ケシャがこれまでで最も無防備なアルバム『ギャグ・オーダー』で音楽シーンに帰ってきた。コロナ下でスピリチュアリティに目覚めて癒しを得たケシャは、“箝口令”を意味するタイトルをつけた本作で初めて長年の法廷闘争にそれとなく触れながら、新しいチャプターをスタートさせた。本作に込められたケシャの切実な思いを紐解く。(フロントロウ編集部)

“箝口令”というタイトルがついた最新作『ギャグ・オーダー』をリリース

 ケシャが通算5作目となるニューアルバム『ギャグ・オーダー(Gag Order)』をリリースして、音楽シーンに帰ってきた。“Gag Order”とは、日本語で“箝口令(かんこうれい)”を意味する言葉で、特定の事柄について話すことを禁止する、裁判所からの命令などを指す。

画像: ケシャ『ギャグ・オーダー』配信中 keshajp.lnk.to

ケシャ『ギャグ・オーダー』配信中

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 「これが言っていいことなのかはわからないのですが、私は自分の気持ちを正直に話しているときですら、進行中の訴訟のことを意識しています」と、ケシャは英The Guardianとのインタビューで『ギャグ・オーダー』というタイトルについて語っている。「だからこそ、(“箝口令”が)アルバムのタイトルになっているんです」

ファーストシングル「Fine Line」で初めて長きにわたる裁判に触れたケシャ

 “箝口令”が敷かれていることもあり、ケシャは自身が2014年から行なってきた法廷闘争の現状についてハッキリとしたことは明かさないが、ケシャが2023年7月に再開することになっている裁判についてどう感じているかは、最新作からファーストシングルとしてリリースされた「Fine Line」に綴られた歌詞からも明白。

 ケシャは同曲で次のように歌っている。「医者も弁護士もみんな私の口を閉ざしてくる/怒りを隠してきたけど、今の私を見てよ/山の頂上で頭に銃口を向けている/私は神様より偉大?それとも死んだほうがいい?」。

重要なこととそうじゃないことの境界線
手放すことと諦めることの境界線
幸福と究極の惨めさの境界線
エンターテイメントとただ痛みを搾取することの境界線
私で稼いだお金を見てよ

「Fine Line」歌詞抜粋

 2014年から現在までおよそ10年近くにわたって続いている法廷闘争のなかで、ケシャはその間にも2017年の『レインボー』、2020年の『ハイ・ロード』、そして今作『ギャグ・オーダー』という3枚のアルバムをリリースしてきた。だが、裁判やそれに伴う怒りについて分かる形で楽曲に反映したのは、“箝口令”の下で器用にそれとなく示唆してみせた「Fine Line」が初めて。

画像1: ケシャが『ギャグ・オーダー』で新章へ、“口を閉ざされながら”見つけた癒しと怒りの中和地点

「怒っている女性ほど魅力的じゃない存在はないという理解のもと育ちました。私は人間としてできるだけ優雅でいたいと思っていたので、怒りについて探求したことはなかったのですが、この曲は私が怒りに触れることをついに許してくれました。それからこの曲は、いかに人生がすべてのことにおいて境界線(fine line)を歩くことの繰り返しかということについても歌っています。私は自分の環境をコントロールしながら、周囲からの評価もコントロールしようとしているのです。それはものすごく疲れることです。『Fine Line』で私は自分の怒りに正直になりながら、コントロールが効かなくなっていることを認めています」

ー英Dazedに語って

スピリチュアリティがアルバムのインスピレーションに

 デビューシングル「TiK ToK」やピットブルとの「Timber」といったキャリア前期のパーティアンセムに代表されるように、ポジティブでアッパーな楽曲が多かったケシャだが、最新作『ギャグ・オーダー』では自身の内面にあらゆる角度から向き合い、ネガティブな感情までありのままを晒け出している。

 本作でのケシャのこうした姿勢のきっかけになったのは、パンデミックが起きた直後の2020年初夏に経験した、スピリチュアルな“目覚め”。

画像2: ケシャが『ギャグ・オーダー』で新章へ、“口を閉ざされながら”見つけた癒しと怒りの中和地点

「黄金の光が波打つように自分の身体を巡ったのを感じたのです。平穏な感覚でした。本当の自分だと思えるものや自分の意識、そして魂が自分に語りかけるのを聞けるようになりました。ありきたりに聞こえるかもしれませんが、私は私たち全員がいかに繋がっているのかを実感しました」

ー米Nylonに寄せて

 ケシャは『ギャグ・オーダー』のリリースを発表した際、「Fine Line」と併せてもう1曲、「Eat The Acid」をダブルシングルとしてリリースしたのだが、後者は彼女が“目覚め”を経験して最初に書いた楽曲。

 「あの晩、(実際にはアシッド=LSDの使用経験はないものの)LSDを服用すれば体験するであろう強烈なトリップを感じたのです」と米The Sunで振り返るケシャは、かつて母親からもらった助言に基づいて書いたという同曲でこう歌っている。「あなたはこう言った、『アシッドを食べちゃだめ。私が変わってしまったようにあなたが変わりたくないなら』/あなたはこう言った、『すべての角が今はギザギザになった、かつて見られたものはもう見えない』/昨晩、私は何もかもを目にした/昨晩、私は神と話をした

