世代を代表するシンガーソングライターが無防備な心境でアルバムを作ったら、それは名作が生まれるに決まっている。グラミー賞で最優秀新人賞にノミネートされたジョルジャ・スミスが5年ぶりにリリースしたセカンドアルバム『フォーリング・オア・フライング』には、そんな表現がピッタリ当てはまるだろう。ドレイクやブルーノ・マーズもその才能に魅了されたジョルジャの待望の新作を名作たらしめている要素とは? 本人に貴重な単独インタビューを行なうことができたので、ジョルジャ自身の発言を基に、その理由を5つの要素にまとめた。(フロントロウ編集部)

【1】名声に伴う周囲の雑音からの逃避

 2018年にリリースしたデビューアルバム『ロスト・アンド・ファウンド』が大成功を収め、BRITアワードでの期待の新人賞受賞やグラミー賞での最優秀新人賞ノミネートを経験したジョルジャ・スミス。

画像: 彗星のごとくシーンに登場したジョルジャは、その才能で多くの大物先輩アーティストたちも魅了。ドレイクは彼女にコラボを依頼、ケンドリック・ラマーは自身がキュレーションしたMCU映画のサントラ『ブラックパンサー ザ・アルバム』への参加をオファー、さらには、ブルーノ・マーズが彼女をツアーのサポートアクトに抜擢した。

彗星のごとくシーンに登場したジョルジャは、その才能で多くの大物先輩アーティストたちも魅了。ドレイクは彼女にコラボを依頼、ケンドリック・ラマーは自身がキュレーションしたMCU映画のサントラ『ブラックパンサー ザ・アルバム』への参加をオファー、さらには、ブルーノ・マーズが彼女をツアーのサポートアクトに抜擢した。

 日本でもSUMMER SONIC 2018に出演して、多くの観客を魅了したジョルジャは、わずか1枚のアルバムで巨大な名声を得ることになったが、同時に、名声には「雑音」も伴った。

ジョルジャが2016年にリリースしたデビューシングル「Blue Lights」。同曲も収録された2018年発表のデビューアルバム『ロスト・アンド・ファウンド』は批評的にも大成功を収め、イギリス/アイルランドで毎年最も優れたアルバムに贈られるマーキュリー・プライズの2018年度の最終候補にも選ばれた。

 「音楽をリリースすると、同時に、自分自身もたくさんの人たちの前に出て行くことを意味します。そこでは初めて学ぶことや、初めて言われることなど、そういう立場になって初めてわかることがたくさんあるんです」と、ジョルジャはフロントロウ編集部に話す。

 名声を得て、人前に出ると、“こうあるべき”という基準を押し付けられがちだが、ジョルジャのようにそれが女性アーティストの場合だと、特にそうしたことが顕著になる。このことについて話を振ってみると、「そう、(他の人たち以上に)より大変ですね」とジョルジャも同意する。

 「その上、若ければなおさらですよ」とジョルジャは続ける。「私は18歳のときに最初の楽曲をリリースしたので、多くの人たちの前で大人になっていったようなものですが、『ちょっと休ませて』って思うときもありました。『自分で大人にならせてよ』『自分で変わらせてよ』『自分で解決させてよ』って」。

 「厄介なことだなと思います。だって、私にとって大切なのは音楽なのに、周囲は私の見た目がどうだとか、そういうことを話したがるのですから。どうしようもないなという感じです」

 ジョルジャが抱えていたそうした葛藤が結実したのが、セカンドアルバム『フォーリング・オア・フライング』から最初にリリースされたシングル「Try Me」。

 ジョルジャはこの曲について次のように説明する。「(人前に出ると)多くの人たちから意見が寄せられることになって、その中には望んではいない意見もある。でも、そういう意見を変えることや、『それは事実じゃない』ってその人たちに伝えることはできません。この曲では、ただ音楽をリリースしただけなのに、時にそうしてあらゆることに晒されてしまう心境を歌っています」。

