待望のメジャーデビューアルバム『インヴェイジョン・オブ・プライバシー』が4月21日付けの米アルバムチャートで1位を獲得する見込みのラッパーのカーディ・B(25)。「テイラー・スウィフトからチャートを奪った新人」として注目されてから、一気に“時の人”と化している彼女。しかしここに来るまでには、波乱万丈な道のりがあった――。

すでに彼女のファンになっている人や、「なんでそんなに人気なの? 」と疑問に思っている人のために、カーディの波乱万丈なサクセスストーリーを特集します。

時代が待っていた「破天荒シンデレラ」

 発売早々アルバムのタイトルがツイッターでワールドトレンド入りし、関連ツイートの総数が260万件以上にも膨れ上がるなど、とにかくメディアでその名前を目にしない日は1日もないほど、カーディは今、“時の人”となっている。

 身長157㎝という小柄な身体から繰り出される、むき出しで感情的、ときに挑戦的で反逆的なリリックに心を揺さぶられると同時に、彼女の誰にも媚びない、つねに自然体な姿は、音楽業界に溢れる“創り込まれた”アーティスト像に飽きてしまった人々の目に、とても新鮮に映る。

画像1: 時代が待っていた「破天荒シンデレラ」

 そんなカーディが、現在の境地に辿りつくまでに歩んできた道のりには、さまざまな紆余曲折が。

 白馬の王子様に手を引いてもらうのではなく、自らの力で道を切り開いた「破天荒シンデレラ」のライフストーリーを紐解いてみよう。


「普通じゃつまらない」が裏目に いじめに苦しんだ思春期

 ニューヨーク・マンハッタンでドミニカ人の父とトリニダード・トバゴ人の母のもとに生まれたカーディは、共働きだった両親と祖母の家を行き来しながら幼少期を過ごした。

 6年生でブロンクスにあるラテン系移民が多く暮らす地区ハイブリッジに引っ越した彼女は、転校先の学校でナメられてはいけないと思い、気合いの入った奇抜なファッションで登校することに。ピンクのスカートに、袖にファーのついたジャケットという、まるで当時流行っていたディズニー・チャンネルのティーン向け番組から飛び出してきたかのようなド派手な格好で教室に現れたカーディを、同級生たちは白い目で見たという。

画像: 13歳の頃のカーディ。©Cardi B/ Instagram www.instagram.com

13歳の頃のカーディ。©Cardi B/ Instagram

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 「みんな、アタシを頭のおかしいやつみたいに見てた。だってみんなは、そろいもそろって同じような普通の不良っぽい服装だったんだもん。それを見て、アタシは本当に悲しくなったね」と、カーディは米i-Dとのインタビューで当時の記憶に思いを馳せた。

 結局、「普通じゃつまらない」と人と違うことをしたカーディの気合いは裏目に。生徒たちからのいじめの標的となってしまう。「6年生で本当にひどくやられたおかげで、アタシは変わった。中学や高校では、自分がどれだけ強くても意味ないし、クソみたいないじめにどんなに耐えてたって意味はない。仲間に入れなかったら何者でもなくなる」。そんな暗黙のルールに従い、カーディは16歳の頃には周囲に馴染もうとギャングに加入していた事実も明かしている。

「ブロンクスにはほかとは違うカルチャーがある。カリブ系の人種も多いしね。貧しかったから、何も自慢できることは無いかな。アタシが知ってたのは、暴力とギャングたちの関係性と、何とかそこで生き抜くってことだけ。アタシがラップしてるのは大抵そういうこと」―ブロンクスでの幼少期を振り返って


「自分で自分を救うため」ストリッパーに

 音楽系の高校へと進学したカーディは、その後、マンハッタンの大学へ。歴史の先生になるという夢を抱き、フランス語・西洋文明・アメリカ政治を専攻するも、学費と生活費の両方を賄うことが困難に。貧しい両親に支援を頼むことなどできるはずもなく、そのまま退学してしまう。

 トライベッカにある小さなスーパーでレジ打ちの仕事を始めたが、朝から晩まで働いても週に250ドル(約26,000円)程度にしかならない低賃金にウンザリ。やがて度重なる遅刻や、仲の良い同僚が店の商品を購入する際にこっそり大幅なディスカウントをしてあげていたことがバレて数カ月でクビになった。

画像: 20歳のころの写真を公開し、「もう二度とあの頃のアタシには戻さないで。あの子はタチが悪くて不快で惨めで汚らしい女の子だった」とカーディ。©Cardi B/ Instagram www.instagram.com

20歳のころの写真を公開し、「もう二度とあの頃のアタシには戻さないで。あの子はタチが悪くて不快で惨めで汚らしい女の子だった」とカーディ。©Cardi B/ Instagram

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 時期を同じくして、当時同棲していた恋人からのDVに悩んでいたカーディ。自立するお金が無いがために逃げ出すことができなかった彼女は、店をクビになった際に店主から言われた「キミなら顔もカワイイし、良い体してるんだから、そこの通りを渡ったところにあるストリップクラブで働いてみたら? 」という言葉に突き動かされ、18歳でストリップダンサーの道へと足を踏み入れることを決意する。

