イギリスの“ラッド・カルチャー”という文化のなかで人気を博したコメディアンのラッセル・ブランドが、当時16歳を含む女性たちへの性加害で告発された。性暴力を助長させると批判されているラッド・カルチャーとは?

「ラッド・カルチャー」台頭の2000年代に活躍したラッセル・ブランドに性加害告発

 1990年代から2000年代初頭にかけて英国にてメディア主導で認知・支持を広げた「lad culture(ラッド・カルチャー)」。「ラッド」は若い男性を指し、ラッド・カルチャーにおいては、浴びるように飲酒し、酔って乱暴な行動を取り、女性やLGBTQ+、非白人に対して差別的な発言をして、女性をセックスの道具のように扱う男性たちがヒーローとあがめられ称賛された。

 そんな、家父長制(ペイトゥリアルキー)の悪いところを詰め込んだようなラッド・カルチャーのなかでキャリア全盛期を迎えたのが、コメディアンのラッセル・ブランドだった。自称数百人というセックス経験の豊富さをキャラにしていたラッセルは、セックスやドラッグ、政治など社会的にタブーとされるトピックに切り込むジョークで大人気に。英タブロイド紙The Sunで“Shagger of the Year(今年の最優秀ヤリチン)”として複数回“表彰”されたこともある。

画像: ラッセル・ブランド

ラッセル・ブランド

 ケイト・モスやケイティ・ペリー、ジョーダナ・ブリュースター、ピーチズ・ゲルドフなど多くの女性セレブとの交際でも話題を集めたラッセルだが、その裏で、女性たちに性的暴力行為を行なっていたと今月告発された。

 イギリスのThe Sunday Times紙、The Times紙、テレビ局Channel 4の番組『Dispatches』が9月16日に公開した調査では、2006~2013年の間に、当時16歳だった女性を含めて4人の女性に対する性的暴力が報じられた。

 ラッセルの自宅でレイプされてレイプクライシスセンターで治療を受けた女性、ラッセルの自宅で無理やり下着に手を入れられるなどした女性、ラッセルからの性的・身体的・精神的虐待を告発した女性、当時31歳だったラッセルに性行為を強要された当時16歳の女性の証言が報じられたほか、ラッセルが職場で性器を見せるなどのセクシャル・ハラスメントを行なっていたという証言などが含まれた。

画像: ラッセル・ブランドは告発を受けてコメディツアーもキャンセルされた。

ラッセル・ブランドは告発を受けてコメディツアーもキャンセルされた。

 性加害告発を受けて、YouTubeはラッセルの公式アカウントの収益化を停止し、BBCや出版社はラッセルの関わる作品の配信・発売の停止を発表。ラッセルのエージェントとラッセルが関わっていた女性のためのチャリティ団体TREVIは彼との契約を解除した。

 一方、ラッセル自身はすべて「同意」のうえだったと性加害を否定。近年、新型コロナウイルスのパンデミックに関する陰謀論に陶酔していたラッセルは、今回の件は、自分を黙らせるために「主要メディア」が仕組んだ「連携した攻撃」だと主張。「ディープステート(※闇の政府)と企業の癒着」や「メディアの腐敗と検閲」など、陰謀論者の間でよく聞かれる議論を展開した。

イギリス国内で性交同意年齢の引き下げを求める声

 ラッセル・ブランドの件を受けて、イギリス国内では性交同意年齢を改正するべきではないかという議論が起きている。

 イギリスの性交同意年齢は16歳。今回加害を訴えた、当時16歳の女性は、告発後にBBC Radio 4の『Woman’s Hour』に出演し、16歳~18歳は同じ年代の人となら関係を持つことができるように法律を「改正することを考え始める」時期だと発言。「10代のときは間違いを犯す余地が与えられるべきですが、それは同年代の人とするべきです」とコメントした。

 実際に、“性交同意年齢は16歳”というルールだけでは、ずっと年の離れた大人が10代の子どもたちを搾取することを防げない(※イギリスでは2003年に制定された性犯罪法により、教師のような信頼される立場にある者が18歳未満と性行為に及ぶことは違法)。当時16歳の子どもと性行為に及んだラッセルは30代だった。性交同意年齢に達しているとはいえ、16歳は30代を相手に本当に同意できるのだろうか? それは適切なのか? 今回の件はイギリスでの議論に繋がっている。

ラッド・カルチャーと性暴力の関係性、シャーロット・チャーチも警告

 レイプをジョークのネタにして、たくさんの女性とセックスすることを自慢してきたラッセル・ブランドは、ラッド・カルチャーという文化のもともてはやされてきた。しかしそのようなラッド・カルチャーは、女性たち、とくに若い人達が集まる大学キャンパスで深刻な問題につながっていると危惧されている。

 イギリス学生連盟(NUS)が2000人の学生を対象に行なった2014年の調査では、3分の2がレイプや性的暴行に関するジョークを聞いたことがあると回答。同団体NUSが2009~2010年に行なった調査では、一部の女子学生にとって、言葉や非言語によるハラスメント、望まない性的な発言、体を触る行為、性器を見せられる行為が、ほとんど日常的に行われていることがわかり、ハラスメントや暴行など、ほとんどのカテゴリーで加害者は学生であり、ストーカー行為(89%)と暴力行為(73%)の主な加害者は男性だったという。

 女性の権利団体National Alliance of Women’s Organisations(NAWO)のユースメンバー(当時)、リーシー・オーウェンとレベッカ・ハントは2018年の会議で、「ラッド・カルチャーという言葉は、女性差別、セクハラ、虐待といった言葉の隠れ蓑として、あまりにも簡単に使われています。若い男性たちに、自分たちの行動は普通だと思わせて責任から逃れさせる言葉として存在しています」とコメント。

 「ラッド・カルチャーの話題は、私たちの仲間たちの多くには些細なことと映るかもしれません。しかし私たちは、それが最終的には、性的暴力やレイプの常態化というより深刻な問題につながると考えています。ラッド・カルチャーは、他者(特に女性)に対する権力を確立することを前提に構築されており、レイプカルチャーにおいて重要な役割を果たす、支配と服従を反映しているのです」と語り、「ラッド・カルチャーとレイプカルチャーは密接に結びついており、ラッド・カルチャーの問題を解決することで、レイプカルチャーに取り組むことができるのです」とした。

 2022年、イギリス議会では、高等教育におけるラッド・カルチャーと性的不適切行為に関する調査が立ち上がった(※現時点では延期状態)。

 2023年、メディアがラッド・カルチャーをエンターテイメントを報じていた2000年代にその被害を受けたシンガーのシャーロット・チャーチが、ラッド・カルチャーについて英番組『Kathy Burke: Growing Up』で言及。

画像: ラッド・カルチャーと性暴力の関係性、シャーロット・チャーチも警告

 シャーロットが当時15歳だった2022年、彼女が性交同意年齢にあたる16歳になるのをカウントダウンするというサイトが登場。それをイギリスの各メディアが報じ、BBC Radio 1の人気司会者クリス・モイルズに至っては、自分がシャーロットの初体験の相手になるとまで発言。クリスは放送基準委員会から発言を不適切と判断されたが、職を失うことはなかった。

 シャーロットは当時のことを振り返り、「ラッド・カルチャーが(社会を)支配していました。それはとても単純で、恥じることなく、ただそこに存在し、誰もがそれが何であるかを知っていました」とコメント。しかし、当時は「少なくとも公然のもの」だったから今よりある意味で良かったとして、「今は、(社会におけるラッド・カルチャーを容認する空気が)より水面下へと隠れて、より危険になっています」と警鐘を鳴らした。

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