「ベビー・ボンド(Baby Bond)」とは? 生まれた瞬間から投資家に!?
上位10%の富裕層が国の80%の富を有し、下位の60%の中流層・貧困層はたった1%の富しか有していないと言われるアメリカ。この富の集中は“Generational Wealth(世代間で受けつがれる富)”として何世代も永続されており、持つ者は富、勉学、投資といった多くの機会を得られる一方で、逆に持たざる者はそれらの機会を得られないだけでなく、前の世代からの負債を背負う場合もある。
格差が格差を生むその負のサイクルを断つ方法として、経済学者のダリック・ハミルトン氏とウィリアム・A・ダリティ・ジュニア氏によって提案されにわかに注目を集めているのが、「ベビー・ボンド(Baby Bond)」という制度。
TEDトークに出演したハミルトン教授は、努力したら成功できるというアメリカン・ドリームは現代において現実からほど遠いとして、「経済的に成功するか否かは、個人の行動よりも生まれた家庭が貧乏か裕福かという事実のほうが大きく影響する」として、その負のサイクルを止める方法としてベビー・ボンドを提唱した。
英語では投資信託のファンド名に“ボンド”という言葉がよく使われるが、ベビー・ボンドはその名の通り、“行政が赤ちゃんに信託口座を作ってしまおう”という画期的な制度。ベビー・ボンドの制度下では、赤ちゃんは生まれながらにして信託口座を持つ「投資家」のようになるのだ。
ハミルトン教授が提案したのは、政府が新生児1人につき平均で2.5万ドル(約350万円)、最大で6万ドル(約850万円)を信託口座に入金し、子どもが成人した際に、大学の学費や住宅購入の頭金、起業などにかかる初期費用として、口座の資金を使うことができるようにするというもの。口座への入金額は低所得者層に生まれた新生児ほど多くなる。
アメリカでは毎年400万人の新生児が誕生しているため、制度にかかる費用を大雑把に計算すると、年に1000億ドル(約14兆円)かかることになるが、ハミルトン教授によると、「現行の税額控除や補助金などで資産形成の補助に費やされる5000億ドル以上の予算よりもはるかに少額」だという。
続々増える各州の「ベビー・ボンド」導入事例
では、そんな“赤ちゃん投資家”はすでにアメリカで誕生しているのだろうか?
2021年、コネチカット州が全米で初めてベビー・ボンド制度を承認。2023年7月1日以降に州内の低所得者家庭に生まれた新生児1人につき最大で3,200ドル(約45万円)を信託口座に入金する制度では、子どもが18歳になった時に、その資金を州内での住宅購入、州内での起業・投資、高等教育や職業訓練の支払い、老後の資金としての貯金に使えるという。資金は18歳になった時点で150万円~400万円になるのではと予想されている。
他には、アメリカの首都ワシントンD.C.でもベビー・ボンドの導入が決まっている。こちらでは、赤ちゃんの出生時に500ドル(約7万円)が投入され、貧困層には年に最大で1,000ドル(約14万円)が追加されるという仕組みになっている。ちなみに、ワシントン州でもベビー・ボンドの導入が持ち上がったが、つい先日確定した2023年から2025年の予算には制度を盛り込むことができなかった。
また、アメリカ以外だと、カナダに「カナダ・ラーニング・ボンド(Canada Learning Bond)」という、ベビー・ボンドに似た制度が以前から存在する。2004年以降に生まれた低所得者層の子どもたちが対象で、拠出した資金が非課税で運用できる教育資金の貯蓄システムRESPに、初年度に500カナダドル(約5万円)が政府から入金され、15歳まで毎年追加で100カナダドル(約1万円)、最大2,000ドル(約21万円)が入金される。
今、アメリカで導入が広がってきているベビー・ボンド。経済格差の問題はまったく他人事ではないため、ぜひ日本でも検討してほしい。(フロントロウ編集部)