1. 新しい音楽と共に、新しい言葉を作ってきた
まずビヨンセは、私たちが何を聴くかだけでなく何を話すかにも影響を与えてきた。デスティニーズ・チャイルド時代に楽曲のタイトル「Bootylicious(意味:性的な魅力がある)」がオックスフォード辞書に追加されたことに始まり、ビヨンセは多くの新しい言語を生み出してきた。
ビヨンセ・ソロ名義になってからは、「シングル・レディース (プット・ア・リング・オン・イット)」で歌われる“put a ring on it”は結婚を約束するという意味で広く使われるようになっており、「フローレス」で歌った“I woke up like this”という言葉はインスタグラムのキャプションで頻繁に使われている。2020年アメリカ大統領選で民主党がトランプ大統領から政権を奪うという意味で使った、「ソーリー」からの“boy, bye”もビヨンセが作った有名なフレーズ。
2. 女性、黒人として「史上初」や「史上最多」を達成
男性社会のなかで「女性のお手本がいなかった」と明かしてきたビヨンセは、逆に自身がそのお手本となり、女性や黒人のために多くの前例を作ってきた。
ビヨンセが達成した記録(一部)
- グラミー賞でシンガーとして最多受賞記録を保持するアーティスト
- グラミー賞で女性アーティストとして最多ノミネート数を誇るアーティスト
- MTV VMAの最多受賞アーティスト
- 黒人女性として初めてコーチェラのヘッドライナー務めたアーティスト
- 128.54カラットのティファニー・ダイヤモンドを身に着けた初の黒人女性
- 米Vogue 9月号の表紙を初めて飾った黒人女性*
- デビューから6作連続で全米アルバムチャート1位を達成した初のソロアーティスト
- 1秒間での最多ツイート数(2011年)、インスタグラムでの最多いいね数(2017年)を記録した人物
* 秋冬シーズンに変わる9月号はページ数も広告料も最大となる、米Vogueの中で最も重要な号。
^ 双子の妊娠を発表した投稿は、当時インスタグラムで最もいいねされた写真に。
^ 夫ジェイ・Zと共に出演したティファニーの広告では、約140年の歴史でほかに3人の女性しか身に着けていない貴重なダイヤモンドを黒人として初めて着用。
3. サプライズアルバムや発売日など、新作のリリース方法に影響を与えた
完全なるサプライズでアルバムをリリースするトレンドをメインストリームにしたのもビヨンセ。
2013年に予告ゼロという異例の状況下でリリースされた5thアルバム『ビヨンセ』は、“iTunesストアで史上最速で売れたアルバム(当時)”としてギネス世界記録に登録されるほどの社会現象に。今ではサプライズアルバムのリリースは“pulling a beyonce(ビヨンセをする)”と呼ばれており、テイラー・スウィフトやドレイクなど多くのアーティストがこの手法を追随した。
さらにアルバム『ビヨンセ』はアメリカの音楽チャートのシステムも変えた。米チャートにおける新しい週の始まりはずっと火曜日と決まっていて、初週セールスを最大限カウントしてもらうために新作は火曜日に発売するのが当たり前だった。しかしビヨンセはそれをスルーして金曜日に『ビヨンセ』を発売。結果的にわずか3日でも脅威の売り上げを達成したわけだが、この件が業界で議論を加速させ、今ではチャートのカウントが始まるのは金曜日になっている。
4. 自分のストーリーを自分でコントロールしている
ソロ活動の初期にはテレビ番組や雑誌に登場し、ゴシップの話題にも答えていたビヨンセだが、20代の頃に方針を転換してパタリとメディアに出ないようになった。そんなビヨンセの考えが唯一聞ける場所が音楽。
ジェイ・Zとの離婚危機が囁かれた直後の2016年のアルバム『レモネード』では、“不倫による結婚生活の終焉と復活”を大きなテーマに。ジェイの裏切りを赤裸々に明かしたうえで、黒人女性が経験する、美との葛藤、母親業という責任、黒人男性との微妙な関係といったリアルを歌い、歴史的なアルバムと称された。翌年のグラミー賞では最優秀アルバム賞を逃したが、受賞者のアデルも壇上で“ビヨンセが受賞するべきだった”と泣くなど、音楽を通して自分のストーリーを語り、それを通して他者をエンパワーするビヨンセのアーティスト性には、アーティスト、ファン、批評家など多方面から最大限の賛辞が送られている。
「嫉妬しているように見えるのと 狂っているように見えるのと どちらの方が悪い?/嫉妬? 狂気?/それとも ひどい扱いを受けるか ひどい扱いを受けるか/私はだったら狂っていると言われていい」 ー収録曲「ホールド・アップ」
「私のこと誰だと思ってるの? ボーイ、あんた普通のビッチと結婚してないんだよ」ー収録曲「ドント・ハート・ユアセルフ feat. ジャック・ホワイト」
「時計に目をやり 彼はもう帰っていていい頃/」今日私は指輪を着けた日を公開している/彼にはいつも何か言い訳がある」ー「ソーリー」
5. 機会の少ない人たちの「初」を手助けをしている
バックバンドを全員女性で揃えるなど、音楽活動を通して機会の少ない人々にチャンスを与えてきたビヨンセ。デスティニーズ・チャイルド時代は黒人女性グループに衣装提供してくれるハイブランドがいないという理由で母に衣装を作ってもらっていたが、今ではハイブランドのオファーを断って、Destiney Bleu、ADAMA PARIS、DÉVIANT LA VIEなど多くの黒人デザイナーの衣装を着て、才能ある黒人デザイナーたちを世に紹介している。