ずっと答えを探してきた人生
暗闇の中で死んで、光を見た
私はずっと闘ってきた
神聖の中に憎しみの居場所はない

「Eat The Acid」歌詞抜粋

 「アシッドを食べる」というインパクトのあるタイトルがつけられた同曲だが、これは必ずしもアシッドそのものがテーマではないとケシャは強調する。「人生を通してあらゆるものを目にしてしまうと、もうそれを見なかったことにはできないということです。自分がもっと若かった頃の純真さや、純粋な無自覚さ、ギリギリの愚かさが恋しいです。世の中を見て、あらゆることが幻想だったと気づいてしまう前のね」と英Dazedに語る。

 スピリチュアリティに目覚めて、悟りの境地に至ったケシャ。『ギャグ・オーダー』には他にも、スピリチュアリティにインスピレーションを得た楽曲がいくつか収録されており、スピリチュアリティの伝説的な伝道師である故ラム・ダスの言葉をフィーチャーした「Ram Dass Interlude」では、「私を承認してくれますか 私を好いてくれますか 私はいい子ですか」という彼の言葉が繰り返される。

スピリチュアルな活動は他にも

 楽曲のリリースこそ2023年まで待つことになったが、ケシャはコロナ下での啓示的な目覚めを経て、その体験を音楽以外の活動にも持ち込んでいる。2020年には、ゲストにポップカルチャーのスターや超常現象の専門家を呼び、超常現象やスピリチュアリティについて語るポッドキャスト『Kesha And The Creepies(原題)』をスタート。ゲスト出演者には、デミ・ロヴァートといった豪華なスターも。

 さらに、2022年には自身が監修を務める番組『Conjuring Kesha(原題)』もスタート。この番組もまた、自身のセレブの友人や超常現象の専門家をゲストに呼んで、幽霊などの怪奇現象などを徹底検証するという内容になっている。

スピリチュアリティの癒しを経て、ケシャは前へ進んでいく

 “箝口令”を敷かれながらも、スピリチュアリティに目覚めて救われ、自分自身と向き合う新たな方法を発見したケシャ。

画像: スピリチュアリティの癒しを経て、ケシャは前へ進んでいく

 「私は人を幸せにするのが好き。私はエンターテイナーで、それこそが自分の仕事だと思っています」と前置きしつつ、『ギャグ・オーダー』では「アーティストとして、自分が避けてきたあらゆることを掘り下げて、それを音楽で消化する必要があるように感じたのです」と英Dazedに語ったように、本作には「Fine Line」のような怒りを掘り下げた楽曲も収録されているが、癒しを経て、ケシャの目は前を見据えている。

 インドの精神指導者であるOshoの言葉をフィーチャーした「All I Need Is You」では、辛い心情を打ち明けながらも、ケシャが英Dazedに語った言葉を借りれば「私を永遠に、それも良い方向に変えてくれた」という愛猫のミスター・ピープスにトリビュートが捧げられている。

どんなパーティーでもコカインやドラッグは手に入るけど
無事に家に帰れたかを心配してくれる人はひとりもいない
私なら素敵なBGMや話のネタになれる
でも別の一面は 絶対誰にもわからない

銀河に落ちていく時も この手は決して離さない
描いていた夢は叶っては消えていく 数え切れぬほど
多くを求めてはいない でもただひとつ失えないものがある
私にはあなたが必要

「All I Need Is You」歌詞抜粋

 ケシャは今、ミスター・ピープスのような、自分にとって好影響がある人たちばかりに囲まれている。

 「私はお互いを高め合える人としか会わない。大切なのはお互いを力づけることだから。世界中の人たちがもっと幸せになれば、私たちはもっとお互いのことを祝福できる」とケシャは米The Sunに語って、“現代の魔法使い”の異名を持つオベロン・ゼル・レイヴンハートをフィーチャーした「Happy」について次のように説明する。「だからこそ、このアルバムは『Happy』で終わるんです。これは大切な曲です」

月日が流れていく
笑い飛ばしていこう 泣かないように
どうしたいのって尋ねてくれることが
私の無謀な望みに最も近い気がする
でも人生ってそううまくいくものじゃない
もし今尋ねてくれたら こう答える
私がずっと求めていたのは
幸せでいること

「Happy」歌詞抜粋

 「Fine Line」で歌うように、今なお続いている裁判によって「幸福と究極の惨めさの境界線」を歩きながらも、スピリチュアリティの癒しと、自分を高めてくれる周囲の人たちを得て、今はただ“幸せでいたい”と切実な気持ちを歌うケシャ。

 「人生への渇望と、音楽への渇望が自分にはあるような気がしています」とケシャは米The Sunに語る。「(このアルバムで)この道を進み続けようってインスパイアされました。成長を続けようって」。口を閉ざされながらも、ケシャがすべてをさらけ出した『ギャグ・オーダー』は、これから始まっていく新しい彼女の序章なのだ。

<リリース情報>
KESHA|ケシャ
「Gag Order | ギャグ・オーダー」
発売中

ダウンロード/ストリーミングはコチラから。

画像: keshajp.lnk.to
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【トラックリスト】
1. Something To Believe In
2. Eat The Acid
3. Living In My Head
4. Fine Line
5. Only Love Can Save Us Now
6. All I Need Is You
7. The Drama
8. Ram Dass Interlude
9. Too Far Gone
10. Peace & Quiet
11. Only Love Reprise
12. Hate Me Harder
13. Happy

Photo:ゲッティイメージズ,Instagram

(フロントロウ編集部)

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