Apple TV+にてドキュメンタリー『セレーナ・ゴメス:My Mind & Me』の配信がスタート。今でこそ、音楽やメンタルヘルスの周知活動などを通じて自分の弱さを明かせるようになったセレーナ・ゴメスだが、本作では、弱さを晒して無防備になる強さを持てるようになるまでの、弱っていた時期の姿も赤裸々に見せている。セレーナが自分を愛することができるようになるまでを追った、ありのままの彼女のストーリーが収められた本作をレビュー。(フロントロウ編集部)

『セレーナ・ゴメス:My Mind & Me』で描かれる6年の軌跡

 11月4日よりApple TV+にて配信がスタートしたドキュメンタリー作品『セレーナ・ゴメス:My Mind & Me』(以下、『My Mind & Me』)は、2016年に『リバイバル』を引っ下げたワールドツアーを途中でキャンセルしたセレーナ・ゴメスが、思いがけない展開に襲われて暗闇の中へ引きずり込まれてしまい、そこから新たな光を見出すまでの6年間の軌跡を描いた作品。

 ディズニー・チャンネルの人気シリーズ『ウェイバリー通りのウィザードたち』への出演で大ブレイクを果たし、その後、シンガーとしてもデビューしたセレーナ。待望の初来日公演も実現した『リバイバル』ツアーを行なっていた2016年当時、彼女が葛藤していたのは、“どうすれば子役時代のような境遇から脱出できるのか?”ということと、“どうすれば自立した女性として見てもらえるのか?”ということ。『My Mind & Me』は、交際当初から常にショービズ界で最も注目を集めたカップルであり続けた、ジャスティン・ビーバーとの破局から間もない頃、セレーナが“どうすれば1人のセレーナ・ゴメスという人間として見てもらえるか”と葛藤する場面から幕を開ける。

 『My Mind & Me』には、同ツアーで「Who Says」や「Sober」などの楽曲をパフォーマンスするファンには嬉しい映像の数々も収められているが、今ではこうしたパフォーマンス映像そのものが貴重なものに。なぜなら、セレーナは『リバイバル』ツアーの中断後に一時的に音楽活動をセーブすることを決断。2019年に「Lose You To Love Me」で自身初となる全米シングルチャートの1位を獲得して、同年にアメリカン・ミュージック・アワードでこの曲を披露するまでの間、ファンがセレーナのパフォーマンスを目の前で観られる機会はわずかだったのだから。

画像1: ©️Apple TV+
©️Apple TV+

 このドキュメンタリーではもちろん、その「Lose You To Love Me」も収録された、これまでで最も無防備なアルバムとなった2020年リリースの3rdアルバム『レア』をプロモーションしていた当時の貴重な舞台裏映像も観ることができる。けれど、本作が焦点を当てているのは、アルバムや楽曲の制作過程というよりはむしろ、セレーナが“無防備な自分自身を表現できるようになるまで”の心境面のストーリー。

 たびたび血圧を測るシーンも映し出されるが、セレーナは2015年に診断されていた全身性エリテマトーデス(※)との闘病などのために『リバイバル』ツアーを中断。2018年秋には、体調の悪化による不安から情緒不安定な状態となり、2週間で2度も病院に搬送されて、その後はメンタルヘルス専門の治療施設で治療を受けた。セレーナは後に、当時自分が双極性障害(別名「躁うつ病」)と診断されていたことを公表したが、本作では、セレーナが全身性エリテマトーデスや双極性障害と向き合いながら、自分に自信を持てるようにセルフケアをして、本格的に音楽活動を再開できるようになるまでの軌跡が赤裸々に収められている。

※指定難病に認定されている自己免疫疾患で、発熱や倦怠感といった全身的な炎症のほか、関節や皮膚、内臓などの様々な臓器の障害が一度にもしくは次々と起こる病気。2016年の11月に表舞台への復帰を果たしたセレーナは翌年、治療のために腎臓移植手術を受け、親友で俳優のフランシア・ライサから腎臓の提供を受けた。

画像2: ©️Apple TV+
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 セレーナが自分らしくいられるようになるまでの過程で重要だったのは、リハビリ施設で“人との繋がりの大切さ”を改めて意識するようになった後で、2019年に故郷である米・テキサス州を訪れ、改めて自分のルーツに向き合えたこと。両親から受けた愛や、母親の次に近しい存在である従姉妹のプリシラとの絆を再確認することができた、テキサス州での体験も本作には収められている。

 病気を含めて自分自身と向き合い、これまで以上にありのままの自分を音楽で表現できるようになったセレーナ。ドキュメンタリーには、精神的な不安を世間に公表することに懸念を覗かせたスタッフに対して、セレーナが「それが何か? (公表したら)私との仕事を望まない人が出てくる? こちらからお断り」と力強く語る場面も収められているが、セレーナがありのままの自分を公表することにしたのは、同じような境遇に置かれている人のためでもある。

画像3: ©️Apple TV+
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 それを象徴するエピソードと言えるのが、セレーナが他の人たちのためにメンタルヘルスの重要性の啓蒙活動を行ないたいと思うようになる直接的なきっかけとなった、アルバム『レア』のプロモーションツアーをスタートする前に訪問したケニアでの出会い。自身も資金集めに協力したケニアの学校を訪れ、ありのままの自分自身で子どもたちと交流したセレーナはここで、“感情との向き合い方”を教える学校教育のカリキュラムを制作したいと決意。この時のケニアでの経験が、その後のメンタルヘルスに特化した会社「ワンダーマインド(Wondermind)」の設立や、自身のビューティーブランドである「レア・ビューティー(Rare Beauty)」を通じた120万ドル(約1億3,200万円)の寄付などの活動へと繋がっていった。

 この6年の間にあらゆることを経験して、ありのままの自分を愛することができるようになったセレーナ。そんな彼女の現在の夢は、他の人たちが自分を愛することができるように手助けをすること。「私にとって究極の夢は、他の人を救えるようになること」「歌や音楽を通じてでもいいし、試練や困難を語ることが救いになるのでもいい。何が起き、何を感じているのか分からずにいる人を代弁したい」とセレーナは力強く語る。

画像4: ©️Apple TV+
©️Apple TV+

 セレーナがありのままの姿を見せてくれた『My Mind & Me』は、間違いなく観た人たちを「救える」ような作品になっている。「心を病んだ時に大事なのは、どうすべきかを知っていて、それを認めること」とセレーナは本作の最後で語って、「それは私が恥じていない点」と断言する。これまでに明かされてこなかったセレーナの姿が収められた本作は、ファン必見のドキュメンタリーになっているのはもちろんだが、必ずしもセレーナの大ファンでなくとも、本作でセレーナが自分に自信を持つまでの過程を見届けた後には、きっと誰もが前を向けているはず。自分を愛することができるまでセレーナが側で見守ってくれているかのような、あたたかくて心強い作品だ。

作品詳細

ドキュメンタリー『セレーナ・ゴメス:My Mind & Me』
Apple TV+にて独占配信中

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セレーナ・ゴメス
最新シングル「My Mind & Me」
配信中

画像2: 作品詳細

(フロントロウ編集部)

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