巨大な「牢獄」の絵
これまでにも数多くのアーティストたちが作品を発表してきた、ダウンタウンのヒューストン・ストリートとバウリーストリートの交差点にある「バウリー壁画」と呼ばれるストリートアートの名所に登場したのは、全長20メートルにおよぶ巨大な牢獄の絵。
日本で数を数えるときに使う「正の字」の海外版と言われる5本1セットの棒線「タリー(Tally)」を刑務所の窓の鉄格子に見立てた作品の右上には、ある女性の姿が見える。
牢獄に囚われた女性の正体
この女性の正体は、トルコを拠点にジャーナリスト兼アーティストとして活躍するゼフラ・ドアン(Zehra Doğan)。2017年にある1枚の絵を描き、SNS上で発表したことが原因でトルコ政府に拘束され、2年9カ月と22日間の実刑判決を受けた。
以前からトルコ国内メディアが報じないクルド人勢力とトルコ治安部隊の対立の現状についてネット上で情報発信していたゼフラが描いたのは、その前年に発刊されたある新聞に掲載されていた、トルコとシリアの国境地域「ヌサイビン地区」の写真を元にした作品。
トルコ治安部隊により破壊され、制圧された町の様子を描いた彼女の絵は、反体制派のジャーナリストやメディアの取り締まりを強化していたトルコ政府の目に止まり、問題視されることに。
2017年7月、ゼフラはこの絵を公開した罪と反政府的活動に関与した疑いで、カフェに居たところを逮捕された。
バンクシーの壁画に描かれた「タリー」の線1本1本は、ゼフラが刑務所で過ごすことを命じられた日数を表しており、絵の右下には「Free Zehra Doğan(ゼフラ・ドアンを開放せよ)」というメッセージも記されている。
今週、壁画の公開に合わせて自身のインスタグラムにゼフラの絵とその元となった写真を投稿したバンクシーは、「1年前、ゼフラ・ドアンは新聞で目にした写真をもとに水彩画を描いたことが原因で投獄されました。彼女の絵をリグラム(※)し、トルコのエルドアン大統領の名前をタグ付けすることで、この不正に抗議しましょう」とフォロワーたちに呼びかけた。
※インスタグラム上でほかのアカウントの画像をシェアし拡散すること。