フロントロウ編集部が映画・ドラマのシーンを専門家のコメントやデータをもとに超マジメに検証する連載企画『エンタメ検証部』。今回は、Netflixドラマ『ストレンジャー・シングス』シーズン4でのヴェクナとの闘いでカギを握った“音楽”のパワーについて、「マウスとオペラ実験」でイグノーベル賞医学賞を受賞した新見正則氏に話を聞いた。

※この記事にはドラマ『ストレンジャー・シングス』シーズン4のネタバレが含まれます。

メンタルヘルスをテーマのシーズンで「音楽」がカギに

 シーズン4がNetflixの英語ドラマとし28日間で史上最高の視聴時間を達成する大ヒットとなっているドラマ『ストレンジャー・シングス』。ホラー、SF、ファンタジー、ドラマを見事に融合させた最新シーズンでは、メンタルヘルスをテーマにしたストーリーが高く評価されている。

画像1: メンタルヘルスをテーマのシーズンで「音楽」がカギに

 今シーズンでは、ホーキンスの街を舞台に主人公たちが悪役ヴェクナの呪いを解くことに奔走する。ヴェクナが狙うのは、鬱やトラウマに苦しむ若者たち。彼らは死の数日前から奇妙な幻覚を見始め、最終的にはヴェクナに精神を囚われてしまい死んでしまう。

 前シーズンで兄ビリー(ダクレ・モンゴメリー)を失い心の傷を抱えるマックス(セイディー・シンク)も奇妙な幻覚を見始めるのだが、そんななか、“音楽”に呪いを解くパワーがあることが分かる。ヴェクナに殺さる直前のマックスが、ケイト・ブッシュの曲「Running Up That Hill」が大音量でかかるなか裏側の世界から走って脱出するパワフルなシーンに鳥肌が立った人も少なくないのでは。

画像2: メンタルヘルスをテーマのシーズンで「音楽」がカギに
画像3: メンタルヘルスをテーマのシーズンで「音楽」がカギに

 音楽を通してヴェクナの呪いを解いたマックスのストーリーはツイッターでも大きな話題になり、新シーズンの配信開始以降に全世界で1,900万件以上も投稿された『ストレンジャー・シングス』関連のツイートのなかで、マックスがイレブンを超えて最もツイートされたキャラクター3位に(2位はエディ・マンソン、1位はスティーブ)。

 さらに、ヴェクナの呪いを解くきっかけを作ったケイト・ブッシュの曲「Running Up That Hill」はツイッター投稿数が約60万件に達し、同曲は1985年のリリースから約37年越しに英シングルチャート1位に上昇。これによりケイトは、ギネス世界記録において“英シングルチャートで1位を獲得した最高齢の女性アーティスト”、“英シングルチャート1位を最も長い時間をかけて達成した曲”、“英シングルチャートで1位を取った間隔の最長記録”という3つの世界記録を達成。作詞、作曲、プロデュースも担当したケイトは、シーズン4の配信開始から現在までに同曲で230万ドル(約3.1億円)を稼いだという報道もある。

 加えて、ツイッターでは「ヴェクナの呪いから救ってくれそうなアーティスト」を決めるトレンドに火がつき、ツイッター社からは米ユーザーのトップ5が発表された。

1. - BTS
2. - Taylor Swift
3. - Tomorrow x Together
4. - Niall Horan
5. - Loona

音楽には脳に働きかけるパワーがある? イグノーベル賞受賞の新見氏に聞いた

 『ストレンジャー・シングス』の中ではロビン(マヤ・ホーク)が、「言葉が届かなくても音楽なら(脳に)届くのかも」と言っており、マックスは裏側の世界から抜け出した後も、ヴェクナに再び精神を乗っ取られないようにポータブルカセットプレーヤーを持ち歩き、ケイト・ブッシュの曲を聴き続ける。

画像1: 音楽には脳に働きかけるパワーがある? イグノーベル賞受賞の新見氏に聞いた
画像2: 音楽には脳に働きかけるパワーがある? イグノーベル賞受賞の新見氏に聞いた

 PTSDやアルツハイマー患者に対して音楽セラピーが取り入れられることはあるが、音楽と脳にはどのような関係があるのか? この件に関して、「マウスと音楽」という研究で2013年にハーバード大学でイグノーベル賞医学賞を受賞した新見正則氏に話を聞いた。

 イグノーベル賞は“人々を笑わせ、考えさせてくれる研究”に賞を贈る国際賞で、裏ノーベル賞という異名も持つ。移植免疫学をライフワークとする新見氏は、心臓移植をしたマウスを5つのグループに分けて音楽や音を聴かせるという実験を行なった。

 一般的にマウスは心臓移植をすると平均7日で死んでしまうそうだが、オペラ「椿姫」を聴かせたマウスは平均40日、モーツァルトの音楽を聴かせたマウスは平均20日、エンヤのベスト盤アルバムを聴かせたマウスは平均11日と、生存期間が延びたという。

 「免疫制御細胞という、免疫を上げたり下げたりする、いわゆる司令塔の細胞の量が増えていたことが確認できました。いわゆる大脳の刺激が、末梢のいわゆる血液の免疫制御細胞を増やしたんです」とフロントロウ編集部に明かした新見氏は、「音楽を聴けないようにすると効果がなかったので、やはり音楽を聴くということが大事だったんです」と続けた。

 オペラ「椿姫」が効果的だった理由は「分からない」そうだが、単一周波数や英語のリスニングCD、工事現場の音といった“音”は「効果がなかった」として、「多くの音楽の専門家に言わせると、やはり複数の音楽の調律といった何かが大事だったようですね」とした。

 ちなみに、マックスはヴェクナの呪いにかからないようにするために「爆音」で「Running Up This Hill」を聴き続けていることを明かしたが、マウスの実験では「音量は関係なかった」という。

 さらに、もうひとつ面白い情報が。新見氏は音楽のほかに“におい”でも実験したそうで、石油のにおいや、鼻にツーンとくるにおいなど色々試した結果、ある漢方薬(当帰芍薬散)のにおいが最も効果的だったという。つまり、裏の世界との闘いでは漢方薬も効くかもしれないということ!? ヴェクナVS漢方薬…まったく別ジャンルのドラマに聞こえるが、クリエイターのダファー兄弟には(求められていないだろうが)届けてみたい情報だ。

専門家 新見 正則氏
英国オックスフォード大学医学博士。イグノーベル医学賞受賞(2013)。世界初の抗がんエビデンスを獲得した生薬フアイアを主薬として、癌や難病・難症を治療する自費診療のクリニック、新見正則医院の院長。

(フロントロウ編集部)

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