「若い子たちはアタシと同じような道を選ぶべきじゃないと思ってるし、『オッケー、じゃストリッパーになっちゃおう』なんて軽く考えて欲しくない。でもこれだけは言える。いつも目標だけはハッキリさせておくこと。そして、失敗した場合の代替策も考えておくこと。だって何をするにしても、努力は必要だから! 」―自分のようになりたいという若い女性にアドバイスをおくって


野心を抱き整形手術を受ける

 人生初のストリップダンスについて「最初は、恥ずかしいし、なんだか頭の中で両親の声が聞こえるような気がして…。とにかく気持ち悪かった」と振り返っているカーディ。できればすぐに辞めたかったが、「ほかにお金を稼ぐ方法が無い」と仕方なく腹を括った。しばらく続けているうちに何も気にならなくなり、少しずつギャラの額も増え、暴力的で浮気を繰り返す恋人の支配下から脱出することに成功。

画像: カーディが公開したストリッパー時代の写真。©instagram/Cardi B

カーディが公開したストリッパー時代の写真。©instagram/Cardi B

 貯金残高が増えるにつれ、ストリッパーとしてもっと成功したいと野心を抱くようになったカーディは、もっと肉感的なボディが必要だと考え、21歳のときに豊尻術を受けることに。

 手術代をケチってもぐりの美容整形外科医に頼んだところ、とんでもない目に遭ったそうで、「麻酔もしてもらえなかったの。クレイジーな痛みで目まいがしたし、5日間ぐらいお尻から液体が漏れていたわ」と米GQ誌とのインタビューで語っている。

 そんな努力の甲斐もあり、23歳になる頃には貯金額が3万5,000ドル(約375万円)に到達。結局は中退してしまうこととなったが、ストリップで稼いだ資金をもとに大学への復学も果たしている。

画像: ©Cardi B/ Instagram www.instagram.com

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「みんなアタシが元ストリッパーだった過去を恥じるべきだって思ってるみたいだけど、絶対そんなことしない。たくさんお金を稼いだし、すごく楽しかったし、いろんなものを見せてもらった。人ってどういうものなのか、男ってどんな生き物なのか、ハングリー精神や情熱、野心を持つことを教わったわ」—ストリッパーとして働いていたことを少しも恥じていないと語って


ラップに光を見出し、ストリップを卒業

 ストリッパーとして働くかたわら、2013年頃からインスタグラムなどを通じて過激でセクシーな写真や動画などを公開するようになったカーディ。削除処置や炎上を顧みない強気で刺激的な投稿を繰り返す彼女のアカウントは、若者たちの間でじわじわと話題となり、やがてフォロワーの数は数十万人に及ぶようになった。

 一躍ネットセレブの仲間入りを果たした彼女は、これを踏み台に、ヒップホップ/R&B系の業界人の毎日を追った人気リアリティ番組『ラブ&ヒップホップ:ニューヨーク』への出演オファーをゲット。2015年末からスタートしたシーズン6にレギュラー出演し、知名度を全米へと拡大した。 

画像: 『ラブ&ヒップホップ:ニューヨーク』のワンシーン。©Cardi B/ Instagram www.instagram.com

『ラブ&ヒップホップ:ニューヨーク』のワンシーン。©Cardi B/ Instagram

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 同番組に出演する少し前からラッパーとしての活動を本格的にスタートさせていたカーディは、この頃、人気に少しずつ陰りが見え始めていたストリッパーの仕事にあっさりと見切りをつけ、ラッパーとしての成長に全力投球するようになる。

「最初の頃は、(ラップを披露した動画が)ユーチューブで視聴されて、ちょっとでもお金になればいいかなくらいに思ってた。でも、今はアーティストになりたい。短期間の収入源としてなんかじゃなく、ちゃんと正真正銘のアーティストになりたい」―ラッパーとしてやっていく覚悟を決めたと話して


メジャーデビュー曲が歴史的快挙 

先輩ラッパーたちをお手本に独学で磨き上げたラップのスキルを武器に、リミックス曲への参加やカバー曲を通じて修行を積んで2016年と2017年に自主制作のミックステープを発表。そして、2017年6月年、カーディは、彼女の人生を一変させることとなった運命のメジャーデビュー・シングル「ボダック・イエロー」をリリースした。

画像2: 時代が待っていた「破天荒シンデレラ」

 発売初週、ビルボード・シングル・チャートの85位にランクインした同曲は、カリブ系のバックグラウンドを持つカーディの独特なアクセントが効いた絶妙なフロウや、ストリッパー時代に培った「成り上がり魂」を感じさる挑発的で刺激的な歌詞がウケて、みるみる人気が拡散。じわじわとランクを上げ、3か月後の9月には、世界一稼ぐシンガーの名を欲しいままにするシンガーのテイラー・スウィフトの新曲をおさえ、見事チャート1位を獲得した。

