んでいた。めちゃくちゃな状態です。そしてそれを見た時に思ったんです。『そんな風に感じたくない。そう思うのは間違っているか?そう思うのは正しいか?』と。いずれにせよ、私はセリフが多い作品には出ません。できないから。理由がなんであれ、そういうことです。5ページにもなるセリフを覚えることはできない。私はそれができない。だからビーチへ行くのさ」
出来ないことは仕方ない。だから、長いセリフがある作品以外に出演しよう。マイケルの口ぶりからは、彼の前向きな姿勢が感じられる。彼は、2009年から2016年まで続いたドラマ『グッド・ワイフ』で遅発性ジスキネジアを患う嫌味な弁護士のルイス・ケニングを演じ、エミー賞に3年連続のノミネートを果たしたが、本作でもセリフを覚えることは難しかったという。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』より前に開始された主演ドラマ『ファミリータイズ』の頃はもちろんのこと、ブライアン・デ・パルマ監督による1989年の戦争映画『カジュアリティーズ』では、70ページにもおよぶセリフを覚え、「あの非常に高価なステディカムのシーンは、私がセリフを理解しているかどうかにかかっていると分かっていた」と振り返り、そして見事に演じきった過去を持つマイケル。
俳優として成功していた彼が、キャリアの早々に病気が原因で俳優業の非常に重要な要素をこなせなくなっていたという事実には胸が痛む。しかしマイケルは、当時から前向きな視点でこの問題を見ていたようで、「でも本当にスッキリしていたと言えるのが、私はパニックにはならなかったんです。怯えもせず、ただ、『そうか、そうなったなら、別の方へ進むしかない』と思いました。制作において重要な要素は、セリフを覚えることです。しかし私はそれができない」と話した。
彼の姿勢からは、時にはできないことはできないと割り切って、別のやり方を探したり、別の方向へ進んだりすることも大事だと感じさせられる。
(フロントロウ編集部)