ビル・ナイには、カズオ・イシグロとの忘れられない思い出があるという。(フロントロウ編集部)

黒澤明作品をリメイクしたビル・ナイとカズオ・イシグロ

 黒澤明監督による1952年の映画『生きる』のイギリス版リメイクである『生きる LIVING』。余命半年と告げられた公務員のウィリアムズが人生を見つめ直し、最後の時を豊かなものにしようとする物語で、主演を演じたのは演技派として知られるビル・ナイ。脚本をカズオ・イシグロが担当した。

 本作の計画は、映画プロデューサーであるスティーブン・ウーリーの自宅でビルとイシグロ、彼の妻でプロデューサーのローナ・マクドゥーガルなどが集まってディナーをした夜から始まったことは知られている。

 ビルは過去に、この夜に集まったのは「最強の映画オタク」たちだったため、「主に1930年から1960年までのイギリスの白黒映画に関するもので、この映画は誰がデザインしたのか、あの映画の最後で探偵を演じたのは誰か、彼が演じた3つの役は何か、あの作品の2番目の主役を演じたのは誰か」といったクイズの出し合いを夜通しやっていたという楽しい思い出を明かしている。

 しかし、その夜が楽しいものになるためのきっかけとなる出来事がディナー中に起こっていたよう。アメリカで開催された『生きる LIVING』のスクリーニングイベントでQ&Aのコーナーに登場したビルが、司会者のヒュー・ジャックマンにこんな記憶を話した。

 ビルによると、ディナーに向かう道中でグレッグ・オールマンによるボブ・ディランの「Going, Going, Gone」のカバーを聞いていたのだそう。その後、夕食の席で音楽の話になり、「Going, Going, Gone」の話にもなったが、グレッグのカバーを知っている人はいないと思い、ボブの楽曲についてだけ話していたところ…?

 「彼は僕のほうに身を寄せてきて、『グレッグ・オールマンがそれの素晴らしいカバーをしているよ』と言ったんだ。彼は、ノーベル賞受賞者でそれを知っている唯一の人物だろうと思ったよ」

画像: 黒澤明作品をリメイクしたビル・ナイとカズオ・イシグロ

 人との仲がカチッとハマり、絆が深まる瞬間というのはあるもの。きっとこれは、ビルとイシグロのそういった瞬間だったに違いない。ちなみに、イシグロがノーベル文学賞を受賞した前年に、ボブ・ディランが同賞を受賞しているので、おそらくグレッグのカバー曲を知っているノーベル賞受賞者は2名いる。

 ビルは過去に、イシグロに彼のことを「イッシュ(Ish)」と呼んでほしいと言われるが、その勇気がないと話していたことがある。しかし、この日のイベントではイッシュと呼んでいたので、さらに絆は深まっているよう。

(フロントロウ編集部)

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