編集部のアンテナがビビビッと反応した映画・映像作品を、独断と偏見込みで紹介する連載企画『編集部の推し映画深読みレビュー』。第一弾は全女子必見!ハチャメチャだけど元気になれる、ガールパワー全開のバトル・アクションムービー『ポライト・ソサエティ』です。(Text:kagura)

 2023年のサンダンス映画祭で絶賛され、バラク・オバマ元米国大統領の2023年お気に入り映画にも選出された話題作。​​切れ味抜群のアクションシーンやカラフルでスタイリッシュな映像に心躍らされると同時に、自分らしく生きることを諦めない全ての女子に熱いエールを送る痛快エンターテイメントを、FRONTROWならではの独自の視点でレビュー。

『ポライト・ソサエティ』あらすじ

ロンドンで暮らすパキスタン系の高校生リア・カーン(プリヤ・カンサラ)は、将来スタントウーマンになるために日々練習に励んでいた。姉のリーナ(リトゥ・アーリヤ)だけが応援してくれていたが、学校では変わり者扱いされ、両親もリアの将来を心配していた。それもそのはず、リーナは夢を追って芸術大学に進学したものの、中退して今は実家暮らしをしていたのだった。

 ある日、リーナは同じムスリム系のリッチでハンサムな男性・サリム(アクシャイ・カンナ)と恋に落ち、トントン拍子で結婚することに。サリムとその母親に不信感を抱いたリアは、親友たちとこっそり身辺調査を進めるうちに、この結婚の裏には驚くべき陰謀が隠されていることに気づく。リアは大切な姉を救うため、式当日に“花嫁奪還作戦”を実行するのだが…。

画像: 『ポライト・ソサエティ』あらすじ

『ポライト・ソサエティ』が愛おしすぎる理由

とにかく愛おしくてギューッと強く抱きしめてあげたくなるような作品で、筆者の「今年のベスト映画」の上位へ速攻ランクイン済み!(生涯好きな映画ランキングにもいれたくらい)『ポライト・ソサエティ』は、なぜそこまで「愛すべき映画」なのだろうか?
本作中で文字通り大暴れするのは、全員女性キャラ。しかも主人公リアを中心に、揃いも揃ってクセが強すぎで、駄目なところや未熟なところも沢山あるけれど、全員とグループハグしたいくらい愛おしい!

リアがスタントウーマンになるという夢を持ち続けているのは、破天荒だけど自分らしく生きようとしていた姉の強い影響だった。だからこそ、一番身近なロールモデルである姉がアーティストになる夢を諦め、現実逃避するように結婚を決めた姿を見てリアはいらだち、こう言い放つ。

「人生を捨てて金持ちと結婚なんて古臭くない?ジェーン・オースティンの小説みたい」

わかる、わかるよ!と声をかけてあげたくなるような、まだ「何者か」になれていないティーン女子のヒリヒリとした焦燥感。筆者だけでなく、自分らしく生きたいと願う人は皆嫌でも共感してしまうはず…。

画像: 『ポライト・ソサエティ』が愛おしすぎる理由

そして切羽詰まったリアは結婚話をぶち壊すために、とんでもない行動にでて大ひんしゅくを買ってしまうし、遂には親友たちにも呆れられてしまう。ダメダメなリアだけど、周囲の人を自然と巻きこんでいく魅力を武器に、最後まで諦めずに見事勝利を勝ち取る。そんなリアの姿に、スカッと爽快な気分にさせられ強烈に勇気づけられる。駄目な自分でも、一度失敗しても大丈夫!

途中仲違いしながらも、最終的には助けてくれる友人たちの存在も胸アツで愛おしい。一番のお気に入りキャラは、最初は敵キャラとして登場するが、父親との関係で悩んでいることが明らかになり、ラストは味方になって大奮闘してくれるコヴァックス。やっぱり何歳になっても、自分の味方になってくれる同性の友人がいる心強さは圧倒的。

他にも、黒幕の”とある女性キャラ”の不幸な過去や世代間憎悪、白人社会に馴染もうとしつつも同胞からのピアプレッシャーに板挟みになる母などなど、背景は違っていても「それわかるわ〜」という悩みを抱えた女性たちが次々と登場する。でもみんな最後には「大好きだよー!」と言ってあげたくなる愛されキャラとして描かれている。

女性に全力でエール!溢れるポジティブ&エンパワリング

そんな女性たちがムスリム系として枠にはまらずに奮闘したり、鮮やかな伝統衣装を身に包みカンフーファイトに挑んだり、それぞれ悩みながらも活躍する姿が「やっぱ女子って最高!明日からも頑張るか!」と、とにかくハッピーな気分にさせてくれる。まさに女性のための、最高のエンパワーメント映画!

画像: 女性に全力でエール!溢れるポジティブ&エンパワリング

「そもそも男って何なんですか。経済もオゾン層も熱帯雨林も男が壊してませんか?まるで全世界が男を中心にまわっているかのようです。そろそろ女を中心に回るべきでは?」 リアは姉の結婚と自分の将来の不安から、憧れのスタントウーマンに向けてこうメールを送る。

男性陣は完全に蚊帳の外で、型破りでアナーキーな女性たちが自らのために戦うという話ではあるけれど、必要以上に女性でいることを悲観したり、男性を貶めたりするようなフェミニズム映画ではなく、軽快でポジティブな気持ちになれる作品になっているのでご心配なく。

カオスだけどスタイリッシュな、新しいジャンルミックス

更に本作の構造的な魅力は、アクション&ムスリム女子&イギリス&姉妹愛といった、一見収集がつかなそうなジャンルをマッシュアップして新ジャンルを切り開いている点。

こう聞くとなんでもありのごちゃ混ぜのB級映画?と思われるかもしれないが、脚本・キャスト・撮影・音楽までが完璧でセンス良く仕上がっていて、全てのパーツがシームレスに織り合わされ、“愛すべき映画”として非の打ち所がないほどに成立していることに感動を覚える。そのおかげで中盤のトンデモ展開でも安定感があり、爆笑しながら安心して楽しめることができる内容になっている。

画像: カオスだけどスタイリッシュな、新しいジャンルミックス

特にお気に入りのシーンは、映画『卒業』を思い起こさせるような姉妹二人のラストシーン。決してビターな終わり方にはならず、一緒に踊りだしたくなるようなガールパワー全開のラストを迎えるので最後まで注目してほしい。

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『ポライト・ソサエティ』
監督・脚本:ニダ・マンズール
製作:ティム・ビーヴァン『レ・ミゼラブル』『博士と彼女のセオリ ー』、エリック・フェルナー『エリザベス』『ブリジット・ジョーンズの日記』
キャスト:プリヤ・カンサラ「ブリジャートン家」、リトゥ・アリヤ「アンブレラ・アカデミー」『バービー』
配給:トランスフォーマー
後援:ブリティッシュ・カウンシル
2023年/104分/シネマスコープ/5.1ch/カラー
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8月23日(金)より、新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャイン池袋、ヒューマントラストシネマ渋谷などでロードショースタート!

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