俳優のヒラリー・バートンとジェフリー・ディーン・モーガンが、中絶の権利が違法となったことで、流産を経験する女性が直面する問題に激怒。(フロントロウ編集部)

流産を経験したヒラリー・バートン、中絶禁止に怒り

 アメリカの最高裁で女性の中絶の権利を保障してきた「ロー対ウェイド」判決が覆され、州によって人工妊娠中絶を禁止し始めている。明らかに女性の権利を制限し、選択肢をはく奪するものだが、これによって「流産」を経験する女性にも危険な負担がかかってくることは広くは知られていないと言える。

 まず、流産は多くの女性が経験するもので、日本産婦人科学会によると、医療機関で確認された妊娠の15%前後が流産になるが、妊娠した女性の約40%が流産しているとの報告もあるという。流産の原因として多いのは赤ちゃん自体の染色体等の異常だそうで、学会は「受精の瞬間に流産の運命が決まることがほとんど」だとしており、女性が責任を感じる必要はない。

 そして、ドラマ『ワン・トゥリー・ヒル』や『ウォーキング・デッド』で知られる俳優ヒラリー・バートンは、夫ジェフリー・ディーン・モーガンとともに何度も流産を経験したことを公表している。流産の経験はそれだけで女性に大きな負担となるが、中絶の権利が保障されなくなった現在、彼女が怒りの思いを綴った。

 「これは私の子。愛されている子。私の娘。私が不妊に苦しんだのは秘密ではない。彼女の前に何度も流産したのはトラウマだった。でも女性の身体はそれぞれ異なっていて、予測できるものではない。私の胎児が死んだ後に中絶を受けることができたことで、私の子宮は癒えて、未来で妊娠できるほど健康になれた。D&C(※)という言葉を使おうと関係ない。病院の書類で使われる公式な言葉は中絶。そういうこと。
 ※頚管拡張と鋭匙による掻破法

 そんな辛い日をさらに悪くすることは何か分かる?もし中絶が違法になったら、警察が私の身体を調べて、流産は私が起こしたものではないと確認する。それがこれから起こること。すでに起こっている。それは、ロー対ウェイド以前は当たり前のことだった。ロー対ウェイドは、調査されることなしに流産を経験するという、女性である私の権利を守ってくれた。

 私は、あなたたちの多くが流産を経験していることを知っている。それについて私に話してくれたね。すべての流産を考えて。そして最高裁は各州に、そのような状況であなたを殺人犯の疑いで調査して良いと言ったと知ったうえで、考えて。

 あなたの流産が、あなたを殺人の容疑者にする。私はこれを十分に明確に、十分に大きな声で言いきれない。私は中絶があったからこそ、娘を授かった。

 なので、最高裁。ファック・ユー。そして、娘が持つ権利は、私が持って生まれたよりも少ないものにしようとする極右の無知な奴らも、ファック・ユー。 # 私たちは戻らない」

流産・死産、子宮外妊娠、中絶の処置は似ている

 流産や子宮外妊娠の処置では、人工妊娠中絶と同じような処置がされる。

 保守派が多いテキサス州を拠点とする産婦人科医であり医学教授のローレン・サクストン医師は、米nprの取材で、妊娠から3ヵ月以内の流産では胎児組織を取り除くためにミフェプリストンとミソプロストールを使った薬での処置と手術による2つの方法の処置が可能だと話す。ミフェプリストンとミソプロストールは経口中絶薬としても使用されている。そして妊娠13週から26週の流産(死産)の処置は陣痛誘発や手術であり、それは中絶のプロセスと同じだという。また、命にかかわる危険もある子宮外妊娠でも、胎児組織を取り除くために薬または手術による処置がされる。

 流産・死産、子宮外妊娠の処置に必要な薬や処置が人工妊娠中絶のものと非常に似ているため、流産などの処置もできなくなる医療機関・従事者が増えると見られる。

 ボストン大学のBU Todayは、すでにテキサス州に住む子宮外妊娠をした患者が、処置が州法に違反することを危惧したクリニックの判断で、処置を受けられなくなったと伝えている。また、すでにテキサス州の一部の薬剤師たちは、ミフェプリストンとミソプロストールを処方することを拒否しているという。

 BU Todayは、「中絶を禁止する多くの州法は、受精後のどの段階でも対応するように法を書いている。そして多くが、可能(続けられるほど健康)でない妊娠を例外にしていない」と指摘。

 中絶の禁止を叫ぶ人々が、どれだけ女性の身体や経験に知識がなく、ずさんな考えをしているかが分かる。ヒラリーが「無知な奴ら」だと激怒したのも当然といえる。

夫も声をあげる、ジェフリー・ディーン・モーガンも怒りの投稿

 また、ヒラリーの投稿を受け、夫で俳優のジェフリー・ディーン・モーガンもコメント。男性だが、女性の中絶の権利は、自分にも関係するものだとして怒りの声をあげた。

 「俺には意見がある。それが気に入らないか?失せろ。他の誰かをフォローするんだな。俺は今日、(SNSで)ブロックして削除するようなムードだ。くそったれな反論をする前に…、俺の妻のインスタグラム投稿を読め…。そしてこの問題は俺に関係ないと言ってみるんだな」

 女性の中絶の権利を保障するようにと声をあげるのは、女性が多いのが現状。しかし、女性が妊娠するのには、男性にも責任がある。そして中絶の決断にも、男性の責任がある。何十万人という女性が中絶を経験しているということは、何十万人という男性もその責任を問われているということ。

 しかし、声をあげる男性が少ないことは問題となってきた。ジェフリーの姿勢からも学ぶところがあるだろう。

(フロントロウ編集部)

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