強盗にあったのは高価なシャツのせい、ハラスメントを受けたのはフォントのせい…!?
今回紹介するのは、ニュージーランド出身のコメディアンであるアリス・ブラインが2016年にフェイスブックに綴って欧米で拡散された投稿。以下が全訳。
「これからは、酔った男性たちの家について行って彼らのものを全部盗むことにします。彼らが持っているもの全部。でも私のせいではありません…だって彼らは酔っぱらってたんだから。彼らはもっと懸命な判断をするべきだった。
私は9割方(※)は罪に問われないでしょうが、1人の男性が勇気を振り絞って私を訴えた時、私は裁判でこう反論します。彼が『私のアウディを盗まないでくれ』と言ったとき、それが本心かどうか確信が持てなかったと。本気で言っているかどうか分からなかったのです。私が『グッチの時計を盗んでもいいですか?』って聞いたら、彼は『やめてください』と言いましたが、それが本心かどうか判断できなかった。
彼は酔っ払っていましたから。自分で招いたことなんです。クラブでの彼の服装を見てほしかったですよ。高価なシャツに靴。あんな服装では、変な受け取られ方をしてもおかしくない。自分のものを全部盗んで欲しいと思っていると私は思いました。彼は自分の方から求めていたのです。
彼が自分のものを全部持っていくことに『ノー』と言ったとき、私にはそれが本心なのかどうかわからなかった。『ノー』は客観的な表現ではなく、どんな意味にでもなり得ますからね」
※ニュージーランド警察は通報される性暴力事件はわずか1割と推定している。同国では性暴力は5番目に多い犯罪だが、最も警察に通報されていない犯罪(オーストラリア性的暴力をなくす全国ネットワークの調査資料より)
アリスの投稿は現時点で19万いいねを集めている。アリス自身はコメント欄で、「この投稿が拡散されているのは本当に素晴らしいことですが、同時に本当に心が痛みます。女性をレイプすることと、男性のアウディを盗むことを比較しなければ、人々が理解できなんて」と語った。
また、アリスが行なったものと同じような比較は、BBCの時事コメディ番組『Tracey Breaks the News』でも取り上げられている。こちらでは、首にナイフをつきつけられてスマホや時計を奪われたというスーツ姿の男性に対して、警察官が「事件当時に着ていた服は今と同じものですか?」「富が感じられて挑発的ですね」「事件当時、酔っていましたか?」と、被害者を責めるような言葉を投げかける。「それとこれに何の関係があるんだ!」「首にナイフをつきつけられてたんだぞ!」と憤慨する男性に、「抵抗しなかったんですか?」「叫びました?」「はっきり言わなかったなら、所持品を盗まれたくなかったと相手に伝わらないのでは?」とたたみかける。そして最後は、部下に「悪質なメールに何か月も悩まされているという男性が待っているんですが」と言われた警察官が、「彼がどんなフォントを使っていたか確認してください。Helveticaのような媚びを売るようなものだったら仕方なかった部分がありますから」と言って終わる。
性犯罪は被害者非難で防ぐものではない。犯罪者の行動に焦点をあて、行政や地域社会ができる行動に焦点を当てることが、性暴力の防止につながる。
ユタ州立大学によると、レイプ事件のうち被害者側が視線を送るなどの“挑発的な行動”をとったのはわずか4.4%だと米連邦暴力犯罪調査委員会が認めたという。ちなみに殺人だと22%(※日本のSNSで同じデータが「挑発的な服装」として使われているが、正しくは「挑発的な行動」)。ユタ州立大学の同報告では、「有罪判決を受けたレイプ犯のほとんどは、被害者の服装を覚えていない」「被害者は生後数日から90代までと幅広く、(被害当時に)挑発的な服装だったとは言い難い」とされており、「レイプ被害者が挑発的な服装で暴行を誘発する」という考えは「誤った考え」だと結論づけられている。また、The Washington Postによると、重ね着、ハイネックといった服装を好む女性の方がレイプされる可能性が高いという調査結果もあるという。DOVE Centerではこのような誤解を解消するために、“あなたは何を着ていた展(What Were You Wearing Exhibit)”という、性暴力被害を受けた時に着ていた実際の服装を公開する展示を行なっている。