400トンの札束が地下坑道に捨てられていた実話を映画にした『ハルバーシュタットの埋蔵金』。9月4日の公開を前に、その紙幣そのものを素材にしたオープニング映像が解禁された。(フロントロウ編集部)
役目を終えた紙幣を、そのままタイトルに使った
1990年7月1日、東西ドイツの通貨統合によって東ドイツマルク紙幣は役割を終えた。行き先はハルバーシュタット郊外の地下坑道で、そこに大量廃棄された。映画『ハルバーシュタットの埋蔵金』が描くのは、その札束をめぐって旧東ドイツの市民たちが動きだす顛末だ。
今回解禁されたオープニングのタイトル・デザインは、その「捨てられた側」の紙幣を素材にしている。今や紙幣コレクターの間でしか流通していない東ドイツマルク札の図案がコラージュされ、細部を万華鏡を通して見たような幾何学模様がカラフルに回転していく。

流れるのは、カナダのブルーグラス/フォークロック・バンド、デッド・サウスの代表曲“In hell I’ll be in good company”。「地獄に墜ちても退屈はしないさ」という意味のタイトルを持つ曲で、ネイト・ヒルトンのしゃがれ声、哀愁を帯びた口笛、軽快なバンジョー、そしてチェロを打楽器のように叩くリズムが重なる。盗みの話にこれ以上ないほど似合っている。
紙幣の絵柄が、そのまま消えた国の自画像になっている
画面に流れる図案を並べると、東ドイツという国が何を誇りにしていたかがそのまま見えてくる。10マルク紙幣の裏面は原子力発電所の中央制御室と女性エンジニア、20マルク紙幣の裏面は学校と下校中の子供たち、50マルク紙幣の裏面は石油精製所のパイプラインと煙突。100マルク紙幣の裏面には共和国宮殿とベルリン・テレビ塔が描かれている。

200マルク紙幣は表面に家族とマンション、裏面に幼稚園の先生と子供たち、500マルク紙幣の表面は東ドイツの国章。ただしこの2種は実際に印刷されながら、通貨統合にともなって国内で流通することがなかった。誰の手にも渡らないまま役目を終えた紙幣ということになる。
人物の肖像も次々に立体的にコラージュされていく。5マルク紙幣のトーマス・ミュンツァーとアレクサンダー・フォン・フンボルト、10マルク紙幣のフリードリヒ・フォン・シラー、50マルク紙幣のフリードリヒ・エンゲルス、そして100マルク紙幣のカール・マルクス。デザインを手がけたのはフィルムグラフィック社のオリー・ペータースとスヴェン・ツューゲで、ツューゲは『インクレディブル・ハルク』と『スピード・レーサー』(ともに2008年)のタイトル制作にも参加している。

ちなみに当時の為替レート(1西ドイツマルク=約90円)で試算すると、2対1で換算された場合の100東ドイツマルクは約4,500円に相当した。地下に消えたのは、そういう単位の紙束が400トンぶんだった。
「わたしではなく、わたしたちが」
あわせて著名人・専門家のコメントも解禁された。ドイツ出身の翻訳家・通訳・文筆業のマライ・メントラインは「歓喜と驚きの裏でひそかに始まっていた、マネー&資源の争奪戦」と本作を要約し、「ドイツ的にクソマジメな集団大泥棒活劇が、いま始まる!」と結んでいる。字幕監修の吉川美奈子は「これが史実だなんてヤバすぎる」と書いた。
東京女子大学で歴史文化を専攻する柳原伸洋が注目したのは、俳優ではなく車のほうだ。「共演「車」もトラバントやバルカスといった東ドイツ車たち」と挙げ、「資本主義の未来は、本当にこれで良いのか」という問いが21世紀に響くと評している。
映画ジャーナリストの金原由佳は、主演のザンドラ・ヒュラーから聞いた言葉を紹介している。ヒュラーは「旧東ドイツで育った人に根付く姿勢は、わたしではなく、わたしたちが、と考えること」と静かに語ったという。400トンの紙幣を前にした市民たちの行動原理が、その一言に凝縮されている。
なお9月5日には新宿ピカデリーで公開記念トークイベントが開催され、11時30分の回の上映終了後にマライ・メントラインと吉川美奈子が登壇する。映画は9月4日より新宿ピカデリーほか全国で公開。
