私が変わったかって?
変わったことは一つしかない
何をしても足りないということ
私の何が変わったのか、あなたたちに言う必要はない

「Try Me」歌詞抜粋

【2】シティ・ガールからスモール・タウン・ガールへ

 ジョルジャが、デビューアルバムで得た巨大な名声から離れたところで『フォーリング・オア・フライング』を完成させられたのには理由がある。

 自身をシティ・ガールというよりはスモール・タウン・ガールだと分析するジョルジャは、アルバム制作の過程でデビュー以来拠点にしていた大都会ロンドンを離れて、故郷であるウォルソールに帰還。首都からおよそ200キロ離れたイギリス中部の街に拠点を移し、文字通り喧騒から距離を置いたことで、アルバムを完成させることができた。

画像: 【2】シティ・ガールからスモール・タウン・ガールへ

 「地元に戻れたのは助けになりましたね。ここでは、自分の人生を送れるので。自分自身を取り戻したように感じています」とジョルジャはフロントロウ編集部に語る。

 「ロンドンにいたときは、いっぱいいっぱいで、何もかもが過剰すぎると感じていました。なので、地元ではバランスを保ちながら、いろんなことができていますし、雑音からも逃れられています。ここには雑音がないので」

 ジョルジャにとっては、少女時代からメンバーを知っていたデュオ、ダムダム(DAMEDAME*)の2人をアルバムのプロデューサーに迎えたことも、大きな助けになった。彼女たちとの作業では、しばしば拠点を移しながらということもあったというが、折を見て、ウォルソールに戻るようにしていたという。

 「拠点はウォルソールに移したのですが、ダムダムがウォルソールからそう遠くないバーミンガムに住んでいたので、彼女たちのスタジオや家に行って一緒に料理をしたり音楽を作ったりするために、よくバーミンガムへも行っていました。その後で2人がロンドンへ引っ越したので、ロンドンでも少し作業をしましたし、ロンドンを離れたいときにはフランスのパリにも行きました。その後で、私はまたウォルソールに帰ってきたという感じです。アルバムを制作中は頻繁にウォルソールに帰っていたのですが、それは私にとって必要なことでした」。

私をハイにするのはちょっとしたものたち
ここへ来て一緒に夜を過ごさない?
あなたと私にはちょっとしたものがある
それが運命ならいいじゃない
私をハイにするのはちょっとしたものたち

「Little Things」歌詞抜粋

 ジョルジャは続ける。「都市部にいたいという気持ちもあるのですが、家が恋しかったですし、私はシティ・ガールではないので。私はスモール・タウン・ガールで、ゆっくりとしたペースが好きなんです。ここに戻ってこられたことを嬉しく思っています」。

【3】落ちているのか上がっているのか、わからない日々

 アルバムの『フォーリング・オア・フライング』というタイトルのインスピレーションになったのは、文字通り「落ちている(falling)のか上がっている(flying)のか」わからない日々。

 「ここ2〜4年くらいの間、自分が良い状態なのか悪い状態なのか、落ちている(falling)のか上がっている(flying)のか、わからない時期があったんです」とジョルジャは話す。「その中間ということでもなくて、上がったり下がったり、集中していたりしていなかったりという状態でした」。

画像: 【3】落ちているのか上がっているのか、わからない日々

 アルバムのトラックリストは、タイトルを体現するように<フォーリング>と<フライング>の2つのパートに分かれている。ジョルジャによれば、これは意図してのものではなく、偶然ハマった並びだったという。「このアルバムは音楽的には、上がっていった(flying)あとで落ちていく(falling)というものになっています。2つのパートに分けるつもりはなかったのですが、偶然、そうやってピタッとハマったんです」。

あなたがどこにいるかわからないけど 私は眠りにつきたくないの
大切にしてくれているのはわかるけど どうか私に優しくしないで
落ちることも上がることもできる 私には違いがわからない

「Falling or flying」歌詞抜粋

 ちなみに、タイトルトラック「Falling or flying」は特にアルバムの内容を象徴しているというわけではなく、最初に作られた楽曲だったこともあって、このタイトルになったそう。

 「『Falling or flying』という曲名にしたのは、歌詞でそのフレーズを歌っているからです。それで、この曲はこのアルバムをプロデュースしたダムダムと最初に作った曲でもあったので、それもあって『Falling or flying』というタイトルにしたというのもありました」とジョルジャは教えてくれた。

