異色のホラー映画『They/Them』はコンバージョン・セラピーがテーマ
コンバージョン・セラピーというものをご存じだろうか? 同性愛者を異性愛者に“矯正する”“治療する”目的で行なわれるもので、日本でも2022年に自民党議員が参加した会合で「効果が期待できる」とされたもの。
しかしもちろん、コンバージョンセラピーはむしろ当事者にとって有害であり、アメリカ医師会は「(コンバージョン・セラピーの)根底には、同性愛や性別不適合は精神障がいであり、性的指向や性自認は変えられるという前提があります。この仮定は、医学コンバージョン・セラピーーに基づくものではありません」としており、Douglas C Haldeman心理療法士は「SOCE(※性的指向を変えようとする取り組み)は効果がないだけでなく、有害であることが明らかになっています」としている。
そんなコンバージョン・セラピーを行なうキャンプを舞台にしたホラー映画『They/Them』が話題になっている。キャンプにLGBTQ+の若者が集められ、スタッフたちはすぐに不適切な対応を始める。そんななか、正体不明の殺人者が動き始める…。
本作は、映画『ラスト サムライ』や『007 スペクター』などの脚本を担当し、アカデミー賞にノミネート経験もあるジョン・ローガンの監督デビュー作。主演はケヴィン・ベーコンで、キャンプの運営者である悪者のオーウェンを演じた。
ローガン監督はゲイであることをオープンにしており、エグゼクティブプロデューサーのスコット・ターナー・スコフィールドはトランスジェンダー。ケヴィンはストレートだが、自身のチャリティ団体であるSixDegrees.orgを通して、LGBTQ+当事者の安全を守り、コンバージョン・セラピーを終わらせるために活動する団体National Center for Lesbian RightsのBorn Perfectというプログラムのために5万ドル(約670万円)の寄付を集めるために行動している。
ケヴィンはコンバージョン・セラピーについて、「それはバカらしいだけでなく、人を傷つけるものだと思ったことを覚えています。誰かに…、とくに若い人に、そのような恥ずべき、痛みを伴うものを経験させ、しかもそれが機能する可能性はゼロだなんて、酷いことです。なぜ?どこに恐怖があるのでしょう?なぜ他人の性的指向があなたの問題になるのでしょう?」と、米Peopleのインタビューで語る。
じつは…、本作の映画作品としての評価は高くない。しかし、新しい試みは難しいもの。“現実にあるホラー”のコンバージョン・セラピーを舞台に、LGBTQ+当事者の制作陣が本作を制作し、作品が公開されたという事実は喜ばしい。ケヴィンは本作について、「当然、メインストリームのホラー映画ではないです。それについてとても誇りを感じています」と話した。
(フロントロウ編集部)