その極めつきが、2018年に米Vogueの表紙を飾った際にタイラー・ミッチェルをフォトグラファーとして起用して125年におよぶVogueの歴史上初めて表紙を担当した黒人フォトグラファーを誕生させたこと
^ Vogueの表紙は歴史的価値が高いとして、ワシントンD.C.のスミソニアン美術館に展示されている。
ほかにも、姉妹デュオのChloe X Halleを自身の会社からデビューさせたり、メーガン・ジー・スタリオン、リゾ、ノーマニなどとコラボしたりして、ビヨンセ・ブランドを次世代の黒人女性アーティストを成長させる起爆剤として提供している。
「黒人女性が座れるイスは用意されていませんでした。だから私は木を切り倒して、自分でテーブルを作る必要があったのです。そしてそこに、最高の人材を呼び寄せました。それは、女性や男性、アウトサイダーや負け犬、見過ごされてきた人たちを雇うことを意味しました」ー2020年卒業生へのスピーチ動画より
6. アルバムのリリースに音楽を超えた「意味」がある
ビヨンセのアルバムリリースには背景に意図が存在する。2013年にシングルリリースなどを一切せずにアルバム『ビヨンセ』をサプライズリリースした背景には、“シングルばかりに話題が集まっているせいで失われてしまった、アルバムを通して楽しむカルチャーを復活させたい”という思いが込められていた。
「(アルバムで得られる)あの没入感が懐かしいのです。今の人は(音楽プレイヤーで)曲を数秒聴くだけで、アルバム全体に投資することはないのです。シングルと話題性が優先されてしまっている。音楽と芸術とファンの間に多くのものが入り込みすぎです」ービヨンセ、アルバムのトレーラー映像にて
2016年のアルバム『レモネード』のリリース時には65分の映画を同時公開して“アルバム全曲でひとつのストーリーである”というメッセージを再び主張したが、それに加えて、アルバムが配信で聴ける配信サービスはアーティスト優先の配信サービスとして知られるTidalに限定(※2019年に他社で解禁)。それでも初登場1位を達成し、アーティストに適切に収益を分配していないとたびたび批判されている大手配信サービスの議論に一石を投じた。
7thアルバム『ルネッサンス』はどんな作品?
このように、アルバムリリースのたびに革命を起こしてきたビヨンセが、7月29日(金)に7枚目のスタジオアルバム『ルネッサンス(Renaissance)』を発表する。
6月21日にサプライズリリースされた第1弾シングル「ブレイク・マイ・ソウル(BREAK MY SOUL)」はアップテンポなハウスソングとなっており、サビで「あなたに私の魂は壊せない」と高らかに歌いながら、“怒り、仕事、ストレス、スケジュールを手放して自由になろう”とメッセージをマントラのように繰り返す。
怒りを手放して
マインドを自由に
仕事を手放して
時間に縛られないで
仕事を手放して
ストレスも手放すのよ
愛を解き放そう
他のことなんて二の次
ビヨンセは同曲で、ハウスという無心に踊ってストレスフリーになれるジャンルを選びながらも、「自分の頭で考えないことを 実現できるわけがない その愛はあなたの本心からのものじゃない/誤魔化そうとしたって 成就するわけがないの」などと歌い、“自己啓発ハウスソング”という新たなジャンルを生み出している。
「私はこのアルバムを作ることで夢を見ることができて、世の中が怖いときに逃げ場を見つけることができました。(パンデミックのせいで)ほとんどのことが動いていない時代に、私は自由で冒険的な気分を味わうことができました。私が意図したのは、安全な場所、批判のない場所を作ることでした。完璧主義や考え過ぎから解放される場所。叫び、解放し、自由を感じるための場所。それは美しい探検の旅でした。この音楽から喜びを感じてもらえたらと思います。ウィグル・ダンスを解放するきっかけになればいいなと思います(笑)。そしてあなたがあなたらしく、ユニークで、強くて、セクシーだと感じれたら嬉しいです。」ービヨンセ、インスタグラムにて
「ブレイク・マイ・ソウル」のリリックビデオ冒頭では、「act i RENAISSANCE(第一幕 ルネッサンス)」という表示があったため、アルバム『ルネッサンス』はさらに大きい何かの序盤だということか? ビヨンセにいざなわれて新たな音楽の境地へと毎回連れて行かれる私たち。次はどこへ向かって行くのか? アルバム『ルネッサンス』は7月29日(金)世界発売。
ビヨンセ
アルバム『RENAISSANCE|ルネッサンス』
7月29日(金)世界発売(配信・輸入盤 ※国内盤は調整中)
https://va.lnk.to/BeyoncebreakmysoulFT
- I’M THAT GIRL
- ALIEN SUPERSTAR
- CUFF IT
- ENERGY (Ft. BEAM)
- BREAK MY SOUL
- CHURCH GIRL
- PLASTIC OFF THE SOFA
- VIRGO'S GROOVE
- MOVE
- THIQUE
- ALL UP IN YOUR MIND
- AMERICA HAS A PROBLEM
- PURE/HONEY
- SUMMER RENAISSANCE
※「ブレイク・マイ・ソウル」のビデオはミュージックビデオと記載していましたが正しくはリリックビデオだったため修正しました。
(フロントロウ編集部)