わたしとやり合いたくたってあんたにはできない/レッドソールのこの靴(※ルブタンのこと)高いのよ/ブラッドの靴よ(※カーディが所属していたギャング「Bloods」にかかっている)/店に行っても選ばなくていい、両方買うわ/すぐに男を切り捨てる、だからまったりしないで/もう踊らない/お金ならあるから/もう踊らなくていい/お金を動かしてるから
ー「ボダック・イエロー」より

 「私はケチだから、ほかのアーティストにお金を払って曲を作ってもらうなんてまっぴら」というカーディは、楽曲のほとんどを自作しており、「ボダック・イエロー」も彼女が単独制作したもの。

 レコード会社の後ろ盾もなく、ヒップホップ界では必須とも言われる男性アーティストとのコラボもせずに、1人の女性ラッパーが全米チャートのトップに輝いたのは、まさに歴史的快挙と言える偉業。1998年にシンガーのローリン・ヒルが成し遂げて以来、じつに19年ぶりのことだった。

「21歳の頃につき合っていた男に『どうせお前なんか40になってもストリップクラブで働いてるさ』って言われたわ。ラッパーとして成功して彼と再会したときに『キミを誇りに思う』なんて言われたときは、最高にスカっとしたよね~! 」―自分を見下していた男性を見返した時の満足感を語って


爆笑キャラでもブレイク 

カーディの人気に火をつけたのは、飾らないキャラクターの貢献も大きい。
 ストレートに感情を吐き出すのはリリックだけでなくインタビューの場でもそうで、口を開くたびに爆笑をひき起こす発言を連発。そんなカーディに、「キャラが最高すぎる!」とハマる人が続出している。

カーディ・B語録
「有名人やお金持ちと遊んできて、学んだことがあるの。あのね、どんなにお金もちになっても、どんなに権力を持っても、どんなに有名になっても、人間は、必ずスマホの充電器とライターを盗む」ーインスタグラム・ライヴにて
「(25歳の誕生日に彼氏がツアー中だったから)今日はベッドイン無しかって寂しかった。まぁ結局彼がいてもベッドインは無しだったんだけど。生理きちゃったから」—米Billboard誌のインタビューにて
「音楽に対する情熱はあるわ。ただ同時に、お金と家賃や光熱費の支払いをすることに対する情熱もあるの」ーThe Fader誌のインタビューにて

画像3: 時代が待っていた「破天荒シンデレラ」

フルアルバムをリリース&妊娠を発表

 2017年10月のライブ中に恋人で人気ラップグループ「ミーゴス(Migos)」の一員であるオフセットから8カラットの巨大ダイヤがついた婚約指輪を渡されて公開プロポーズされたカーディ。

画像: 2人はメジャーデビュー以前の楽曲でのコラボがキッカケで交際をスタート。©Cardi B/ Instagram www.instagram.com

2人はメジャーデビュー以前の楽曲でのコラボがキッカケで交際をスタート。©Cardi B/ Instagram

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 彼との婚約でプライベートも順風満帆の彼女は、音楽界最高峰のアワードであるグラミー賞の「最優秀ラップ楽曲賞」と「最優秀ラップ・パフォーマンス賞」の2部門にノミネートを果たすなど新人アーティストとしては異例の功績を残す。

画像: グラミー賞のステージでシンガーのブルーノ・マーズとコラボ曲「フィネス」を初披露。

グラミー賞のステージでシンガーのブルーノ・マーズとコラボ曲「フィネス」を初披露。

 そして、この春、満を持してデビューアルバムの『インヴェイジョン・オブ・プライバシー』を発表。豪華アーティストとのコラボ曲も多数収められた同作は、発売早々、異例のヒットを記録している。

 さらに、カーディは同作の発売日翌日に出演した高視聴率番組の『サタデー・ナイト・ライブ!』の放送中に、あえてお腹のふくらみが露わになるドレスを着用して登場。以前からウワサされていたオフセットとの第1子妊娠説を何とも粋な方法で認め、お茶の間の話題をさらった。

画像: 人気デザイナー、クリスチャン・シリアーノ(Christian Siriano)の真っ白なドレスで満面の笑みを浮かべるカーディ。観客や視聴者たちだけでなく、セレブたちからも祝福のメッセージが多数寄せられた。

人気デザイナー、クリスチャン・シリアーノ(Christian Siriano)の真っ白なドレスで満面の笑みを浮かべるカーディ。観客や視聴者たちだけでなく、セレブたちからも祝福のメッセージが多数寄せられた。

「ネット上でたくさんの女性がアタシの妊娠について『かわいそうに。アンタのキャリアはもう終わり』なんて言ってるのを見かけるけど、どうしてキャリアか赤ちゃんか、どちらかを選ばなくちゃならないの? どうして両方手に入れちゃいけないの? アタシは両方欲しいけど! 」
―人気絶頂にして妊娠したことに「迷いはないのか?」との世間からの声に答えて

 ラッパーとしての大成功に加え、7月には待望のベビーが誕生し、母となるカーディ。公私ともに、また新たな成長を遂げようとしている彼女のこれまでの人生の集大成といえる渾身のアルバム『インヴェイジョン・オブ・プライバシー』は必聴! 

デビューアルバム『Invasion of Privacy』
配信中
https://Japan.lnk.to/cardiB_IoPFr

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