【4】恋愛はあくまで人生の一部という考え

 『フォーリング・オア・フライング』には恋愛を題材にしている楽曲も少なくない。先立ってリリースされたアップビートなシングル「GO GO GO」はその一つで、ジョルジャは次のように歌っている。「私は目を閉じる もう起こさないで/私は繋がりを断つ 永遠に去ることにする」。

私はもう気にかけていないと思う
あなたは秘密をバラすのが好き
あなたのことはよく知らないけど もう知りたいとも思わない

「GO GO GO」歌詞抜粋

 名声とは距離を置いて、故郷ウォルソールで「自分自身を取り戻した」と話したジョルジャ。今は自分らしくいられているという彼女だが、恋愛経験はそうした自己確立の過程においてどのような役割を果たしたのだろうか?

 「どうすればより良い境界線を築けるか、ということを学べたと思います。それから、私が私のためにしてあげたいことは何かを知れるようになったということ。そして、それを音楽に反映できるようになったことですね」とジョルジャは教えてくれた。

画像: 【4】恋愛はあくまで人生の一部という考え

 恋愛経験も音楽に反映しているジョルジャだが、必ずしも、恋愛が楽曲作りのインスピレーションというわけではない。「(恋愛に)『影響を受けた』とは私は言いません」と語る彼女にとって、恋愛というのはあくまで、人生で通る過程の一つに過ぎない。

 「恋愛は私の人生の一部であって、成長の過程のうちですから。人生に起きるあらゆることが、ソングライティングや歌に影響を与えているので」

【5】女性としての成長のすべて

 人生で起きるあらゆることがインスピレーションになっているからこそ、ジョルジャの音楽は多くの人の共感を呼ぶものになっている。だから、無防備になることができた境地で制作された『フォーリング・オア・フライング』を通して感じられるのは、現在26歳のジョルジャの等身大の姿でもある。

画像1: 【5】女性としての成長のすべて

 「私は自分が“女性”に足を踏み入れたように感じながら、このアルバムを作っていました。(2018年にリリースした前作)『ロスト・アンド・ファウンド』を作っていたときはティーンエイジャーで、あのアルバムにはその時期が反映されていましたから。厳密には、“女性になったこと”が『フォーリング・オア・フライング』のインスピレーションになったというわけではないのですが、これが今の私ですし、成長が詰め込まれているという感じです」と、ジョルジャはフロントロウ編集部に語る。

 今の自分自身を詰め込んだ『フォーリング・オア・フライング』で、ジョルジャが特にオーディエンスに伝えたいというメッセージはあるのだろうか? 「私はいつもそうなのですが、聴いてくれる人たちが“何か”を感じてくれたら、それが嬉しいです」。彼女が望むのはそれだけなのだ。

 「それが幸せでも、悲しみでも、過去の記憶を思い出させる何かでもいい。ただ感じて、1人じゃないって思ってほしい。私の望みはそれだけです」

 インタビューの最後に日本のファンへのメッセージをお願いすると、音楽で人と繋がることを望んでいる彼女らしく、「えっと、実はこういうメッセージはあまり得意じゃなくて、だからこそ、音楽で表現しているというのもあるんですけども(笑)」と照れ笑いを浮かべながら、次のようにメッセージをくれた。

 「いつもサポートしてくれてありがとう。本当にまた日本へ行くのが待ちきれません。それから、初めて日本へ行ったときに歓迎してくれてありがとう。日本の皆さんに愛を送ります! 早くまた行きたい!」


<リリース情報>
JORJA SMITH / ジョルジャ・スミス
『falling or flying / フォーリング・オア・フライング』
発売日 2023年9月29日
レーベル FAMM / THE ORCHARD
国内仕様輸入盤 (歌詞対訳+解説付)、輸入盤、配信にてリリース
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画像2: 【5】女性としての成長のすべて

Photo:©️Ivor Alice,©️Romany Francesca,ゲッティイメージズ,スプラッシュ/アフロ

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