ブリトニー・グリナーがロシアで勾留、女性差別の問題も
アメリカの女子バスケットボールリーグWNBAの大スター、ブリトニー・グリナー選手が今年2月からロシアで勾留されている。グリナー選手はWNBAで3度の優勝経験を持ち、オールスターには7度選ばれ、2度のオリンピック金メダルを受賞している超スター選手。
彼女は2014年から、WNBAのオフシーズン中にユーロリーグのチームであるロシアのUMMCエカテリンブルグでプレーしてきた。今年2月にもエカテリンブルグへ向かっていた彼女は、その途中のモスクワ空港で、荷物の中に大麻オイルのカードリッジを2つ所持していたことで逮捕された。
彼女のチームであるフェニックス・マーキュリーがあるアリゾナ州で大麻は合法だが、ロシアで大麻は禁止されている。そのため彼女はロシアに大麻オイルを持ち込むつもりはなかったとしており、どうやって大麻が荷物の中に入ったのか分からないと証言。彼女は慌てて荷造りをしていたと話した。
そして、グリナー選手の状況には女性差別も影響していると批判されている。彼女の経歴や知名度はWNBAのトップレベルであり、NBAで言うならばステフィン・カリー級。もし彼が大麻の所持でロシアで逮捕されれば、世界中で大きく報じられていたと考えられる。
スポーツジャーナリストであるTamryn Spruill氏は、「もしこれが彼女のレベルのNBA選手だったら…、スポーツ紙のトップだけでなく、世界中のすべてのニュースメディアのトップニュースになっていたでしょう」と、グリナー選手の問題に潜む女性差別を指摘している。
さらに、この問題が持つ男女の賃金格差も無視するべきではない。グリナー選手がロシアへ向かったのはオフシーズン中に収入を増やすためで、女性選手の賃金が低いことが関係している。
カリフォルニア大学バークレー校のロバート・レイチ教授によると、NBAの男性選手の年収の平均は540万ドル(約7億円)で、WNBAの女性選手の平均は12万ドル(約1,600万円)と、性別によって非常に大きな格差がある。そしてこれは平均年棒の話であり、例えばNBAのスター選手であるレブロン・ジェームズは、最初の16年間でプレーに対する報酬として合わせて2億7000万ドル(約370億円)を受け取り、2019年にはスポンサー契約なども含めて年収が約9200万ドル(約120億円)を記録した。
ブリトニー・グリナーら解放のために“死の商人”を解放?
グリナー選手の裁判は、ロシアで7月から開始されている。英BBCによると、ロシアにおいて無罪となる被告人は1%に満たないという。さらに、もし彼女が無罪になっても、ロシア政府はその判決を覆し、刑務所へ入れることが出来る権限を持っているという。
今回の容疑で、グリナー選手は10年の実刑判決を受ける可能性がある。
そんななかバイデン政権が、ある人物と引き換えにグリナー選手と、2020年にスパイ容疑でロシアにおいて16年の実刑判決を受けたアメリカ人ポール・ウィーランの解放を求め、ロシア側に引き換えの提案をしていることが発表された。
アントニー・ブリンケン国務長官は、数週間前に2人の解放に関する提案をしたと明かし、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣と数日以内に会談する予定であるとした。
そして現在、アメリカ側が2人と引き換えに挙げている人物の名前が報じられている。それは、“死の商人”や“ロード・オブ・ウォー”と呼ばれた武器商人のヴィクトル・バウト。2012年にアメリカで禁固25年が言い渡された彼は、ニコラス・ケイジの主演映画『ロード・オブ・ウォー』のモデルになった人物のうちの1人でもある。
ブリンケン国務長官は、ヴィクトルが引き換えの人物である可能性については明言しなかったが、もし本当に彼であった場合、ヴィクトルは刑期の半分以下で自由の身になることになる。
また、米CNNによると、米司法省は犯罪者の引き換えに反対する立場であるため、今回の提案にも反対しているという。
<追記>2022年8月4日、モスクワ州の裁判所はグリナー選手に禁錮9年と罰金100万ルーブルの有罪判決を言い渡した。グリナ―選手の弁護士は、量刑は一般的に与えられる年数に比べて極端に重すぎるとして控訴したが2022年に10月に訴えを棄却された。アメリカ側が判決は“見せしめ”だとする一方で、ロシア側は政治的な動機を否定している。
(フロントロウ編集部)