今年のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝いたフランス人のジュスティーヌ・トリエ監督が受賞スピーチでフランス政府を痛烈に批判し、話題を呼んでいる。(フロントロウ編集部)

パルムドール受賞のジュスティーヌ・トリエ監督が政府を批判

 第76回カンヌ国際映画祭の授賞式が現地時間5月27日、フランス南部のカンヌで行なわれた。そこで、最高賞の「Palme d'Or(パルムドール)」を受賞したフランス人女性監督のジュスティーヌ・トリエ氏のスピーチが注目を集めている。

 夫を殺害した容疑をかけられた女性を主人公にしたスリラー映画『Anatomie d'une chute(英題:Anatomy of a Fall/アナトミー・オブ・ア・フォール)』を手がけたトリエ監督は、今年で76回目となるカンヌでパルムドールを受賞した3人目の女性となる。トリエ監督は、ウェス・アンダーソンやトッド・ヘインズなど高名な監督たちとの熾烈な競争に勝利した。

画像: パルムドール受賞のジュスティーヌ・トリエ監督が政府を批判

 受賞スピーチでトリエ監督はまず、エマニュエル・マクロン仏大統領による年金改革抗議運動に対する弾圧を批判。

 フランス政府は高齢化社会に対応するために、年金の受給開始年齢を62歳から64歳に引き上げる制度改革を進めており、各地でデモを引き起こしている。エネルギーを供給する連盟もマクロン政権に反発し、「カンヌ国際映画祭に電力を供給しない」などと主張していた。これに対し、カンヌが位置するアルプマリティーム地方当局はカンヌ国際映画祭の期間中、あらゆる種類のデモや集会を禁止するという厳しい措置を取った。

 こういった動きを受けて、トリエ監督は「年金改革に反対する非常に強力かつ団結した前例のない抗議運動」は「衝撃的な方法で否定され、弾圧された」と政府を批判。フランス社会では「抑制されない支配的権力」の拡大があちこちの業界で蔓延していると警鐘を鳴らし、「映画業界も例外ではない」とした。

 続けて、フランス政府は「文化の商業化」を支援していると批判。「フランスの文化的例外を破壊しつつある」と非難したうえで、「文化的例外がなければ今日の私は存在しなかっただろう」と訴えた。

 これは、昨年にフランスの映画界で興行収益の落ち込みを解決するためにフランス映画の資金調達や制作を減らそうとする声が挙がったことに関係した発言だと思われる。トリエ監督が『アナトミー・オブ・ア・フォール』の脚本でコラボレートしたアーサー・ハラリが当時主導して、フランスの映画業界独自の資金調達モデルを保護することを訴える活動が起きた。

一部ではスピーチに対する不満をツイート

 カンヌの会場では、歓声のほか、若干のブーイングも混じったリアクションを受けたトリエ監督のスピーチ。ただスピーチ後、ツイッターでは、『アナトミー・オブ・ア・フォール』がNational Film BoardやFrance Télévisionsといった公的機関からの支援を受けて制作されたことを理由に、監督のスピーチを批判する声も挙がった。

 フランス文化大臣のリマ・アブドゥル・マラク氏はTwitter上で「フランス代表としては10回目となる、ジュスティーヌ・トリエ監督のパルムドール受賞を嬉しく思う」と賛辞を送りつつも、「あまりにも不公平なスピーチに愕然とした」と不満を露わにした。トリエ監督の映画は「フランスの映画資金調達モデルなしには日の目を見ることはありませんでした。それを忘れないようにしましょう」と指摘。

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 また、カンヌ市長のデビッド・リナード氏はTwitter上でトリエ監督を「まるで駄々っ子」と批判。デビッド市長は「喜びと敬意」と共に賞を受け取った受賞者に賞賛を贈った上で、「一つ不満があるとすれば、助成金によって作られた映画で、栄誉あるパルムドールを受賞したフランス人監督が、まるで駄々っ子のような演説をしたことだろう」と続けた。

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(フロントロウ編集部)

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