自身の自伝的映画『フェイブルマンズ』で第80回ゴールデン・グローブ賞の作品賞と監督賞を受賞したスティーヴン・スピルバーグ。その受賞スピーチで監督が名前を出した、ジョン・カサヴェテスとは?

『フェイブルマンズ』が作品賞と監督賞を受賞

 スティーヴン・スピルバーグ監督の子ども時代にインスパイアされて製作された自伝的映画『フェイブルマンズ』。スピルバーグ監督は、作品賞(ドラマ部門)と監督賞を受賞した第80回ゴールデン・グローブ賞で、自身の幼少期のストーリーについては『E.T.』をはじめとしたさまざまな作品にその断片を取り入れてきたものの、はっきりと語ることからは「17歳の頃から隠れてきました。このストーリーを伝えなくて良いように、色々な邪魔を自分で作ってきました」と明かした。

画像: 映画『フェイブルマンズ』2023年3月3日(金)全国公開。© 2022 Universal Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.

映画『フェイブルマンズ』2023年3月3日(金)全国公開。© 2022 Universal Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.

 その考えを変えたきっかけが、新型コロナウイルによるスパンデミックで全ての映画製作が止まったこと。2005年に映画『ミュンヘン』を一緒に製作していた時代からこのストーリーに強く興味を持っていた脚本家のトニー・クシュナーと、「あなたはこのストーリーを伝えなくてはいけない」と長年言ってきたという妻ケイト・キャプショーの後押しを受けて映画を製作することに。

 スピルバーグ監督をもとにした架空のキャラクターであるサミー・フェイブルマンを中心にした自伝映画『フェイブルマンズ』を語ることにしたことについて、スピルバーグ監督は「誰もが私をサクセスストーリーだと思っています。誰もがそれぞれで得た情報をもとにお互いのことを判断します。しかし、勇気を出して自分のことを皆に話すまでは、誰も本当のあなたを知らない」と、ゴールデン・グローブ賞監督賞の受賞スピーチで語った。

ゴールデン・グローブ賞のスピーチで触れたジョン・カサヴェテスとは?

 そして、『フェイブルマンズ』はドラマ部門の作品賞も受賞。その受賞スピーチで、スピルバーグ監督はこう語った。

 「私はジョン・カサヴェテスの映画でPAをやったことがあります。だから私はPAにはとても親切にします。なぜならそれがどんな気持ちかわかるからです」

 PAとはプロダクション・アシスタントのこと。映画やドラマの撮影セットで、台本の印刷や配布、ディレクターやプロデューサーの用事、他のメンバーへのメッセージを伝えるなど、アシスタントとして様々な雑務をこなす。

画像1: ジョン・カサヴェテス

ジョン・カサヴェテス

 ジョン・カサヴェテスはハリウッドで1950年代から活躍していた俳優で、映画『ローズマリーの赤ちゃん』、『明日よさらば』、『特攻大作戦』などの名作に出演してきた。スピルバーグ監督は18歳の頃に『フェイシズ』という映画でPAを務めて、タバコを買いに行ったり、キャストやクルーに飲み物を配ったりしていたそうなのだが、そのセットで出会ったのが、主演俳優だったジョン・カサヴェテス。

 ジョン・カサヴェテスは末端のスタッフの名前や顔も覚え、身分に関係なく良い意見は聞くという低姿勢の俳優だったそうで、PAの仕事が嫌で『フェイシズ』の撮影を3日で辞めてしまったスピルバーグ監督のこともよく覚えていたという。そして約2年後、別のテレビ番組のセットでスピルバーグ監督を見つけると自分から声をかけ、スピルバーグ監督が将来監督になりたいことを知ると、“次のシーンで自分を監督するとしたらどうする?”と聞いて、実際に次のシーンでそのアイディアを実行したという。当時、スピルバーグ監督は20歳の駆け出しスタッフ、ジョンはアカデミー賞ノミネートも果たしていた40代の大物俳優。

画像2: ジョン・カサヴェテス

ジョン・カサヴェテス

 スピルバーグ監督は肩書に関係なく人を扱うジョンに感銘を受け、前述したとおり、セットでの態度というキャリア観に強く影響を受けたという。

 スピルバーグ監督自身、ジョン・カサヴェテスに対する尊敬は何度も口にしており、Empireのポッドキャストでは彼を「メンター(師匠)」と呼び、「彼のセットにプロダクション・アシスタントとして何度か関わったことがあるのです。彼は本当に私を気づかってくれました。亡くなる直前まで頻繁に連絡をくれました」と、59歳の若さで1989年に亡くなったジョン・カサヴェテスについて明かした。

 ジョン・カサヴェテスが監督した1976年の映画『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』には、前年に公開されたスピルバーグ監督の映画『ジョーズ』のポスターが映り込んでいたこともあるので、ジョン・カサヴェテスにとってもスピルバーグ監督の成功は誇りだったのではないだろうか。(フロントロウ編集部)

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