アメリカ文学界を騒がせているレビュースキャンダルを解説。

ケイト・コレイン(Cait Corrain)のデビュー小説が発売中止に

 ランダムハウス傘下のデル・レイ・ブックスが、2024年5月に発売するはずだった、ケイト・コレインのデビュー小説『クラウン・オブ・スターライト(原題:Crown of Starlight)』の発売中止を発表した。

画像: ケイト・コレイン著の『クラウン・オブ・スターライト』

ケイト・コレイン著の『クラウン・オブ・スターライト』

 出版社は12月12日にXにて声明を発表し、「著者のケイト・コレインをめぐる議論が続いていることを承知しております。『CROWN OF STARLIGHT』は2024年の出版予定から外れました」とコメント。

 さらに同日、コレイン氏の代理人であるレベッカ・ポドスがXにて「ケイトと私のパートナーシップは終わりました。現在私はこの難しい状況への対応を進めていますが、先週の出来事で直接影響を受けた方々の忍耐強さに深く感謝します」とポストし、コレイン氏との契約を解除したことを認めた。

シーラン・ジェイ・ジャオが著者の「レビューボム黒歴史」を掘り起こす

 ケイト・コレインの小説家デビューの夢が壊れはじめたのは、その前の週にさかのぼる。

画像: ケイト・コレイン氏 twitter.com

ケイト・コレイン氏

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 12月6日、『鋼鉄紅女』がニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーとなったカナダ人著者シーラン・ジェイ・ジャオがXで突然こうポストした。

 「デビューを迎える作家であるあなた、Goodreadsに偽アカウントをたくさん作ってほかのデビュー作家に一つ星のレビューボム(※純粋のレビューではなく相手側の価値をおとしめるために戦略的に行なうレビュー行為)をするなら、せめて、同じアカウントから自分の本をあらゆるリストで高評価するというバレバレな行為しないでもらえますか?この人のキャリアが始まる前に台無しにならないように、証拠をリークするつもりはありませんが、もしこれ以上同じようなことをしたら...行動を起こします」

 Goodreadsは世界最大の読書家のためのサイトで、本をレビューしておすすめしたりすることができる。ジャオ氏は、とあるデビュー作家がクリエイティブ界では卑劣な行為とされるレビューボムを行なっているという疑惑を訴えたのだ。

 さらにジャオ氏は最後にもう一つ爆弾を落とした。この著者は、有色人種の著者を多く狙ってレビューボム行為を行ない、それをやるときには有色人種の読者を装っていたという。

犯人はケイト・コレイン氏の“知人”...?

  ジャオ氏のポストを受けて、書籍界では犯人捜しがスタート。

 そんななか、犯人の疑惑が高まってきたコレイン氏が、2024年にデビューする作家たちで立ち上げていたチャットのなかで、騒動の中心人物は自分であることを告白。そして、レビューボム行為を行なっていたのは自分の知人だったと話し、その知人との会話のやりとりをスクリーンショットで共有した。

 しかしコレイン氏は、ほかの作家たちからもっと証拠を求められると「私が何を共有してもこれ以上ここでは話が進まない」と言ってチャットを退出。

 そして12月7日、コレイン氏やその周辺が騒動を悪化させるのを当初は静観していたジャオ氏が、Xに30ページ以上に及ぶ“証拠文書”をポストした。

 そこには、Goodreadsでコレイン氏のフェイクアカウントだと推測された複数のアカウントが、同じ出版社に属する有色人種の著者たちの作品などに低評価をつけて、「デル・レイ・ブックスはこんな本に50万ドルも出したなんて信じられない」や「何が起こっているかついていくのが大変だった」などと書き込む様子が事細かく記録されていた。

 一方でこれらのアカウントは、コレイン氏の本には星5つの高評価をつけて「マジで天才」や「この本が大好きすぎてほかの本がかすんで見えちゃうから、この本を読んだことを後悔してる」と書き込んでいた。 

ケイト・コレインが長文の謝罪声明を発表

 12月12日、ケイト・コレインがXに長文の声明を発表。

画像: twitter.com
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 「精神崩壊を経験」して薬の服用を続けるなか、Goodreadsにて持っていた合計8つのアカウントを使って「自分の本の評価を上げ、ほかのデビュー作家の評価を下げ、意地悪なものからひどい罵倒までを含むレビューを書き残しました」と告白。

 そしてレビュー行為をしていたという“知人”は「存在もしない」と認め、この嘘によって、自分の代理人や広報チーム、友人たちを裏切ったことを悔やんだ。

 自身がターゲットにした作家たちには、「自分があなたたちにした行為の責任を取ります。言葉では言い表せないほど申し訳なく思っています。何を言ってもこの行ないは消せることではありません」と謝罪して、全員に直接コンタクトを取ると約束。

 そして最後に、精神状態の治療のために施設に入所するため当分の間は表舞台から去ると明かした。

 この声明に対して、告発者のジャオ氏は、コレイン氏が有色人種の作家を多く狙っていたことに触れて、「メンタルヘルスの薬せいで人種差別主義者になりはしないですよ」と指摘。「これは責任を認めているのではなく、同情を買おうとしているだけです」と、コレイン氏の謝罪を評価しなかった。

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